摩天楼の+α
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
回数的には本日三度目となる頭痛に頭を押さえてふらつく。空いている手で咄嗟に階段の手すりを掴もうとするも届かずにそのままへたり込みそうになって、男性と青年が差し伸べてくれた手に支えられる。
お礼を言うべきなのにその余裕がない。頭が痛くて視界がくらむ。足に力が入らない。
「大丈夫か?」
「……あたま、いてぇ」
「終君、彼に持病があると聞いたことは?」
「持病は聞いたことないけど、確か中学の入学式の時も倒れてたぜ」
アマネの頭の上で会話が行なわれているけれど、その内容も今は頭に入ってこなかった。
中学時代に倒れた時に見た同級生というのが、この竜堂のことである。あの時は環境の変化や精神的な疲れが溜まっていたのがたまたま竜堂を見たタイミングで溢れたのかと思っていたのだが、竜堂の関係者を見る度に頭痛がしていたことを考えると、それらは偶然では無かったのかもしれない。
偶然ではないとして、それでは何故『竜堂家の人間』を見ると頭痛がするのか。
中学の入学の日まで竜堂家と関わりがあった覚えは無い。彼らはアマネから見ても強烈に見た目が整っているので、もしそれまでに見ていたとしても忘れたりはしないだろう。
忘れられそうにないのに、忘れているのか。それはあの夢と同じだ。
ならば彼らはあの夢の光景と関わりがあるのだろうかと考えたところで、額に冷たい手が触れた。痛みに閉じていた目を開ける。
「大丈夫ですか?」
幼い顔立ちの少年がアマネの顔を覗き込んでいた。少し心配げな様子に、年下を不安がらせては恰好が付かないなと思って力なく笑みを浮かべる。頭が痛い程度で彼の兄二人に支えられていては、恰好が付かないも何もないかも知れないが。
「黒竜王は相変わらずやさしいなぁ」
「え――?」
「そんな事より自衛隊が突っ込んでくるぜ」
少年の声はしかし竜堂の声にかき消される。
「呼んだ覚えは無い」
「呼んでなくても来るんだってば!」
踊り場の更に下から武装した自衛隊が駆け上ってきた。が、その姿は日本の自衛隊ではなく、緑のベレー帽と迷彩服を着込んだ軍人である。
「自衛隊はいつからプロ野球チームみたいに外人さんを雇うようになったんだ?」
そういう問題なのだろうかと、アマネは竜堂兄弟の長男だと思われる男性の言葉へ内心で小首を傾げた。ともあれ状況打破が先かと軍人達を観察する方に頭痛で分散しがちな意識を向ける。
頭痛を発症していなければ、この軍人達を蹴散らして脱出することは可能だっただろう。しかし今は無理だ。仮に彼らを蹴散らす為に暴れまわったとして、頭痛が酷くて普段なら無意識に出来ているであろう手加減が出来そうにない。
手加減が出来ないとなると相手に死傷者は確定。だがそれを竜堂兄弟にも目撃されてしまうのは決して良いとは言えなかった。
アマネが“化物”だとバレてしまう。
『あの人があの人であることを悪いなんて思わないで欲しかった』
夢の中で聞いたあの子の言葉。
そう思わなくて欲しいとしても、お前以外は化物と呼んだのだと教えたら、あの子は困るだろうか。そう教える事も怖かったのだとは伝えられなかった。伝えられる勇気がなかったのだ。
「――ごふっ」
喉が引きつって咳き込む。そのまま何度か咳き込んで、その度に頭痛が拍動を打って痛んだ。
男性が再びアマネを背負う。
「派手にやっていいぞ。終」
「ほんと!?」
「かまわん。こんなところにアメリカ軍がいる訳はない。どんな合法的理由にてらしてもあり得ない。こいつらは存在しないんだ。おれ達の幻影さ。だから何をやってもいいぞ」
どう見ても目の前に実在しているだろう軍人達を集団幻覚と見なした男性に、集団幻覚がどういう状況下で発生するのだったかと斜め上の方に思考を飛ばす。残念なことにアマネの思考は現在まともに働いていなくてそれすら最後まで考えられなかったが。
だからそこから見た光景も半分は朦朧とした意識が見せた幻覚だ。アマネの同級生だった竜堂が軍人の顎を一発で砕いたことや、彼の弟が細い枯れ木をそうする様に軍人の腕を関節とは逆にへし折ったことも、アマネを背負う男性が蹴り飛ばした相手が宙を跳んで壁をへこませる勢いで激突したことも、男性のすぐ下の弟が両手で一人ずつ持ち上げて放り投げたことも。
見た目にそぐわぬ怪力と身体能力。
嗚呼、彼等もアマネと同類なのだろうかと思って、小さく笑いが漏れた。
「ふふ」
「? 斑鳩、くん?」
「力の制御が下手くそぉ。俺も人の事言えねぇけど、ゴリ押しじゃねぇかぁ」
身体能力のみに任せたゴリ押しは人から見れば恐ろしいだろうが、アマネからすれば幼児の遊びに思えた。
「昔はもっと洗練されてたのにぃ……。昔っていつだっけぇ? 思い出せねぇ」
思い出せない。
「思い出さねぇとぉ。忘れたら怒られる。俺が忘れないでくれって頼んだのに」
「そうか。なら思い出さないといけないな」
「うん……」
「でも今は少し休むといい。もう少しで帰れるから」
「帰る場所なんて……、ああ、でも、うん。お世話掛けます青竜王殿……」
気力が切れて意識を失う。
清掃員のタイムカードを押していないことだけ、最後まで脳裏に引っかかっていた。
お礼を言うべきなのにその余裕がない。頭が痛くて視界がくらむ。足に力が入らない。
「大丈夫か?」
「……あたま、いてぇ」
「終君、彼に持病があると聞いたことは?」
「持病は聞いたことないけど、確か中学の入学式の時も倒れてたぜ」
アマネの頭の上で会話が行なわれているけれど、その内容も今は頭に入ってこなかった。
中学時代に倒れた時に見た同級生というのが、この竜堂のことである。あの時は環境の変化や精神的な疲れが溜まっていたのがたまたま竜堂を見たタイミングで溢れたのかと思っていたのだが、竜堂の関係者を見る度に頭痛がしていたことを考えると、それらは偶然では無かったのかもしれない。
偶然ではないとして、それでは何故『竜堂家の人間』を見ると頭痛がするのか。
中学の入学の日まで竜堂家と関わりがあった覚えは無い。彼らはアマネから見ても強烈に見た目が整っているので、もしそれまでに見ていたとしても忘れたりはしないだろう。
忘れられそうにないのに、忘れているのか。それはあの夢と同じだ。
ならば彼らはあの夢の光景と関わりがあるのだろうかと考えたところで、額に冷たい手が触れた。痛みに閉じていた目を開ける。
「大丈夫ですか?」
幼い顔立ちの少年がアマネの顔を覗き込んでいた。少し心配げな様子に、年下を不安がらせては恰好が付かないなと思って力なく笑みを浮かべる。頭が痛い程度で彼の兄二人に支えられていては、恰好が付かないも何もないかも知れないが。
「黒竜王は相変わらずやさしいなぁ」
「え――?」
「そんな事より自衛隊が突っ込んでくるぜ」
少年の声はしかし竜堂の声にかき消される。
「呼んだ覚えは無い」
「呼んでなくても来るんだってば!」
踊り場の更に下から武装した自衛隊が駆け上ってきた。が、その姿は日本の自衛隊ではなく、緑のベレー帽と迷彩服を着込んだ軍人である。
「自衛隊はいつからプロ野球チームみたいに外人さんを雇うようになったんだ?」
そういう問題なのだろうかと、アマネは竜堂兄弟の長男だと思われる男性の言葉へ内心で小首を傾げた。ともあれ状況打破が先かと軍人達を観察する方に頭痛で分散しがちな意識を向ける。
頭痛を発症していなければ、この軍人達を蹴散らして脱出することは可能だっただろう。しかし今は無理だ。仮に彼らを蹴散らす為に暴れまわったとして、頭痛が酷くて普段なら無意識に出来ているであろう手加減が出来そうにない。
手加減が出来ないとなると相手に死傷者は確定。だがそれを竜堂兄弟にも目撃されてしまうのは決して良いとは言えなかった。
アマネが“化物”だとバレてしまう。
『あの人があの人であることを悪いなんて思わないで欲しかった』
夢の中で聞いたあの子の言葉。
そう思わなくて欲しいとしても、お前以外は化物と呼んだのだと教えたら、あの子は困るだろうか。そう教える事も怖かったのだとは伝えられなかった。伝えられる勇気がなかったのだ。
「――ごふっ」
喉が引きつって咳き込む。そのまま何度か咳き込んで、その度に頭痛が拍動を打って痛んだ。
男性が再びアマネを背負う。
「派手にやっていいぞ。終」
「ほんと!?」
「かまわん。こんなところにアメリカ軍がいる訳はない。どんな合法的理由にてらしてもあり得ない。こいつらは存在しないんだ。おれ達の幻影さ。だから何をやってもいいぞ」
どう見ても目の前に実在しているだろう軍人達を集団幻覚と見なした男性に、集団幻覚がどういう状況下で発生するのだったかと斜め上の方に思考を飛ばす。残念なことにアマネの思考は現在まともに働いていなくてそれすら最後まで考えられなかったが。
だからそこから見た光景も半分は朦朧とした意識が見せた幻覚だ。アマネの同級生だった竜堂が軍人の顎を一発で砕いたことや、彼の弟が細い枯れ木をそうする様に軍人の腕を関節とは逆にへし折ったことも、アマネを背負う男性が蹴り飛ばした相手が宙を跳んで壁をへこませる勢いで激突したことも、男性のすぐ下の弟が両手で一人ずつ持ち上げて放り投げたことも。
見た目にそぐわぬ怪力と身体能力。
嗚呼、彼等もアマネと同類なのだろうかと思って、小さく笑いが漏れた。
「ふふ」
「? 斑鳩、くん?」
「力の制御が下手くそぉ。俺も人の事言えねぇけど、ゴリ押しじゃねぇかぁ」
身体能力のみに任せたゴリ押しは人から見れば恐ろしいだろうが、アマネからすれば幼児の遊びに思えた。
「昔はもっと洗練されてたのにぃ……。昔っていつだっけぇ? 思い出せねぇ」
思い出せない。
「思い出さねぇとぉ。忘れたら怒られる。俺が忘れないでくれって頼んだのに」
「そうか。なら思い出さないといけないな」
「うん……」
「でも今は少し休むといい。もう少しで帰れるから」
「帰る場所なんて……、ああ、でも、うん。お世話掛けます青竜王殿……」
気力が切れて意識を失う。
清掃員のタイムカードを押していないことだけ、最後まで脳裏に引っかかっていた。