【瑞獣】
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夢主視点
もう自分の名前も忘れてしまった鬼は戸惑ったようにアマネを見た。
「あの人に会いに来たんです。でもあの人の名前が分からなくて」
自分の名前も忘れてしまったくせに、その意志だけは覚えているらしい。どれだけ強い認識なのかと思って、アマネはゆっくりと問いかけた。
「どうして会いてぇの?」
「分かりません」
「分かんねぇって、君……」
「ああ、一人にしてはいけないと思ってました。あの人はいつも死にたがっていて、私はそれが嫌だったんです」
記憶がなくなりつつあるからか、鬼灯は素直に喋る。おそらく自身の人格も曖昧になりつつあるのだろう。
「いつも寂しげに笑っていたのを見るのが心苦しかった。自分を化け物だなんだと言う姿に昔の自分が重なりました。私は認めなかったけれど彼はそう思いこんでいた。あの人がいなくなったら私は何を抱いて昼寝をすればいいんですか」
桃源郷でいつも一緒に昼寝をしていた。あんな化け物の姿へ自分から寄りかかってくるのは世界でこの子くらいだった。
あの姿を褒めそやしたりへりくだったりする者だらけの中で、この子だけが全く見当違いな『モフモフですね』なんて感想を漏らしたことを思い出す。続いて偶蹄目ということは豚と同じかとも言ったけれど、そんなあけすけな感想はそれが初めてだった。
それを、思い出す。
「突き詰めて自分の存在についてそう悩まないで欲しかった。あの人が本当は私を嫌っていたとしてもどうでも良かった。あの人があの人であることを悪いなんて思わないで欲しかった。他に行く場所がないのなら私の元へ来てくれてもよかった」
はらはらと鬼火の子供の目から涙がこぼれる。
「あの人は自分で吉兆に相応しくないと言っていたけれど、あの人がいるだけで少なくとも私は幸せでした」
この世界で“たった一つ”の。
「そうしたら私は鬼でも亡者でもなんでもいい。桃源郷の片隅に生える草でも構いません。あの人が私を見ていつものように笑ってくれる。それだけで私は死んで鬼火の集合体になったことも決して苦ではなかったと思えます」
ガチャガチャと鎖の揺れる音が辺りへ響いている。
いつかの子鬼が、自分に触れてはにかんでいた姿を思い出す。平行世界へ存在しない自分へ出会った一人の子供。
片隅の草でいいと思っていたのは自分だ。この子がそんなことを思う必要なんてどこにも無かったはずだけれど、そんなことを思わせてしまっていたのなら、それは申し訳ないと思う。
滅びかけている世界に、漠然とした救いは必要か。
たった一つの救いが。
もう自分の名前も忘れてしまった鬼は戸惑ったようにアマネを見た。
「あの人に会いに来たんです。でもあの人の名前が分からなくて」
自分の名前も忘れてしまったくせに、その意志だけは覚えているらしい。どれだけ強い認識なのかと思って、アマネはゆっくりと問いかけた。
「どうして会いてぇの?」
「分かりません」
「分かんねぇって、君……」
「ああ、一人にしてはいけないと思ってました。あの人はいつも死にたがっていて、私はそれが嫌だったんです」
記憶がなくなりつつあるからか、鬼灯は素直に喋る。おそらく自身の人格も曖昧になりつつあるのだろう。
「いつも寂しげに笑っていたのを見るのが心苦しかった。自分を化け物だなんだと言う姿に昔の自分が重なりました。私は認めなかったけれど彼はそう思いこんでいた。あの人がいなくなったら私は何を抱いて昼寝をすればいいんですか」
桃源郷でいつも一緒に昼寝をしていた。あんな化け物の姿へ自分から寄りかかってくるのは世界でこの子くらいだった。
あの姿を褒めそやしたりへりくだったりする者だらけの中で、この子だけが全く見当違いな『モフモフですね』なんて感想を漏らしたことを思い出す。続いて偶蹄目ということは豚と同じかとも言ったけれど、そんなあけすけな感想はそれが初めてだった。
それを、思い出す。
「突き詰めて自分の存在についてそう悩まないで欲しかった。あの人が本当は私を嫌っていたとしてもどうでも良かった。あの人があの人であることを悪いなんて思わないで欲しかった。他に行く場所がないのなら私の元へ来てくれてもよかった」
はらはらと鬼火の子供の目から涙がこぼれる。
「あの人は自分で吉兆に相応しくないと言っていたけれど、あの人がいるだけで少なくとも私は幸せでした」
この世界で“たった一つ”の。
「そうしたら私は鬼でも亡者でもなんでもいい。桃源郷の片隅に生える草でも構いません。あの人が私を見ていつものように笑ってくれる。それだけで私は死んで鬼火の集合体になったことも決して苦ではなかったと思えます」
ガチャガチャと鎖の揺れる音が辺りへ響いている。
いつかの子鬼が、自分に触れてはにかんでいた姿を思い出す。平行世界へ存在しない自分へ出会った一人の子供。
片隅の草でいいと思っていたのは自分だ。この子がそんなことを思う必要なんてどこにも無かったはずだけれど、そんなことを思わせてしまっていたのなら、それは申し訳ないと思う。
滅びかけている世界に、漠然とした救いは必要か。
たった一つの救いが。