【瑞獣】
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鬼灯視点
巨大な扉の前だった。
確かギリシャの“エレボス”という神だったか、巨大なそれが扉へ絡みつく鎖を外そうとばかりに揺さぶっている。人格神ではなく概念に近しい神であるからか知性は人型の神程は無いらしい。
その巨体の下に、黒髪の男が立っていた。
名前は確かイスラム教の『シャイターン』だったか『イブリス』だったか。それとも日本の『■津■■者』だったか。二つ目の名前は既に人間の認知から消えかけているらしい。
「イブリス、さまですね?」
そう鬼灯が問いかけると男は悲しげに微笑んだ。世界が消えるかも知れないというのに、悲しげとはいえ男はまだ他と違って笑える余裕があるらしい。
EUの地獄の底に何故イスラム神話の登場人物である彼がという質問はナンセンスだろう。鬼灯はただ“ここへ来れば会える”と思っただけだった。
誰に、であったのかはもう名前も分からない。
「貴方が彼を?」
「いやぁ、アイツは本能に従って動いてるだけだろぉ。エレボスは本来そういう存在だしなぁ」
「けしかけた訳では無いのですね?」
「俺だったら絶対にけしかけない」
エレボスはまだ鎖を揺らしている。
「君はぁ?」
「……日本の地獄の鬼です」
「そうじゃなくて、なんでここにぃ?」
「ここへ来れば会えると思いまして」
「誰に」
「分かりません」
男は訝しげな表情をした。鬼灯も我が事で無かったなら同じ事をしただろう。
「消える前に会いたい方がいたようで。ですが既にその方は消えてしまったらしく私は何も覚えていないのです」
「閻魔大王じゃねぇの?」
「大王は、いいんです。きっと私の方が先に消えるでしょう。地獄関係者として同時かも知れませんが」
大王はいいのだ。きっと自分が先か地獄が先か、それとも同時くらいに消えるだろう。それくらい関連があるのだから。
忘れてしまった人はもしかしたら、鬼灯とはそんなに関連も無かったのかもしれない。だから鬼灯より先に消えてしまった。人間に忘れ去られて。もしくは何か違う理由で。
「消える前にあの人の何かを探そうと思いまして。そのくらいは自分勝手でもいいでしょう」
「よく言う。お前はいつもマイペースだったよ」
「そうなんですか」
少し男が驚いたようだった。
「ああ駄目ですね。そろそろ自分のことも忘れ始めてます」
「……地獄のことは」
「まだ覚えてますよ。消えるのはこういう感じなんですね」
平然と受け答えをしていたけれど、内心では怖いと思っている。男はまだ覚えているのに自分の名前が分からない。探しにきたのは覚えているのに同僚達の名前は忘れてしまった。
男がまだ消える様子のないことを“申し訳ない”と思う。そう思って、何故そう思ったのか分からなかった。
「ホオズキ?」
「――それ、私の名前ですか?」
巨大な扉の前だった。
確かギリシャの“エレボス”という神だったか、巨大なそれが扉へ絡みつく鎖を外そうとばかりに揺さぶっている。人格神ではなく概念に近しい神であるからか知性は人型の神程は無いらしい。
その巨体の下に、黒髪の男が立っていた。
名前は確かイスラム教の『シャイターン』だったか『イブリス』だったか。それとも日本の『■津■■者』だったか。二つ目の名前は既に人間の認知から消えかけているらしい。
「イブリス、さまですね?」
そう鬼灯が問いかけると男は悲しげに微笑んだ。世界が消えるかも知れないというのに、悲しげとはいえ男はまだ他と違って笑える余裕があるらしい。
EUの地獄の底に何故イスラム神話の登場人物である彼がという質問はナンセンスだろう。鬼灯はただ“ここへ来れば会える”と思っただけだった。
誰に、であったのかはもう名前も分からない。
「貴方が彼を?」
「いやぁ、アイツは本能に従って動いてるだけだろぉ。エレボスは本来そういう存在だしなぁ」
「けしかけた訳では無いのですね?」
「俺だったら絶対にけしかけない」
エレボスはまだ鎖を揺らしている。
「君はぁ?」
「……日本の地獄の鬼です」
「そうじゃなくて、なんでここにぃ?」
「ここへ来れば会えると思いまして」
「誰に」
「分かりません」
男は訝しげな表情をした。鬼灯も我が事で無かったなら同じ事をしただろう。
「消える前に会いたい方がいたようで。ですが既にその方は消えてしまったらしく私は何も覚えていないのです」
「閻魔大王じゃねぇの?」
「大王は、いいんです。きっと私の方が先に消えるでしょう。地獄関係者として同時かも知れませんが」
大王はいいのだ。きっと自分が先か地獄が先か、それとも同時くらいに消えるだろう。それくらい関連があるのだから。
忘れてしまった人はもしかしたら、鬼灯とはそんなに関連も無かったのかもしれない。だから鬼灯より先に消えてしまった。人間に忘れ去られて。もしくは何か違う理由で。
「消える前にあの人の何かを探そうと思いまして。そのくらいは自分勝手でもいいでしょう」
「よく言う。お前はいつもマイペースだったよ」
「そうなんですか」
少し男が驚いたようだった。
「ああ駄目ですね。そろそろ自分のことも忘れ始めてます」
「……地獄のことは」
「まだ覚えてますよ。消えるのはこういう感じなんですね」
平然と受け答えをしていたけれど、内心では怖いと思っている。男はまだ覚えているのに自分の名前が分からない。探しにきたのは覚えているのに同僚達の名前は忘れてしまった。
男がまだ消える様子のないことを“申し訳ない”と思う。そう思って、何故そう思ったのか分からなかった。
「ホオズキ?」
「――それ、私の名前ですか?」