逆襲の+α
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大都市の中心部に巨大生物の竜が現れたとあって、世間は上へ下への大騒ぎだった。あの一夜に突如として今まで空想上の存在と思われていた竜が現れて暴れまわったこともそうだが、消える時も何の前触れも無かったことがその恐怖を増幅させている様に思う。
急に現れて急に消えたのなら、今目の前に突如現れてもおかしくない。誰もがそう考えて街中は連日秩序の無い厳戒態勢が敷かれている。普段なら夏休みの最中で儲け時だろう遊興施設なども、場所によっては即急に休園を決めて発表したくらいだ。
反面、人とは不思議なもので危険な事ほど『自分の傍には現れないだろう』と高を括ってしまうのも確かで、厳戒態勢が敷かれ往来を自衛隊のジープや戦車が走る非日常が横切っていようと、一般人はそこまで不安を表に出していなかった。
というより、不安がって働かずにいれば食い扶持が無くなるのだ。今の社会は。
そんな社会人の一人であったアマネは、時期が外れて安くなっていたお中元ギフトを熨斗なしで購入し、先日訪れたばかりの竜堂邸へと向かっていた。社会人の一人『だった』という表現通り、清掃会社はクビになったので無職である。
都庁の災害に巻き込まれてタイムカードを押せなかったから、ではない。端的に説明するなら人間関係の悪化だ。
「こんにちはぁ」
「お、アマネじゃん。仕事どうだった?」
「こんにちはアマネくん」
玄関から声を掛けて、早速出てきたのは竜堂兄弟の中二人である。互いに自己紹介は先日のアマネが帰る前に行なっていて、同級生だった終も一人だけ違うのは嫌だとアマネの事を苗字呼びから名前呼びに変更していた。
出迎えた二人の視線がアマネの持っていた袋に向けられる。それに気付いて目敏いなと呆れつつ、アマネは袋の口を開いて見せた。
「先日のお礼と手土産。ゼリーの詰め合わせと桃です」
「桃、ですか」
「嫌いでした? あ、アレルギーがあったりします?」
「いえ、そういう訳では……。ありがとうございます」
恭しく手を出して受け取ろうとしていた終を無視し続に渡す。アレルギーの有無を聞き忘れていたと今の会話で思い出したが、無いらしいので幸いだ。
「なんでオレに渡さないんだよ!」
「自分の胸に手を当てて考えろぉ」
「ドキドキしてる。これが、恋?」
「不整脈ですね食事制限です」
「イヤだね!」
中学時代にも散々していた、くだらなくて意味の無い冗談を言い合いながら終の案内で応接室に案内された。そこのソファに座って終と雑談しながら待っていれば、ややあって始が顔を見せる。
「こんにちは。先日のお礼に参りました」
「こんにちはアマネ君。お礼を言われるほど大したことはしてないんだがな」
「竜によって崩壊しかけていたビルからの避難は大したことだと思いますが」
始が終にお茶を淹れる様に頼むのを後目に、向かいの席へ腰を降ろす始を見る。冷房は点いていないがそこまで暑くない部屋。ここに来るまでにかいた汗は仕方がない。
「災害現場から助けて頂いただけではなく、頭痛で動けねぇ時も助けて頂きましたし、改めて感謝の意を伝えさせて頂きます。この節はありがとうございました」
「オレも君には助けられたんだ。それでお相子だろう」
「助けましたっけぇ?」
「君は意識が朦朧としていたからな」
それなら覚えていないのも当然か。
あの夜、火災の起きた都庁から逃げ出す最中窓越しに見た竜の眼。目が合ったと思った直後に発症した頭痛は、中学時代に終を見た時と全く同じものだった。同時に始の姿を見た時にも余の姿を見た時にも同じ事が繰り返されたのだから、これはもう何かしらの関係があると考えるのが妥当だろう。
見ると頭痛が起きる兄弟。あと彼らの従姉妹だという女性。
それがどんな意味を持っているのかは情報が足りなくて全く不明だが、更に一つ疑問があった。
アマネはあの夜、始と合流した後の次男の続を見た時は頭痛を起こさなかったのである。あれだけ似ているのだから血の繋がりが無い兄弟だとは思えない。であれば、頭痛が起きる条件の推測が間違っているか、あの段階で既に条件が達成された後だったと考えるべきだろう。
兄弟を見ると頭痛が起きる。それと同じことが竜と目を合わせた時にも起きていた。
そもそもの話、続はあんな危険な場所の何処に居たのだろうか。
「終に聞いたんだが昔も頭痛で倒れたらしいね。よくある事なのかい?」
「頭痛自体は持病みてぇな部分もありますけど、あそこまで酷かったのは久しぶりですね。意識が朦朧とする程なんてのは中学の入学の時以来で」
「原因は? 心当たりだけでも分かっていれば対処しやすいだろう?」
「原因というか理由の推測は出来てるんですけどね」
「理由」
「記憶の一部が抜けている気がするんです。昔事故に遭って」
始は予想外だったのか目を丸くする。これは中学入学と同時に出会った終も知らなかったか覚えていなかったかで、終から始に伝わることが無かったのだろう。
同時にこれが、頭痛の言い訳になって便利なのでアマネはよく利用していた。
「小学校卒業直前に家族で事故に遭いまして、その事故のせいか一部記憶が欠けているみたいなんです。頭痛はその記憶が呼び起こされている時なんじゃないかと思ってます」
「それは……悪いことを聞いたね」
「いえ、別に隠している訳でもありませんから」
実際のところ、事故に遭ったのは事実だがアマネの記憶は失われていない。正確には今生に生まれてからの記憶の欠損は無いし、欠けている気がするのは前世の記憶だ。
大切な、今ここに居ることに繋がる重要な、あるいは特別な記憶が。
ただ、思い出せないことに気にしてばかりでも仕方ないので、普段はあまり考えないようにしているだけだ。
急に現れて急に消えたのなら、今目の前に突如現れてもおかしくない。誰もがそう考えて街中は連日秩序の無い厳戒態勢が敷かれている。普段なら夏休みの最中で儲け時だろう遊興施設なども、場所によっては即急に休園を決めて発表したくらいだ。
反面、人とは不思議なもので危険な事ほど『自分の傍には現れないだろう』と高を括ってしまうのも確かで、厳戒態勢が敷かれ往来を自衛隊のジープや戦車が走る非日常が横切っていようと、一般人はそこまで不安を表に出していなかった。
というより、不安がって働かずにいれば食い扶持が無くなるのだ。今の社会は。
そんな社会人の一人であったアマネは、時期が外れて安くなっていたお中元ギフトを熨斗なしで購入し、先日訪れたばかりの竜堂邸へと向かっていた。社会人の一人『だった』という表現通り、清掃会社はクビになったので無職である。
都庁の災害に巻き込まれてタイムカードを押せなかったから、ではない。端的に説明するなら人間関係の悪化だ。
「こんにちはぁ」
「お、アマネじゃん。仕事どうだった?」
「こんにちはアマネくん」
玄関から声を掛けて、早速出てきたのは竜堂兄弟の中二人である。互いに自己紹介は先日のアマネが帰る前に行なっていて、同級生だった終も一人だけ違うのは嫌だとアマネの事を苗字呼びから名前呼びに変更していた。
出迎えた二人の視線がアマネの持っていた袋に向けられる。それに気付いて目敏いなと呆れつつ、アマネは袋の口を開いて見せた。
「先日のお礼と手土産。ゼリーの詰め合わせと桃です」
「桃、ですか」
「嫌いでした? あ、アレルギーがあったりします?」
「いえ、そういう訳では……。ありがとうございます」
恭しく手を出して受け取ろうとしていた終を無視し続に渡す。アレルギーの有無を聞き忘れていたと今の会話で思い出したが、無いらしいので幸いだ。
「なんでオレに渡さないんだよ!」
「自分の胸に手を当てて考えろぉ」
「ドキドキしてる。これが、恋?」
「不整脈ですね食事制限です」
「イヤだね!」
中学時代にも散々していた、くだらなくて意味の無い冗談を言い合いながら終の案内で応接室に案内された。そこのソファに座って終と雑談しながら待っていれば、ややあって始が顔を見せる。
「こんにちは。先日のお礼に参りました」
「こんにちはアマネ君。お礼を言われるほど大したことはしてないんだがな」
「竜によって崩壊しかけていたビルからの避難は大したことだと思いますが」
始が終にお茶を淹れる様に頼むのを後目に、向かいの席へ腰を降ろす始を見る。冷房は点いていないがそこまで暑くない部屋。ここに来るまでにかいた汗は仕方がない。
「災害現場から助けて頂いただけではなく、頭痛で動けねぇ時も助けて頂きましたし、改めて感謝の意を伝えさせて頂きます。この節はありがとうございました」
「オレも君には助けられたんだ。それでお相子だろう」
「助けましたっけぇ?」
「君は意識が朦朧としていたからな」
それなら覚えていないのも当然か。
あの夜、火災の起きた都庁から逃げ出す最中窓越しに見た竜の眼。目が合ったと思った直後に発症した頭痛は、中学時代に終を見た時と全く同じものだった。同時に始の姿を見た時にも余の姿を見た時にも同じ事が繰り返されたのだから、これはもう何かしらの関係があると考えるのが妥当だろう。
見ると頭痛が起きる兄弟。あと彼らの従姉妹だという女性。
それがどんな意味を持っているのかは情報が足りなくて全く不明だが、更に一つ疑問があった。
アマネはあの夜、始と合流した後の次男の続を見た時は頭痛を起こさなかったのである。あれだけ似ているのだから血の繋がりが無い兄弟だとは思えない。であれば、頭痛が起きる条件の推測が間違っているか、あの段階で既に条件が達成された後だったと考えるべきだろう。
兄弟を見ると頭痛が起きる。それと同じことが竜と目を合わせた時にも起きていた。
そもそもの話、続はあんな危険な場所の何処に居たのだろうか。
「終に聞いたんだが昔も頭痛で倒れたらしいね。よくある事なのかい?」
「頭痛自体は持病みてぇな部分もありますけど、あそこまで酷かったのは久しぶりですね。意識が朦朧とする程なんてのは中学の入学の時以来で」
「原因は? 心当たりだけでも分かっていれば対処しやすいだろう?」
「原因というか理由の推測は出来てるんですけどね」
「理由」
「記憶の一部が抜けている気がするんです。昔事故に遭って」
始は予想外だったのか目を丸くする。これは中学入学と同時に出会った終も知らなかったか覚えていなかったかで、終から始に伝わることが無かったのだろう。
同時にこれが、頭痛の言い訳になって便利なのでアマネはよく利用していた。
「小学校卒業直前に家族で事故に遭いまして、その事故のせいか一部記憶が欠けているみたいなんです。頭痛はその記憶が呼び起こされている時なんじゃないかと思ってます」
「それは……悪いことを聞いたね」
「いえ、別に隠している訳でもありませんから」
実際のところ、事故に遭ったのは事実だがアマネの記憶は失われていない。正確には今生に生まれてからの記憶の欠損は無いし、欠けている気がするのは前世の記憶だ。
大切な、今ここに居ることに繋がる重要な、あるいは特別な記憶が。
ただ、思い出せないことに気にしてばかりでも仕方ないので、普段はあまり考えないようにしているだけだ。