【瑞獣】
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鬼灯視点
麒麟はどんな小さな命さえ奪うことは出来ない。それは瑞獣である鳳凰も白澤も応竜も他の様々な神獣達がそうである。
逆に言うならば『命を奪ったら瑞獣ではいられない』ということもであった。
普通なら瑞獣達は存在すると同時に無意識にそれを理解して、無意識にも何物の命さえ奪わないように生きていられる。草花を潰さずに歩けるし、肉や野菜を食わず霞を食って生きていられたのだ。
けれども白澤は違う。漢方薬を作るのに植物を収穫し、それを加工する術を持っている。死や血やケガレの蔓延する地獄へだって立ち入る事が出来た。
鬼灯はそれに疑問を抱いたことはない。白澤は至って普通に地獄へ出入りし、亡者に触れその死肉を集めることもあった。
麒麟や鳳凰にはそれが出来ないのだと、鬼灯は聞かされて初めて知ったのである。
どこかの国で神が“死”に、暫くが経った。現世では相変わらず災害や事件や事故が多発しどんどん人が亡者として地獄へ向かっている。当初はこの勢いだと人間が滅んじまうなと幼なじみの獄卒が言っていたが、それが冗談で済まされない程度にまで滅亡の足音は響いていた。
その知名度の低い神が消えたのが最初だ。次は現世で流行病が蔓延して小さな国が一つ消えた。とある神を信仰している国だ。
「“■■■■■■”? そんな神様いました?」
年若い獄卒が首を傾げてそう言う横で、その神を信仰していた国の文化を調べていた学者だった亡者が頷いている。
「“■■■■■”? 変な名前ですね」
「“■■■■■”? わかんないです」
「“■■■■■”? 何すかそれ、美味しそう」
「“■■■■■”? 知らね」
「“■■■■■”? そんなことよりハンコくださぁい」
そんなことが何度も続いて、鬼灯の記憶からもその名前が消えていく。時々鬼灯と同じように覚えている者がいて、自分の記憶か正しいのかどうか分からず混乱するなんて騒ぎも増えた。
閻魔大王が消えないのは現世の民衆が地獄の存在をまだ誰かが覚えているから。日本の様に神社の様な奉る場所がある国は神々も忘れられにくかったが、アメリカからはキリストやアッラーの様な有名どころを除いて全てがいなくなった。北米神話の神々はまだ辛うじて存在しているが、それも時間の問題だろう。
「白澤さんも、いつかは消えてしまうのですか」
「そうかも知れねぇなぁ」
神々がそれに気付いて日本やイギリスへ泣きつき、既に現世では数十年経っていた。桃源郷では桃の木が数本枯れてしまったらしい。
「鬼灯もいつか俺を忘れるのかなぁ」
白澤は笑ってそう言い、殴り飛ばしたのを覚えている。
「“白澤”という神を知ってますか?」
「知ってるよ。薬の神様だろ?」
いつの頃からか鬼灯は亡者にそんなことを訊ねるようになっていた。
ある年の十月。日本では出雲へ神々が集まる月だった。日本の神々も数柱が既に消えてしまっていて、閻魔やイザナミが出雲へ向かうのを見送りに出た鬼灯は何とも言えなくなる。
麒麟はまだ存在している。ビールのラベルのお陰だと当人は冗談かどうか分からないことを言う。鳳凰は日本の漫画家は偉いと言っていた。閻魔は最初に死んだのだからもういつでも構わないなんてほざいていたから殴ってある。
イザナミは。
「鬼はなかなかいなくならぬの。ドラゴンや妖精も同じだのう」
「個々の質はともかく知名度は高いですからね。ゲームやマンガというサブカルチャーは強いですよ」
「わらわもまだまだじゃ。……まさかこんな消え方をするとは思うておらんかったがのう」
日本の神々の母にとっても意外だったらしい。だろうなと思う。
EUのほうでも既に多くの悪魔が消えたらしい。流石というべきかサタンやリリス、ベルゼバブはまだ消えていなかった。だが執事だった山羊は消えてしまったらしい。ベルセバブからの連絡ではリリスがずっと悲しんでいるという。
サタンなんてきっと最後まで残るではないだろうか。一神教の神の敵対者。
信仰してくれる人間がいなくなり、認知されなくなった神から消えていく。消えた神々がどこへいっているのかは分からない。
人間をいくら転生させても、情報の少ない神はそのまま誰にも思い出されず消えたまま。災害で文献などの認識にたる材料が失われ、口伝でも伝えられる程覚えている者が減っていくからだ。
記憶を持ったまま転生はさせられない。そもそも死ぬ量に生まれる量が追いついていなかった。
いつかこの世界も全て消えてしまうではという恐怖は広まりつつある。
「鬼灯。お前は世界が滅ぶ寸前を見たことがあるか?」
「今まさにそうなろうとしていますね」
「『白澤』はのう。一夜にして滅ぶ寸前というものを何度か経験しておった」
イザナミは白澤と親しかったのを思い出した。その理由までは知らないが古い付き合いだと聞いた覚えがある。
「緩やかに滅びゆく今とは違う。一夜じゃ。一夜で全てが消える。そういう事が出来る『事象』が、実のところまだ残っておる」
「死神の方々ですか? それともサタン様?」
「……そのお方を、あやつの『兄』が守っておるのじゃ」
白澤の兄、と聞いて今まで何度か聞いたことがある白澤の妄言を思い出す。確かに白澤は何度か『兄がいる』様な物言いをしたことがあったが、それは妄想か冗談だと鬼灯は考えていた。
だって『白澤』は番いすら存在しない唯一無二の神獣だ。
「神が消えているのは災害で人が死んでおるからだけではない。神が死に甦るまでの間に神意が果たせぬからじゃ。神へ奇跡を望む人間の前へ奇跡を起こせぬ神は失望され信仰を失い忘れ去られる。それが狙いじゃとすれば……」
そう言ってイザナミは出雲へと向かった。
麒麟はどんな小さな命さえ奪うことは出来ない。それは瑞獣である鳳凰も白澤も応竜も他の様々な神獣達がそうである。
逆に言うならば『命を奪ったら瑞獣ではいられない』ということもであった。
普通なら瑞獣達は存在すると同時に無意識にそれを理解して、無意識にも何物の命さえ奪わないように生きていられる。草花を潰さずに歩けるし、肉や野菜を食わず霞を食って生きていられたのだ。
けれども白澤は違う。漢方薬を作るのに植物を収穫し、それを加工する術を持っている。死や血やケガレの蔓延する地獄へだって立ち入る事が出来た。
鬼灯はそれに疑問を抱いたことはない。白澤は至って普通に地獄へ出入りし、亡者に触れその死肉を集めることもあった。
麒麟や鳳凰にはそれが出来ないのだと、鬼灯は聞かされて初めて知ったのである。
どこかの国で神が“死”に、暫くが経った。現世では相変わらず災害や事件や事故が多発しどんどん人が亡者として地獄へ向かっている。当初はこの勢いだと人間が滅んじまうなと幼なじみの獄卒が言っていたが、それが冗談で済まされない程度にまで滅亡の足音は響いていた。
その知名度の低い神が消えたのが最初だ。次は現世で流行病が蔓延して小さな国が一つ消えた。とある神を信仰している国だ。
「“■■■■■■”? そんな神様いました?」
年若い獄卒が首を傾げてそう言う横で、その神を信仰していた国の文化を調べていた学者だった亡者が頷いている。
「“■■■■■”? 変な名前ですね」
「“■■■■■”? わかんないです」
「“■■■■■”? 何すかそれ、美味しそう」
「“■■■■■”? 知らね」
「“■■■■■”? そんなことよりハンコくださぁい」
そんなことが何度も続いて、鬼灯の記憶からもその名前が消えていく。時々鬼灯と同じように覚えている者がいて、自分の記憶か正しいのかどうか分からず混乱するなんて騒ぎも増えた。
閻魔大王が消えないのは現世の民衆が地獄の存在をまだ誰かが覚えているから。日本の様に神社の様な奉る場所がある国は神々も忘れられにくかったが、アメリカからはキリストやアッラーの様な有名どころを除いて全てがいなくなった。北米神話の神々はまだ辛うじて存在しているが、それも時間の問題だろう。
「白澤さんも、いつかは消えてしまうのですか」
「そうかも知れねぇなぁ」
神々がそれに気付いて日本やイギリスへ泣きつき、既に現世では数十年経っていた。桃源郷では桃の木が数本枯れてしまったらしい。
「鬼灯もいつか俺を忘れるのかなぁ」
白澤は笑ってそう言い、殴り飛ばしたのを覚えている。
「“白澤”という神を知ってますか?」
「知ってるよ。薬の神様だろ?」
いつの頃からか鬼灯は亡者にそんなことを訊ねるようになっていた。
ある年の十月。日本では出雲へ神々が集まる月だった。日本の神々も数柱が既に消えてしまっていて、閻魔やイザナミが出雲へ向かうのを見送りに出た鬼灯は何とも言えなくなる。
麒麟はまだ存在している。ビールのラベルのお陰だと当人は冗談かどうか分からないことを言う。鳳凰は日本の漫画家は偉いと言っていた。閻魔は最初に死んだのだからもういつでも構わないなんてほざいていたから殴ってある。
イザナミは。
「鬼はなかなかいなくならぬの。ドラゴンや妖精も同じだのう」
「個々の質はともかく知名度は高いですからね。ゲームやマンガというサブカルチャーは強いですよ」
「わらわもまだまだじゃ。……まさかこんな消え方をするとは思うておらんかったがのう」
日本の神々の母にとっても意外だったらしい。だろうなと思う。
EUのほうでも既に多くの悪魔が消えたらしい。流石というべきかサタンやリリス、ベルゼバブはまだ消えていなかった。だが執事だった山羊は消えてしまったらしい。ベルセバブからの連絡ではリリスがずっと悲しんでいるという。
サタンなんてきっと最後まで残るではないだろうか。一神教の神の敵対者。
信仰してくれる人間がいなくなり、認知されなくなった神から消えていく。消えた神々がどこへいっているのかは分からない。
人間をいくら転生させても、情報の少ない神はそのまま誰にも思い出されず消えたまま。災害で文献などの認識にたる材料が失われ、口伝でも伝えられる程覚えている者が減っていくからだ。
記憶を持ったまま転生はさせられない。そもそも死ぬ量に生まれる量が追いついていなかった。
いつかこの世界も全て消えてしまうではという恐怖は広まりつつある。
「鬼灯。お前は世界が滅ぶ寸前を見たことがあるか?」
「今まさにそうなろうとしていますね」
「『白澤』はのう。一夜にして滅ぶ寸前というものを何度か経験しておった」
イザナミは白澤と親しかったのを思い出した。その理由までは知らないが古い付き合いだと聞いた覚えがある。
「緩やかに滅びゆく今とは違う。一夜じゃ。一夜で全てが消える。そういう事が出来る『事象』が、実のところまだ残っておる」
「死神の方々ですか? それともサタン様?」
「……そのお方を、あやつの『兄』が守っておるのじゃ」
白澤の兄、と聞いて今まで何度か聞いたことがある白澤の妄言を思い出す。確かに白澤は何度か『兄がいる』様な物言いをしたことがあったが、それは妄想か冗談だと鬼灯は考えていた。
だって『白澤』は番いすら存在しない唯一無二の神獣だ。
「神が消えているのは災害で人が死んでおるからだけではない。神が死に甦るまでの間に神意が果たせぬからじゃ。神へ奇跡を望む人間の前へ奇跡を起こせぬ神は失望され信仰を失い忘れ去られる。それが狙いじゃとすれば……」
そう言ってイザナミは出雲へと向かった。