摩天楼の+α
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中学入学と同時に同じクラスになったとある同級生を見た時も、今と同じように激しい頭痛に襲われたことがある。アマネの場合激しい頭痛は何度も転生する前からの持病の様なものだったが、今生のそれに関しては何故か頭痛が起きる前後にあの夢を見ることが多かった。
けれども一日に二回も、しかも一回目の痛みが無くなる間を置かずに来たのは非常に珍しい。
半分は痛みのせいで生理的に止まらない涙を拭って立ち上がる。途端にふらついて男性に支えられた。触れた手が暖かくて気持ちがいいと思うという事は、火災も起きている現場だというのにアマネの身体は冷えてしまっているらしい。頭痛のせいか。
「エレベーターまでは手を貸そう。三十三階まではエレベーターが使えていたから、そこまで降りればどうにか」
男性がそこまで言ったところで、男性の背後で轟音がした。見ればエレベーターのあった方角の天井が崩れて落ちている。思わず男性と顔を見合わせてしまったアマネはきっと悪くない。
「外じゃ何が起こってるんです?」
「竜が暴れているんだ」
「それは窓から見ました。紅い竜。怒ってるんじゃないんです。いや怒ってたんですけど、今はもう我を忘れているほうが強くて……今俺なんて言いました?」
頭痛が酷くて自分が支離滅裂な発言をしている気がする。このままでは避難どころか男性まで今以上の危険に巻き込んでしまうなと考えて、支えてくれていた手をやんわりと押し返した。
「すみません。もう少し落ち着いたら避難しますから、青竜王は先に……」
「さっきから何を言っているんだ?」
「弟を宥めるのは兄の役目でしょう。大丈夫。大丈夫だから紅竜王を落ち着かせねぇともっと被害が出て面倒になるぅ。今床が揺れてるの建物ですか? 俺が揺れてるぅ?」
視界が揺れている。天井から降るスプリンクラーの水が冷たくて気持ちいい様な、濡れて不快な様な訳の分からない気分だった。出来ることなら避難なんてせずにこの場で今すぐ意識を失ってしまいたい。
そんな頭痛が酷くて混乱しきりのアマネを見てどう思ったのか、男性が背後で天井が崩れたのを皮切りに一度息を吐くとアマネを抱え上げた。
「一人で避難させるよりオレと一緒にいるほうが安全だろう。用が済んだらすぐに避難するから、申し訳ないが少しだけ我慢してくれ」
「避難。違げぇ……まずは紅竜王を……」
「分かった分かった」
男性はアマネを背負い上げ、どうやら更に上の階へと向かうつもりらしい。上に用があると言っていたがこんな崩壊寸前のビルの上階に何の用があるのかとも思ったが、頭痛のせいでそれを問う余裕も無かった。
何故か持っていた中年男性の物と思われるスーツを持つように言われ、無言で抱える。
上の階は案の定というべきか、アマネが居た階よりも損壊が酷い。それでも時々まだ生きていたスプリンクラーを見つけては、男性はしっかりとその水で自身とアマネを冷やす。そうして周囲の熱気に対して僅かな対策をしては階段を駆け上がっていった。
時折割れた窓や崩れた壁から男性は外の竜に向かって呼びかけていたが、竜からの反応は無い。
「続! 返事をしろ!」
「……駄目です。届いてません。不完全だから感覚も制御出来てねぇ……」
「そうなのか」
「まだ完全じゃねぇから、不安定で、意識もぼんやり……」
自分に向けて話しかけている訳ではないと頭のどこかではちゃんと分かっているのに、アマネは何故か答えなければと思って何か言葉を発する。だがその言葉も自分で言っているのに何と言っているのか理解していなかった。
頭痛はまだ激しい痛みを伴っていて、視界は既に開けていても閉じていても変わらず、感覚だけが光源を拾っている様な状態だ。それでいて、何故か拍動を刻む様に竜の動きだけが認識できる。
アマネを背負った男性が更に上の階へと階段をかけ上りどこかの階に到着した途端、腹に響く重低音と一緒に爆風と炎が襲い掛かってきた。
衝撃に足を踏み外したらしい男性が、咄嗟に背負っていたアマネを無事な床の部分へ放り投げようとするのに、アマネは咄嗟に男性の腕を掴んで近くの壁を蹴る。反動で飛んだ身体が二人揃って赤いカーペットが残る床に転がった。
仰向けに寝転んだまま見上げた先に天井は無く、もうもうと立ち昇る煙と炎の向こうに都会特有の星の無い空が見える。
それから紅いエネルギーの集合体。
ごく至近距離で見ているからか、その身体に鱗が並んでいるのも緻密な表皮のうねりも分かる。なのにそれはエネルギーの集合体と表現した方が正しいと思えた。
頭痛が酷くなる。いっそのこと意識が跳んでしまえば楽になるだろうに、どうしてだか意識が途切れる気配だけは全く無かった。
「続、さぁ、帰るぞ」
隣で起き上がった男性が竜へ向けて呼びかける。男性の眼は、目の前の竜と同じ光を宿していた。
竜がぐっと身を伸ばし男性から顔を逸らす。その身体からほとばしった炎の塊が地上の到る所へと降り注ぎ、様々な場所で火事を引き起こしている。
夜闇に浮かぶ炎の明かりは、いっそ清々しいほどに美しい。地上に居たらまた別の感想を持つのだろうなと思ったところで、竜を止めようと手を伸ばしていた男性が自分の手を見つめている事に気付いた。
その手を覗き込めば、男性の掌にも目の前の竜と同じ様な鱗が浮き上がっている。
けれども一日に二回も、しかも一回目の痛みが無くなる間を置かずに来たのは非常に珍しい。
半分は痛みのせいで生理的に止まらない涙を拭って立ち上がる。途端にふらついて男性に支えられた。触れた手が暖かくて気持ちがいいと思うという事は、火災も起きている現場だというのにアマネの身体は冷えてしまっているらしい。頭痛のせいか。
「エレベーターまでは手を貸そう。三十三階まではエレベーターが使えていたから、そこまで降りればどうにか」
男性がそこまで言ったところで、男性の背後で轟音がした。見ればエレベーターのあった方角の天井が崩れて落ちている。思わず男性と顔を見合わせてしまったアマネはきっと悪くない。
「外じゃ何が起こってるんです?」
「竜が暴れているんだ」
「それは窓から見ました。紅い竜。怒ってるんじゃないんです。いや怒ってたんですけど、今はもう我を忘れているほうが強くて……今俺なんて言いました?」
頭痛が酷くて自分が支離滅裂な発言をしている気がする。このままでは避難どころか男性まで今以上の危険に巻き込んでしまうなと考えて、支えてくれていた手をやんわりと押し返した。
「すみません。もう少し落ち着いたら避難しますから、青竜王は先に……」
「さっきから何を言っているんだ?」
「弟を宥めるのは兄の役目でしょう。大丈夫。大丈夫だから紅竜王を落ち着かせねぇともっと被害が出て面倒になるぅ。今床が揺れてるの建物ですか? 俺が揺れてるぅ?」
視界が揺れている。天井から降るスプリンクラーの水が冷たくて気持ちいい様な、濡れて不快な様な訳の分からない気分だった。出来ることなら避難なんてせずにこの場で今すぐ意識を失ってしまいたい。
そんな頭痛が酷くて混乱しきりのアマネを見てどう思ったのか、男性が背後で天井が崩れたのを皮切りに一度息を吐くとアマネを抱え上げた。
「一人で避難させるよりオレと一緒にいるほうが安全だろう。用が済んだらすぐに避難するから、申し訳ないが少しだけ我慢してくれ」
「避難。違げぇ……まずは紅竜王を……」
「分かった分かった」
男性はアマネを背負い上げ、どうやら更に上の階へと向かうつもりらしい。上に用があると言っていたがこんな崩壊寸前のビルの上階に何の用があるのかとも思ったが、頭痛のせいでそれを問う余裕も無かった。
何故か持っていた中年男性の物と思われるスーツを持つように言われ、無言で抱える。
上の階は案の定というべきか、アマネが居た階よりも損壊が酷い。それでも時々まだ生きていたスプリンクラーを見つけては、男性はしっかりとその水で自身とアマネを冷やす。そうして周囲の熱気に対して僅かな対策をしては階段を駆け上がっていった。
時折割れた窓や崩れた壁から男性は外の竜に向かって呼びかけていたが、竜からの反応は無い。
「続! 返事をしろ!」
「……駄目です。届いてません。不完全だから感覚も制御出来てねぇ……」
「そうなのか」
「まだ完全じゃねぇから、不安定で、意識もぼんやり……」
自分に向けて話しかけている訳ではないと頭のどこかではちゃんと分かっているのに、アマネは何故か答えなければと思って何か言葉を発する。だがその言葉も自分で言っているのに何と言っているのか理解していなかった。
頭痛はまだ激しい痛みを伴っていて、視界は既に開けていても閉じていても変わらず、感覚だけが光源を拾っている様な状態だ。それでいて、何故か拍動を刻む様に竜の動きだけが認識できる。
アマネを背負った男性が更に上の階へと階段をかけ上りどこかの階に到着した途端、腹に響く重低音と一緒に爆風と炎が襲い掛かってきた。
衝撃に足を踏み外したらしい男性が、咄嗟に背負っていたアマネを無事な床の部分へ放り投げようとするのに、アマネは咄嗟に男性の腕を掴んで近くの壁を蹴る。反動で飛んだ身体が二人揃って赤いカーペットが残る床に転がった。
仰向けに寝転んだまま見上げた先に天井は無く、もうもうと立ち昇る煙と炎の向こうに都会特有の星の無い空が見える。
それから紅いエネルギーの集合体。
ごく至近距離で見ているからか、その身体に鱗が並んでいるのも緻密な表皮のうねりも分かる。なのにそれはエネルギーの集合体と表現した方が正しいと思えた。
頭痛が酷くなる。いっそのこと意識が跳んでしまえば楽になるだろうに、どうしてだか意識が途切れる気配だけは全く無かった。
「続、さぁ、帰るぞ」
隣で起き上がった男性が竜へ向けて呼びかける。男性の眼は、目の前の竜と同じ光を宿していた。
竜がぐっと身を伸ばし男性から顔を逸らす。その身体からほとばしった炎の塊が地上の到る所へと降り注ぎ、様々な場所で火事を引き起こしている。
夜闇に浮かぶ炎の明かりは、いっそ清々しいほどに美しい。地上に居たらまた別の感想を持つのだろうなと思ったところで、竜を止めようと手を伸ばしていた男性が自分の手を見つめている事に気付いた。
その手を覗き込めば、男性の掌にも目の前の竜と同じ様な鱗が浮き上がっている。