【瑞獣】
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イザナミ視点
「鬼灯が俺のことを『白澤』って呼ぶだろぉ?」
薬事の神とも称される身分になった古い知り合いである男は、火に掛けた鍋の様子を見ながら言う。
「でもそれって、鬼灯のことを『人と鬼火のミックスさん』って呼んでるようなモンだよなぁ。まぁ鬼灯に限った事じゃねぇんだけど」
「お前だってわらわを『イザナミ』と呼ぶじゃろう」
「たまに『ナミ』って呼ぶじゃん。つかお前はそれ名前だろぉ。黄泉の女神様だって言ったりしねぇだろぉ?」
「それがどうした?」
「……別に、名前を呼ばれてねぇと思っただけだよ」
鍋の中から甘い匂いがしている。大量のイチゴを貰ったからとジャムをおすそ分けに来たはいいが、作ってから持って来れば良いのにとも思う。
時々そんな変なことをするその男は、中国の瑞獣へ転生した『元人間』だった。
正確には人間ですらなく、イザナミよりも古き貴き神であるアメノミナカヌシよりも厳かなる『事象』の分身体ともいえる存在なのだが、本人はそれを受け入れきれずにいる。それに初めてイザナミと出会った時は、彼はまだ矮小な人間の一人であった。
矮小ではなかったのはその意志と決意と覚悟か。彼はそれらを以ってしてイザナミへ認めさせた者の一人だった。それが人の姿となることは出来こそすれ、吉兆の獣と転生している。
本来であれば誇るべき事だろうが、本人はそれを良しとはしていない。
イザナミにはその理由が分からない(人ひとり如きの思考など小さすぎて分かる訳が無い)のだが、当人曰く、『自分にはそんな価値などない』のだという。
そんな思いを抱え続けて、男が持っていたかつてイザナミへ認めさせた頃の気概は、今や鳴りをひそめている。残ってはいるのだろうが、彼が瑞獣『白澤』である限りそれは二度と見れやしないのだろう。
「鬼灯やお前の店の従業員へ教えれば良かろう」
「そしたら次は『何の遊びですか』と言われてお終いだぜぇ。俺には名前なんて無ぇと思われてるんだから」
白澤は世に一匹しかいない。だから名前などなくとも『白澤』と呼ばれれば済む事。
中身を焦がさないように鍋をかき混ぜている男の背後へと近付き、イザナミはその背から男の腹へ抱きつくように腕を伸ばす。
「どうしたぁ?」
気にした様子もなく訊いてくるが、イザナミの身体はかつて良人でさえも怯え逃げるほど醜く腐り果て、男はその姿も見ているのだ。なのに一片たりとも怯えもしなければ嫌がることも無い。
そこだけはずっと変わらなかった。多分これからも変わらない。
「……『アマネ』よ。まだ出来ぬのか?」
甘えるようにイザナミだけが知っている彼の『名前』を呼んでやれば、味見だと匙を差し出される。
男との付き合いは長い。おそらくこれからも続くであろうその付き合いを断ち切らない為には、イザナミだけでも時々は名を呼んでやるべきなのだろう。
「鬼灯が俺のことを『白澤』って呼ぶだろぉ?」
薬事の神とも称される身分になった古い知り合いである男は、火に掛けた鍋の様子を見ながら言う。
「でもそれって、鬼灯のことを『人と鬼火のミックスさん』って呼んでるようなモンだよなぁ。まぁ鬼灯に限った事じゃねぇんだけど」
「お前だってわらわを『イザナミ』と呼ぶじゃろう」
「たまに『ナミ』って呼ぶじゃん。つかお前はそれ名前だろぉ。黄泉の女神様だって言ったりしねぇだろぉ?」
「それがどうした?」
「……別に、名前を呼ばれてねぇと思っただけだよ」
鍋の中から甘い匂いがしている。大量のイチゴを貰ったからとジャムをおすそ分けに来たはいいが、作ってから持って来れば良いのにとも思う。
時々そんな変なことをするその男は、中国の瑞獣へ転生した『元人間』だった。
正確には人間ですらなく、イザナミよりも古き貴き神であるアメノミナカヌシよりも厳かなる『事象』の分身体ともいえる存在なのだが、本人はそれを受け入れきれずにいる。それに初めてイザナミと出会った時は、彼はまだ矮小な人間の一人であった。
矮小ではなかったのはその意志と決意と覚悟か。彼はそれらを以ってしてイザナミへ認めさせた者の一人だった。それが人の姿となることは出来こそすれ、吉兆の獣と転生している。
本来であれば誇るべき事だろうが、本人はそれを良しとはしていない。
イザナミにはその理由が分からない(人ひとり如きの思考など小さすぎて分かる訳が無い)のだが、当人曰く、『自分にはそんな価値などない』のだという。
そんな思いを抱え続けて、男が持っていたかつてイザナミへ認めさせた頃の気概は、今や鳴りをひそめている。残ってはいるのだろうが、彼が瑞獣『白澤』である限りそれは二度と見れやしないのだろう。
「鬼灯やお前の店の従業員へ教えれば良かろう」
「そしたら次は『何の遊びですか』と言われてお終いだぜぇ。俺には名前なんて無ぇと思われてるんだから」
白澤は世に一匹しかいない。だから名前などなくとも『白澤』と呼ばれれば済む事。
中身を焦がさないように鍋をかき混ぜている男の背後へと近付き、イザナミはその背から男の腹へ抱きつくように腕を伸ばす。
「どうしたぁ?」
気にした様子もなく訊いてくるが、イザナミの身体はかつて良人でさえも怯え逃げるほど醜く腐り果て、男はその姿も見ているのだ。なのに一片たりとも怯えもしなければ嫌がることも無い。
そこだけはずっと変わらなかった。多分これからも変わらない。
「……『アマネ』よ。まだ出来ぬのか?」
甘えるようにイザナミだけが知っている彼の『名前』を呼んでやれば、味見だと匙を差し出される。
男との付き合いは長い。おそらくこれからも続くであろうその付き合いを断ち切らない為には、イザナミだけでも時々は名を呼んでやるべきなのだろう。