逆襲の+α
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熟れて収穫期を迎えた桃を一つ一つ、丁寧に収穫して傷の有無を確認し籠へ入れる。一つの籠が一杯になったら、それを運んで空の籠を持って次の場所へ。
それを繰り返して何度目かの満杯になった籠を運んでいる最中、ふと顔を上げると桃を集めていた場所に人がいることに気付いた。
アマネが朝から集めていた桃の一つを勝手に取って食べているらしい彼に、怒りが数割と呆れが半分。そんなことをせずとも分け与える気はあったのにという気持ちが半分。
きっと彼は取りに来た訳でもアマネを手伝いにきてくれた訳でも無い。
「こら。勝手に食うなぁ」
この桃は頼まれて収穫していた分なのだから。
そう続けようとして自分の声で目を覚ました。
「その桃は――もも、は」
覚えのない一室。おそらくはどこかの一軒家の客間か。額に置かれていた濡れタオルを取りながら起き上がると戸が開いて気を失う前に出会った竜堂兄弟の長男だと思われる男性が顔を出した。
「目が覚めたか。体調はどうだい?」
「……おはよう、ございます? 体調は大分マシになりました。あの、ここは?」
「君の家は分からなかったし夜も遅かったからね。ウチに運ばせてもらったんだ。救急車も考えたんだが我々に都合が悪くて呼ぶのは遠慮させてもらった」
「救急車は俺も呼ばれなくて良かったっていうか、えっと、電話借りていいですか? 職場に連絡入れねぇと」
何せ中卒で世間一般的には学が無いとされてしまうアマネを採用してくれた清掃会社だ。無事を知らせるのは少しでも早い方が良いだろう。
男性に案内されて出た部屋の外は既に明るくなっていた。夏の暑さを感じさせる日差しは昨夜の騒動など知ったものかとばかりに眩しくて、頭痛の余韻を残す頭にはそれが少々厳しい。
一宿の恩ついでに鎮痛剤も貰えるだろうかと考えながら就職先である清掃会社に電話をする。
「あ、おはようございます斑鳩です。昨日の――」
『てめえ昨日タイムカード切らずに帰りやがっただろ! ふざけたマネしてんじゃねぞ!』
「――都庁、の」
電話の向こうは運が悪いことにアマネを頻繁に見下してくる先輩だった。アマネの中卒や両親がいないことを話していないのに知っていて、親無しの貧乏人だとか学歴の無い馬鹿だと態度だけではなく言葉でも貶してくる様な人物だ。当然アマネ以外の従業員からも嫌われていて、最近やっと社長がその人間関係を問題視し始めて、退職を促そうかという段階だった。
対応の電話に出る権限は無かったはずなのに何故彼が電話に出るのだろうと不思議に思うも、掛け直すのも面倒だったので仕方なくそのまま報告を続ける。
「都庁の崩壊に巻き込まれて避難して、今まで連絡が出来なかったんです。それより社長は」
『知らねーよそんな事。つか中卒のくせに都庁なんて担当してっからバチでも当たったんだろ』
担当場所を決めたのは事務担当だ。
『いつも馬鹿みてぇにヘラヘラしやがって』
返事をせず受話器を叩きつける様に通話を切る。それから人様の家の電話だったと思い出して、慌てて後ろにいた男性に謝罪した。
「すみません乱暴に扱っちゃってぇ! 今ので壊れてたら弁償します!」
「いや、それはいいんだが、仕事先はいいのかい?」
電話での会話の内容は聞こえなかったのだろう。聞こえていなくて良かったと思いながら曖昧に頷いておく。
ともあれ電話では埒が明かなそうなので、実際に会社に顔を出して話をしに行くべきだろう。
「えっと、竜堂さん? でいいのかなぁ。竜堂さん。昨夜はありがとうございました。このお礼はまた改めてお伺いさせていただきます。頭痛も治まったし一度帰ったり職場に行ったりしたいので、今日はお暇させて……」
「えっ」
何故か驚いた男性にアマネは首を傾げた。
「なにかぁ?」
「いや、君に色々聞きたいことがあったんだ。でもそうだよな。一度家に帰りたいと思うのは当たり前か」
訊きたいことと言われても心当たりはない。いや、頭痛で意識が朦朧としている間に何か彼らが気になる様な事を言ったのかも知れなかった。それとも都庁を襲った竜を至近距離で見た仲間として語りたいとかだろうか。
前者に関しては質問の内容を訊かなければ何とも言えないが、後者に関してはアマネもちょっと望むところである。あんな巨大生物を見たのは久しぶりだったのだ。
それとも彼の弟の終との関係だろうかと思う。終とは中学時代の同級生以上でも以下でもないのだが。校外で遊ぶことは無かったが同じクラスだったので絡むことは多々あった。たった数か月前までのことだがやけに懐かしく感じる。せっかくだから終とも話がしたかったが、今は食い扶持を稼ぐ為の仕事場の方を優先するべきだ。
そう考えて玄関へ向かった直後、玄関が外から開けられて少女が姿を見せた。
「おはよう! あら始さんお出迎え? ……じゃあ無さそうね。お客さん?」
「ウッソだろぉ……っ!」
それを繰り返して何度目かの満杯になった籠を運んでいる最中、ふと顔を上げると桃を集めていた場所に人がいることに気付いた。
アマネが朝から集めていた桃の一つを勝手に取って食べているらしい彼に、怒りが数割と呆れが半分。そんなことをせずとも分け与える気はあったのにという気持ちが半分。
きっと彼は取りに来た訳でもアマネを手伝いにきてくれた訳でも無い。
「こら。勝手に食うなぁ」
この桃は頼まれて収穫していた分なのだから。
そう続けようとして自分の声で目を覚ました。
「その桃は――もも、は」
覚えのない一室。おそらくはどこかの一軒家の客間か。額に置かれていた濡れタオルを取りながら起き上がると戸が開いて気を失う前に出会った竜堂兄弟の長男だと思われる男性が顔を出した。
「目が覚めたか。体調はどうだい?」
「……おはよう、ございます? 体調は大分マシになりました。あの、ここは?」
「君の家は分からなかったし夜も遅かったからね。ウチに運ばせてもらったんだ。救急車も考えたんだが我々に都合が悪くて呼ぶのは遠慮させてもらった」
「救急車は俺も呼ばれなくて良かったっていうか、えっと、電話借りていいですか? 職場に連絡入れねぇと」
何せ中卒で世間一般的には学が無いとされてしまうアマネを採用してくれた清掃会社だ。無事を知らせるのは少しでも早い方が良いだろう。
男性に案内されて出た部屋の外は既に明るくなっていた。夏の暑さを感じさせる日差しは昨夜の騒動など知ったものかとばかりに眩しくて、頭痛の余韻を残す頭にはそれが少々厳しい。
一宿の恩ついでに鎮痛剤も貰えるだろうかと考えながら就職先である清掃会社に電話をする。
「あ、おはようございます斑鳩です。昨日の――」
『てめえ昨日タイムカード切らずに帰りやがっただろ! ふざけたマネしてんじゃねぞ!』
「――都庁、の」
電話の向こうは運が悪いことにアマネを頻繁に見下してくる先輩だった。アマネの中卒や両親がいないことを話していないのに知っていて、親無しの貧乏人だとか学歴の無い馬鹿だと態度だけではなく言葉でも貶してくる様な人物だ。当然アマネ以外の従業員からも嫌われていて、最近やっと社長がその人間関係を問題視し始めて、退職を促そうかという段階だった。
対応の電話に出る権限は無かったはずなのに何故彼が電話に出るのだろうと不思議に思うも、掛け直すのも面倒だったので仕方なくそのまま報告を続ける。
「都庁の崩壊に巻き込まれて避難して、今まで連絡が出来なかったんです。それより社長は」
『知らねーよそんな事。つか中卒のくせに都庁なんて担当してっからバチでも当たったんだろ』
担当場所を決めたのは事務担当だ。
『いつも馬鹿みてぇにヘラヘラしやがって』
返事をせず受話器を叩きつける様に通話を切る。それから人様の家の電話だったと思い出して、慌てて後ろにいた男性に謝罪した。
「すみません乱暴に扱っちゃってぇ! 今ので壊れてたら弁償します!」
「いや、それはいいんだが、仕事先はいいのかい?」
電話での会話の内容は聞こえなかったのだろう。聞こえていなくて良かったと思いながら曖昧に頷いておく。
ともあれ電話では埒が明かなそうなので、実際に会社に顔を出して話をしに行くべきだろう。
「えっと、竜堂さん? でいいのかなぁ。竜堂さん。昨夜はありがとうございました。このお礼はまた改めてお伺いさせていただきます。頭痛も治まったし一度帰ったり職場に行ったりしたいので、今日はお暇させて……」
「えっ」
何故か驚いた男性にアマネは首を傾げた。
「なにかぁ?」
「いや、君に色々聞きたいことがあったんだ。でもそうだよな。一度家に帰りたいと思うのは当たり前か」
訊きたいことと言われても心当たりはない。いや、頭痛で意識が朦朧としている間に何か彼らが気になる様な事を言ったのかも知れなかった。それとも都庁を襲った竜を至近距離で見た仲間として語りたいとかだろうか。
前者に関しては質問の内容を訊かなければ何とも言えないが、後者に関してはアマネもちょっと望むところである。あんな巨大生物を見たのは久しぶりだったのだ。
それとも彼の弟の終との関係だろうかと思う。終とは中学時代の同級生以上でも以下でもないのだが。校外で遊ぶことは無かったが同じクラスだったので絡むことは多々あった。たった数か月前までのことだがやけに懐かしく感じる。せっかくだから終とも話がしたかったが、今は食い扶持を稼ぐ為の仕事場の方を優先するべきだ。
そう考えて玄関へ向かった直後、玄関が外から開けられて少女が姿を見せた。
「おはよう! あら始さんお出迎え? ……じゃあ無さそうね。お客さん?」
「ウッソだろぉ……っ!」