原作前日常編
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×××視点
物心ついた時、オレの家は既に貧乏だった。
親父もお袋も毎日寝る間も惜しんで働いていたが、妹が病弱でその診察代や薬代に稼いだ殆どの金が消えていく。妹が好きで病弱になった訳ではないと分かっていても、両親の手伝いをしながら何度遊びまわる同年代の奴等を見たことか。
妹は少し不思議な子だった。
家から一歩も出ていないのに町の向こうの港の話を知っていたり、果てには海の向こうの何処かの街の情景さえ語れたりする。疲れ果てて帰ってきて妹のそんな話を聞く事を、お袋は妄想も程々にしなさいと言っていたが、親父はいつも真剣に聞いてやっていた。多分昼間は働いていて構ってやれない分の、罪滅ぼしだったのだろう。
オレは妹の話の内容より、それを話す時の妹が元気そうである事が嬉しかったのを覚えている。
妹が年頃になった時、親父が巣を破壊された鳥に襲われ転落死という事故で死んだ。葬式も碌に出してやれない程貧乏だった家に、事故の総監督だった領主から僅かな金が入った。
家にその僅かな金を持ってきた領主が、妹を息子の妻へと望んだ。
妹は兄のオレから見ても結構な美人に育っていたと思う。小さい頃から寝たきりで殆ど日を浴びることもなかったから肌は白く、栄養が足りなくて細い手足。それは不健康なのと苦労を知らないだけだと近所の者からは陰口を叩かれていたけれど、美人である事だけは確かだった。
領主の申し出にお袋は喜んだ。領主へ嫁げば少なくとも妹の衣食住は保障される。病弱だった妹の将来を一番心配していたのはお袋だ。
けれども妹はその申し出を断った。自分は次期領主の妻にも愛人にも釣り合わないと。
領主は断られるなんて微塵たりとも思っていなかったらしく、貧乏人の癖に断るとは何事かと怒って帰っていった。
怒ったのは領主だけではなくお袋もで、こんないい待遇に文句を言うなとか、育ててやった恩を忘れたのかと、何度も何度も妹を責め立てた。妹はお袋へ何かを言っていたようだが、オレは聞いていない。
次の日にはお袋は針子の仕事を失い、オレは漁師の手伝いの仕事を止めざるを得なくなった。妹は自分のせいだと泣いていた。
それでも三人何とか生活をしていたのだが、ある日お袋が妹だけを連れて出掛け、一晩して泣きながら帰ってきた。
何かあったのかと心配したがお袋は泣きながら笑うだけで、その後は妹をなじることも無くなった。
暫くしてお袋も死んだ。最期の言葉は『お前だけでも逃げなさい』
病死だったのだと思う。口から鳥の羽を吐き出す治療方法さえ分からない奇病だった。
物心ついた時、オレの家は既に貧乏だった。
親父もお袋も毎日寝る間も惜しんで働いていたが、妹が病弱でその診察代や薬代に稼いだ殆どの金が消えていく。妹が好きで病弱になった訳ではないと分かっていても、両親の手伝いをしながら何度遊びまわる同年代の奴等を見たことか。
妹は少し不思議な子だった。
家から一歩も出ていないのに町の向こうの港の話を知っていたり、果てには海の向こうの何処かの街の情景さえ語れたりする。疲れ果てて帰ってきて妹のそんな話を聞く事を、お袋は妄想も程々にしなさいと言っていたが、親父はいつも真剣に聞いてやっていた。多分昼間は働いていて構ってやれない分の、罪滅ぼしだったのだろう。
オレは妹の話の内容より、それを話す時の妹が元気そうである事が嬉しかったのを覚えている。
妹が年頃になった時、親父が巣を破壊された鳥に襲われ転落死という事故で死んだ。葬式も碌に出してやれない程貧乏だった家に、事故の総監督だった領主から僅かな金が入った。
家にその僅かな金を持ってきた領主が、妹を息子の妻へと望んだ。
妹は兄のオレから見ても結構な美人に育っていたと思う。小さい頃から寝たきりで殆ど日を浴びることもなかったから肌は白く、栄養が足りなくて細い手足。それは不健康なのと苦労を知らないだけだと近所の者からは陰口を叩かれていたけれど、美人である事だけは確かだった。
領主の申し出にお袋は喜んだ。領主へ嫁げば少なくとも妹の衣食住は保障される。病弱だった妹の将来を一番心配していたのはお袋だ。
けれども妹はその申し出を断った。自分は次期領主の妻にも愛人にも釣り合わないと。
領主は断られるなんて微塵たりとも思っていなかったらしく、貧乏人の癖に断るとは何事かと怒って帰っていった。
怒ったのは領主だけではなくお袋もで、こんないい待遇に文句を言うなとか、育ててやった恩を忘れたのかと、何度も何度も妹を責め立てた。妹はお袋へ何かを言っていたようだが、オレは聞いていない。
次の日にはお袋は針子の仕事を失い、オレは漁師の手伝いの仕事を止めざるを得なくなった。妹は自分のせいだと泣いていた。
それでも三人何とか生活をしていたのだが、ある日お袋が妹だけを連れて出掛け、一晩して泣きながら帰ってきた。
何かあったのかと心配したがお袋は泣きながら笑うだけで、その後は妹をなじることも無くなった。
暫くしてお袋も死んだ。最期の言葉は『お前だけでも逃げなさい』
病死だったのだと思う。口から鳥の羽を吐き出す治療方法さえ分からない奇病だった。