摩天楼の+α
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這う這うの体で立ち上がったアマネは、呆然と自身の掌を凝視して止まっている男性の手に自身のそれを乗せた。アマネの存在を思い出したのか弾かれたようにアマネを見た男性に、そういえばまだこの人の名前も聞いていなかったなと思い出す。
そんなのんびりとした状況ではないし、こんな状態で互いの名前を知るのがいいことかどうかも分からなかったが。
頭の中であの子の涙がこぼれる音が響く。実際には周囲で崩れる瓦礫や燃え盛る炎といった音の中の一つがそう聞こえているだけだろうが、泣いている様に思えて、泣き止ませなければと思った。
泣かないでほしい。
「まだ、不完全なので、外部から刺激を与えれば戻ります。ましてや兄の声なら、ちゃんと届く、筈……」
頭がぐわんぐわんと揺れ続けている感覚。男性が何かを言ったような気がしたが、それすらもうアマネの耳に届いていない。
けれどあと少し、もう少し頑張れば今夜の騒動は終わるのだと意識のどこかが告げていた。そうしたらもう好きに休んで良いとも理解していて、アマネはゆっくり男性から手を離して廃墟の外の竜を見る。
紅い竜。暴れる姿は彼らしくないと思う。彼はもっと優雅に動くのが似合うのだから。
「――紅竜王殿。青竜王殿が呼んでおりますよ」
そう話しかける。声を張りあげた訳でも叫んだ訳でも無いのに、その声が聞こえた様に竜が振り返った。男性がそのチャンスを逃さずに竜へむかって走り出すのを何とか意識の端で認識しながら、アマネはそのまま崩れ落ちる様に床へ倒れ込む。
血管を血液が走る音が何よりも至近距離から聞こえる。
夢の中で聞いた声と言葉。
泣き声交じりのそれが果たして本当に自分に向けられたものだったかすら今の自分には思い出せなくて、アマネはそれを歯がゆく思っていた。
あの子のいる世界を壊そうとしたのだ。あの子を消そうとした。そんなことが許されると思ったのだろうか。
許さない。地獄の果てでも世界の果てでも追いかけて、一矢報いなければ治まらないと思って、追いかけて。
追いかけた先で出会った兄弟は真っ直ぐで、純朴で、真面目なところ以外あの子とは似ていなかったけれど、敵ではなかった。
だから少し、利用させてもらおうと考えたが、結果は罪悪感が募ってアマネは記憶を奪われたのだ。
それから四千年。
「……四千、年?」
「ああ、意識が戻ったか」
身体を揺さぶられる感覚と自分の声に意識を取り戻す。酷かった頭痛は一度意識を失ったお陰か大分治まっていて、視界もはっきりしているし自力で歩けそうだった。
アマネは再び男性に背負われていたようだ。横にはサイズが合っていないスーツを身にまとった青年が並んで歩いていて、意識の戻ったアマネを覗き込んでくる。白皙の美青年という言葉は彼の為にある様な美形で、アマネを背負っている男性によく似ていた。恐らくは兄弟なのだろう。
「こん、ばんは?」
「こんばんは」
「俺、人が来るくらい長く意識飛ばしてました? あれ、というか竜はぁ?」
見回した先のビルの外に竜の姿はない。それどこか同行者が増えて昇っていたビルを今は降りている。
「頭痛が酷かった間の記憶が曖昧なんですけど、えっと、貴方の用事って弟さんを助けにくることだったんです? それじゃあ俺足手まといだったでしょう。申し訳ありません」
弟を助けに来たのならアマネなど足手まとい以外の何物でもなかっただろう。頭を下げると男性と青年は顔を見合わせていた。
「あの、意識も戻ったし頭痛も治まってきたので、降ろしてもらってもいいですか? 自力で歩けますのでぇ」
「本当に大丈夫か?」
心配しながらも男性がしゃがんでくれたのでその背中から降りる。
周囲の火災の勢いは元凶だった竜が居なくなったことで沈静の一途を辿っている様で、昇ってきた時よりも危険は無さそうだった。とはいえ瓦礫や壊れた調度品の欠片やガラス片が辺りに散らばっていて足元に気を付ける必要はある。
そう思いながらふと見ると、青年は裸足だった。
「うわ、ちょっと! 俺より弟さんを抱えてあげるべきじゃねぇですか!」
「いえ、ボクも子供ではありませんので。意識の無かった方を優先するのは当然ですし」
どうフォローを入れてくれようと、アマネが足手まといだったのは事実である。挽回する機会があればいいが、まだ頭痛の余韻が残っている身体ではそれも難しそうだった。
日を改めてお礼をするのがいいのか。だがそもそもアマネは彼らの名前をまだ知らない。
流石にそろそろ聞くべきか、それとも最後まで聞かずにいるべきかと考えながら階段を降りていると。階下の踊り場に人の姿が見えた。
おそらくアマネと同じか少し年下だろう二人組のうち一人の顔を見て、アマネは驚いてその名前を呼ぶ。
「竜堂!?」
「え、あれ、斑鳩!?」
向こうもアマネに気付き驚いているようだった。
「知り合いか?」
「知り合いも何も兄貴、中学の時の同級生だよ!」
中学時代のクラスメイト、竜堂終が男性に答える。その返事を聞いてこの男性は竜堂の兄だったのかと驚いた。言われて見れば確かに似ている。むしろ何故今で気付かなかったのか分からないくらいだ。頭痛のせいでそういうことに意識を向ける余裕が無かったからかもしれないが。
ということは、青年は竜堂の二番目の兄で、竜堂の傍にいる少年は彼らの弟か。そう思って竜堂の傍の少年に視線を向けると目が合った。
そんなのんびりとした状況ではないし、こんな状態で互いの名前を知るのがいいことかどうかも分からなかったが。
頭の中であの子の涙がこぼれる音が響く。実際には周囲で崩れる瓦礫や燃え盛る炎といった音の中の一つがそう聞こえているだけだろうが、泣いている様に思えて、泣き止ませなければと思った。
泣かないでほしい。
「まだ、不完全なので、外部から刺激を与えれば戻ります。ましてや兄の声なら、ちゃんと届く、筈……」
頭がぐわんぐわんと揺れ続けている感覚。男性が何かを言ったような気がしたが、それすらもうアマネの耳に届いていない。
けれどあと少し、もう少し頑張れば今夜の騒動は終わるのだと意識のどこかが告げていた。そうしたらもう好きに休んで良いとも理解していて、アマネはゆっくり男性から手を離して廃墟の外の竜を見る。
紅い竜。暴れる姿は彼らしくないと思う。彼はもっと優雅に動くのが似合うのだから。
「――紅竜王殿。青竜王殿が呼んでおりますよ」
そう話しかける。声を張りあげた訳でも叫んだ訳でも無いのに、その声が聞こえた様に竜が振り返った。男性がそのチャンスを逃さずに竜へむかって走り出すのを何とか意識の端で認識しながら、アマネはそのまま崩れ落ちる様に床へ倒れ込む。
血管を血液が走る音が何よりも至近距離から聞こえる。
夢の中で聞いた声と言葉。
泣き声交じりのそれが果たして本当に自分に向けられたものだったかすら今の自分には思い出せなくて、アマネはそれを歯がゆく思っていた。
あの子のいる世界を壊そうとしたのだ。あの子を消そうとした。そんなことが許されると思ったのだろうか。
許さない。地獄の果てでも世界の果てでも追いかけて、一矢報いなければ治まらないと思って、追いかけて。
追いかけた先で出会った兄弟は真っ直ぐで、純朴で、真面目なところ以外あの子とは似ていなかったけれど、敵ではなかった。
だから少し、利用させてもらおうと考えたが、結果は罪悪感が募ってアマネは記憶を奪われたのだ。
それから四千年。
「……四千、年?」
「ああ、意識が戻ったか」
身体を揺さぶられる感覚と自分の声に意識を取り戻す。酷かった頭痛は一度意識を失ったお陰か大分治まっていて、視界もはっきりしているし自力で歩けそうだった。
アマネは再び男性に背負われていたようだ。横にはサイズが合っていないスーツを身にまとった青年が並んで歩いていて、意識の戻ったアマネを覗き込んでくる。白皙の美青年という言葉は彼の為にある様な美形で、アマネを背負っている男性によく似ていた。恐らくは兄弟なのだろう。
「こん、ばんは?」
「こんばんは」
「俺、人が来るくらい長く意識飛ばしてました? あれ、というか竜はぁ?」
見回した先のビルの外に竜の姿はない。それどこか同行者が増えて昇っていたビルを今は降りている。
「頭痛が酷かった間の記憶が曖昧なんですけど、えっと、貴方の用事って弟さんを助けにくることだったんです? それじゃあ俺足手まといだったでしょう。申し訳ありません」
弟を助けに来たのならアマネなど足手まとい以外の何物でもなかっただろう。頭を下げると男性と青年は顔を見合わせていた。
「あの、意識も戻ったし頭痛も治まってきたので、降ろしてもらってもいいですか? 自力で歩けますのでぇ」
「本当に大丈夫か?」
心配しながらも男性がしゃがんでくれたのでその背中から降りる。
周囲の火災の勢いは元凶だった竜が居なくなったことで沈静の一途を辿っている様で、昇ってきた時よりも危険は無さそうだった。とはいえ瓦礫や壊れた調度品の欠片やガラス片が辺りに散らばっていて足元に気を付ける必要はある。
そう思いながらふと見ると、青年は裸足だった。
「うわ、ちょっと! 俺より弟さんを抱えてあげるべきじゃねぇですか!」
「いえ、ボクも子供ではありませんので。意識の無かった方を優先するのは当然ですし」
どうフォローを入れてくれようと、アマネが足手まといだったのは事実である。挽回する機会があればいいが、まだ頭痛の余韻が残っている身体ではそれも難しそうだった。
日を改めてお礼をするのがいいのか。だがそもそもアマネは彼らの名前をまだ知らない。
流石にそろそろ聞くべきか、それとも最後まで聞かずにいるべきかと考えながら階段を降りていると。階下の踊り場に人の姿が見えた。
おそらくアマネと同じか少し年下だろう二人組のうち一人の顔を見て、アマネは驚いてその名前を呼ぶ。
「竜堂!?」
「え、あれ、斑鳩!?」
向こうもアマネに気付き驚いているようだった。
「知り合いか?」
「知り合いも何も兄貴、中学の時の同級生だよ!」
中学時代のクラスメイト、竜堂終が男性に答える。その返事を聞いてこの男性は竜堂の兄だったのかと驚いた。言われて見れば確かに似ている。むしろ何故今で気付かなかったのか分からないくらいだ。頭痛のせいでそういうことに意識を向ける余裕が無かったからかもしれないが。
ということは、青年は竜堂の二番目の兄で、竜堂の傍にいる少年は彼らの弟か。そう思って竜堂の傍の少年に視線を向けると目が合った。