【瑞獣】
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鬼灯視点
鬼灯がその場所へ赴く前、目の前で座敷童子の二人が消えた。それは同時に現世で『座敷童子』という概念を持った者がいなくなったということで、目の前でその二人が消えるという現象を見た鬼達が動揺して騒ぎになった。
その騒ぎは獄卒達に波立つように広まっていき、自分も消えるのではという恐怖に地獄の仕事などそれ以上出来るはずもなく。
「鬼灯様。オレたちも消えちゃうの?」
「どうでしょうね。でもシロさん達はまだまだ消えないと思いますよ」
不安がる白い犬の毛並みを撫でてやって、鬼灯は暫く会っていない白澤の事を思い出した。それから『あいつは今の状況を喜んでいるのだろうな』と憎く思う。
白澤は死にたがっていた。神獣である白澤を殺す方法は信仰心が消えるか『白澤』を知る者が一人残らず死ぬことだ。自殺こそしなかったが死にたいと望んでいた彼にとって、今の状況は願ってもないチャンスか。
もしかしたら既に消えているのではとも思ったが、それは無いなと考え直す。何故なら鬼灯はまだ白澤のことを覚えていた。
出雲からまだ閻魔大王達は戻ってこない。
「おーい――」
廊下の先でそう呼んでいた鬼が音もなく消える。金魚草はもう枯れ果てていた。
いつか鬼灯も消えてしまうのだろうか。だとしてもその前にもう一度『■■』に会いたい。
「……あれ」
無意識に呟いた。今自分は誰に会いたいと思ったのだったか。
そう考えた途端血の気が引いて、鬼灯は自室へと全速力で駆け戻った。そうして書類や本、手紙の山を散らかす勢いでひっくり返していってその『名前』を探す。置物や放り投げた引き出しが落ちて音を立てていようが構ってはいられなかった。
忘れたくない名前なのだ。忘れたくないと願う名前を、どうしてももう一度思い出さなければならない。
何故なら鬼灯が忘れてしまうということは、その人は世界から消えてしまうということだ。信仰心とかそんなのはどうでも良かった。
神格とか神力が無かろうがどうでもいい。ただ名前を。
「なま、え――」
探していた手が止まる。そうして信じられない事実に気付いてしまった。
鬼灯は彼の名前を知らない。いつも呼んでいたのは彼の種族名だ。
白い毛並みの、牛のような山羊の様な姿をしていた『気がする』だけ。日本の地獄ではないどこかでその人と何度も出会った『様な覚えがある』だけだ。
名前を呼ばれたことがある気がする。大声だったような。だがその声も思い出せなかった。
どこで出会ったのかももう思い出せない。
どんな関係であったのかも。
どんな想いを抱えていたかだけ、覚えている。
鬼灯がその場所へ赴く前、目の前で座敷童子の二人が消えた。それは同時に現世で『座敷童子』という概念を持った者がいなくなったということで、目の前でその二人が消えるという現象を見た鬼達が動揺して騒ぎになった。
その騒ぎは獄卒達に波立つように広まっていき、自分も消えるのではという恐怖に地獄の仕事などそれ以上出来るはずもなく。
「鬼灯様。オレたちも消えちゃうの?」
「どうでしょうね。でもシロさん達はまだまだ消えないと思いますよ」
不安がる白い犬の毛並みを撫でてやって、鬼灯は暫く会っていない白澤の事を思い出した。それから『あいつは今の状況を喜んでいるのだろうな』と憎く思う。
白澤は死にたがっていた。神獣である白澤を殺す方法は信仰心が消えるか『白澤』を知る者が一人残らず死ぬことだ。自殺こそしなかったが死にたいと望んでいた彼にとって、今の状況は願ってもないチャンスか。
もしかしたら既に消えているのではとも思ったが、それは無いなと考え直す。何故なら鬼灯はまだ白澤のことを覚えていた。
出雲からまだ閻魔大王達は戻ってこない。
「おーい――」
廊下の先でそう呼んでいた鬼が音もなく消える。金魚草はもう枯れ果てていた。
いつか鬼灯も消えてしまうのだろうか。だとしてもその前にもう一度『■■』に会いたい。
「……あれ」
無意識に呟いた。今自分は誰に会いたいと思ったのだったか。
そう考えた途端血の気が引いて、鬼灯は自室へと全速力で駆け戻った。そうして書類や本、手紙の山を散らかす勢いでひっくり返していってその『名前』を探す。置物や放り投げた引き出しが落ちて音を立てていようが構ってはいられなかった。
忘れたくない名前なのだ。忘れたくないと願う名前を、どうしてももう一度思い出さなければならない。
何故なら鬼灯が忘れてしまうということは、その人は世界から消えてしまうということだ。信仰心とかそんなのはどうでも良かった。
神格とか神力が無かろうがどうでもいい。ただ名前を。
「なま、え――」
探していた手が止まる。そうして信じられない事実に気付いてしまった。
鬼灯は彼の名前を知らない。いつも呼んでいたのは彼の種族名だ。
白い毛並みの、牛のような山羊の様な姿をしていた『気がする』だけ。日本の地獄ではないどこかでその人と何度も出会った『様な覚えがある』だけだ。
名前を呼ばれたことがある気がする。大声だったような。だがその声も思い出せなかった。
どこで出会ったのかももう思い出せない。
どんな関係であったのかも。
どんな想いを抱えていたかだけ、覚えている。