【瑞獣】
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夢主視点
現世での大災害やテロ行為、大事件が続いて信仰を失った神々が消えていく。桃太郎の話ではおとぎ話のキャラクターだった者もいなくなっているような気がするらしい。『気がする』というのは消えたキャラクターのことを桃太郎達も思い出せないからである。そんな奴がいたようないなかったようなという曖昧な感覚が不安を呼び起こし、既に引きこもっているような者もいると聞いた。
小さい国で信仰されている者、秘密結社でだけ信仰されている者などが信仰は得られずともせめて認知だけでもと日本やEUへ多く押し掛けていると聞いている。アマネも何柱かの知人から相談を受けはしたが、明確な答えは何も返せなかった。
滅びかけている世界に神という漠然とした救いは必要か。
現世の日本人が『神様仏様』と祈るのと同様に、世界へ広く蔓延している唯一神である宗教に触れる者はその神へ祈るだろう。今や知名度の低い神は忘れられ、神威を発揮できずに失望したその神からそちらへ信仰の対象を変えた者も多いと思われる。
祈り信仰する者が増えればその神格はより高まるのだ。だがその神が何かをしてやるかどうかは別である。
家来だったシロ達が心配だからと言った桃太郎に有給をあげて地獄へと行かせた日。アマネが一人で調合をしていると店の戸が叩かれた。
振り返れば戸口に薄い本を持って背中に羽を生やした天使が、足下でたむろするウサギ達に前へ進めなくなって困っている。アマネが振り返った事に気付いて上げられた顔が不満そうにしかめられた。
「――やぁ。『Azrael』」
アマネが目を細めれば天使は足を高く上げてウサギ達を踏まないように店の中へと入ってくる。それを見てアマネは作業の手を止めて天使へ開いていた椅子を示しお茶の用意を始めた。
「君が来るのは珍しいなぁ」
「出来れば来たくなかった」
冷蔵庫の中を確認し、少し考えてからタピオカ入りのアイスジャスミンティーを淹れる。それを天使へと出せば天使はタピオカをマジマジと観察していた。
アズラーイール。イスラム神話の天使の一人にして、『イブリス』が堕天する切っ掛けの発言をするに至る人間を土から上手く作り上げた天使だ。人間を作ったのは諸説あるが、誰が作ったにせよ『イブリス』は堕天してキリスト教でいうところの『サタン』と同格扱いになっている。
ストローでタピオカを吸い込んだアズラーイールがタピオカの食感を楽しんで感心してから、アマネを真面目に見やった。
「我らが主よりの言伝である。『お前がやったのか』」
「俺はやらない」
竜にも言えることだが牛や山羊の類は西洋だと悪魔になる。神の生け贄として捧げられるのは山羊や牛だった。だがそもそも生け贄を用いる儀式があまりよろしくない儀式であるとされており、その儀式で使われる山羊は悪魔の生け贄として汚れた存在になったという認識からきている。
そこから悪魔と山羊は切っても切れない関係になった。
アマネは見た目だけは牛のような『山羊』の様な姿だ。それ故に安直に良く思わない者は多かった。そんな事をせずとも、アマネは最初から『悪魔』だったというのに。
「俺は、こんな『あの人』が苦しむような真似は絶対にしねぇ。それは君や君の主がしっかり理解してるだろぉ。だからあの『封印』も解かない」
「――だろうな。だがそうは思わない者もいる」
「誰?」
「私には分からん。だが最後の審判をより早く起こそうと考える者が一人もいないとは言い切れまい?」
アマネは同意も反論も出来なかった。アズラーイールが持っていた薄い本を机の上へと置く。
生きている人間の名前と寿命に関する事が記されている本だ。それが薄いということは、現世に生きている人間が少ないということである。『死の天使』とも呼ばれているだけあって、アズラーイールは人の死を司っていた。
そういう自分へ課せられた努めへ対して天使は常に真摯である。アマネとは大違いだ。
「……我らが主から、もう一つ言伝がある。このままでは最後の審判すら起こせないやも知れないらしい」
「主神さえも信仰と認知から外れるとぉ?」
「我らが主が消えることはあるまい。だが審判を補佐する者がいなくなる」
「……もしかしてもう誰か消えてるのかぁ?」
「おそらくは。だが『記憶にない』」
苦々しく告げてアズラーイールは本の上へ手を重ねた。
「このままではこの世界が消えると我らが主はお考えだ」
「それを俺に言ってどうするぅ?」
「最後に残るのはお前とあの『事象』だと我らが主が仰られた」
アマネは続けようとした言葉を飲み込んで黙り込む。
「『どうせ消えるのなら、あの『事象』をお前に返そう』……それが、我らが主からの言伝だ。ギリシャのゼウス神や日本の天照大御神、その他の御柱からも合意は頂いたらしい」
日本、と聞いて日本の地獄にいる鬼神を思い出した。亡者が多くて忙しいらしく暫く会っていない。最後に会ったのはいつだったか。
こうして喋っている間もきっと地獄は亡者が溢れている。鬼灯と昼寝をしたいなとぼんやり思った。
「お前が見届けろ。『Al・Shaytan』」
現世での大災害やテロ行為、大事件が続いて信仰を失った神々が消えていく。桃太郎の話ではおとぎ話のキャラクターだった者もいなくなっているような気がするらしい。『気がする』というのは消えたキャラクターのことを桃太郎達も思い出せないからである。そんな奴がいたようないなかったようなという曖昧な感覚が不安を呼び起こし、既に引きこもっているような者もいると聞いた。
小さい国で信仰されている者、秘密結社でだけ信仰されている者などが信仰は得られずともせめて認知だけでもと日本やEUへ多く押し掛けていると聞いている。アマネも何柱かの知人から相談を受けはしたが、明確な答えは何も返せなかった。
滅びかけている世界に神という漠然とした救いは必要か。
現世の日本人が『神様仏様』と祈るのと同様に、世界へ広く蔓延している唯一神である宗教に触れる者はその神へ祈るだろう。今や知名度の低い神は忘れられ、神威を発揮できずに失望したその神からそちらへ信仰の対象を変えた者も多いと思われる。
祈り信仰する者が増えればその神格はより高まるのだ。だがその神が何かをしてやるかどうかは別である。
家来だったシロ達が心配だからと言った桃太郎に有給をあげて地獄へと行かせた日。アマネが一人で調合をしていると店の戸が叩かれた。
振り返れば戸口に薄い本を持って背中に羽を生やした天使が、足下でたむろするウサギ達に前へ進めなくなって困っている。アマネが振り返った事に気付いて上げられた顔が不満そうにしかめられた。
「――やぁ。『Azrael』」
アマネが目を細めれば天使は足を高く上げてウサギ達を踏まないように店の中へと入ってくる。それを見てアマネは作業の手を止めて天使へ開いていた椅子を示しお茶の用意を始めた。
「君が来るのは珍しいなぁ」
「出来れば来たくなかった」
冷蔵庫の中を確認し、少し考えてからタピオカ入りのアイスジャスミンティーを淹れる。それを天使へと出せば天使はタピオカをマジマジと観察していた。
アズラーイール。イスラム神話の天使の一人にして、『イブリス』が堕天する切っ掛けの発言をするに至る人間を土から上手く作り上げた天使だ。人間を作ったのは諸説あるが、誰が作ったにせよ『イブリス』は堕天してキリスト教でいうところの『サタン』と同格扱いになっている。
ストローでタピオカを吸い込んだアズラーイールがタピオカの食感を楽しんで感心してから、アマネを真面目に見やった。
「我らが主よりの言伝である。『お前がやったのか』」
「俺はやらない」
竜にも言えることだが牛や山羊の類は西洋だと悪魔になる。神の生け贄として捧げられるのは山羊や牛だった。だがそもそも生け贄を用いる儀式があまりよろしくない儀式であるとされており、その儀式で使われる山羊は悪魔の生け贄として汚れた存在になったという認識からきている。
そこから悪魔と山羊は切っても切れない関係になった。
アマネは見た目だけは牛のような『山羊』の様な姿だ。それ故に安直に良く思わない者は多かった。そんな事をせずとも、アマネは最初から『悪魔』だったというのに。
「俺は、こんな『あの人』が苦しむような真似は絶対にしねぇ。それは君や君の主がしっかり理解してるだろぉ。だからあの『封印』も解かない」
「――だろうな。だがそうは思わない者もいる」
「誰?」
「私には分からん。だが最後の審判をより早く起こそうと考える者が一人もいないとは言い切れまい?」
アマネは同意も反論も出来なかった。アズラーイールが持っていた薄い本を机の上へと置く。
生きている人間の名前と寿命に関する事が記されている本だ。それが薄いということは、現世に生きている人間が少ないということである。『死の天使』とも呼ばれているだけあって、アズラーイールは人の死を司っていた。
そういう自分へ課せられた努めへ対して天使は常に真摯である。アマネとは大違いだ。
「……我らが主から、もう一つ言伝がある。このままでは最後の審判すら起こせないやも知れないらしい」
「主神さえも信仰と認知から外れるとぉ?」
「我らが主が消えることはあるまい。だが審判を補佐する者がいなくなる」
「……もしかしてもう誰か消えてるのかぁ?」
「おそらくは。だが『記憶にない』」
苦々しく告げてアズラーイールは本の上へ手を重ねた。
「このままではこの世界が消えると我らが主はお考えだ」
「それを俺に言ってどうするぅ?」
「最後に残るのはお前とあの『事象』だと我らが主が仰られた」
アマネは続けようとした言葉を飲み込んで黙り込む。
「『どうせ消えるのなら、あの『事象』をお前に返そう』……それが、我らが主からの言伝だ。ギリシャのゼウス神や日本の天照大御神、その他の御柱からも合意は頂いたらしい」
日本、と聞いて日本の地獄にいる鬼神を思い出した。亡者が多くて忙しいらしく暫く会っていない。最後に会ったのはいつだったか。
こうして喋っている間もきっと地獄は亡者が溢れている。鬼灯と昼寝をしたいなとぼんやり思った。
「お前が見届けろ。『Al・Shaytan』」