【瑞獣】
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夢主視点
「モリリーン! もうイヤ! 愚痴聞いてッ」
言うなり店へ飛び込んできた日本の女神に、使った鍋を洗っていた桃太郎が驚いたように振り返った。そんな店員の絶句をよそに、日本の女神こと『菊理媛神』は反応が遅れて振り返られなかったアマネの背中へ飛びついて涙を押しつけている。
「もうイヤ! イザナギ様もイザナミ様も無茶振りばっかり!」
「ククリちゃん。愚痴は聞いてあげるからちょっと離れなさい。なぁ?」
「人間達も努力しないでカネモチの男がいいだのあのブスよりイイ男だの訳わかんない!」
「うんうんそうだなぁ。ククリちゃんお茶飲むかぁ?」
「抹茶オレがいい」
「はいはい」
背中へへばりついていた女神を引きはがしてとりあえず椅子へ座らせる。それから近くにいたウサギをその腕へ抱かせてからアマネが台所へ向かえば、コソコソと桃太郎が側にやってきた。
「あの、あの方は?」
「日本の女神の一人の『菊理媛神』だよ」
『菊理媛神』とは古事記にその名前はないが、日本書紀にはその名前が記されている女神である。イザナギとイザナミによる『国生み』の後、黄泉の国に行ってしまったイザナミの姿を見て逃げ戻ったイザナギとの黄泉比良坂での決別の際に登場し、二人の仲介をしたとされていた。
言い争っていた二人を円満(とは言い難いモノの)に和解させたとして、同時に『ククリ』という名前の語原が『括る』に通じることから縁結びの神となっている。
「昔にナミとナギの仲裁なんてしたもんだから、二人から時々それぞれの愚痴を聞かされてんだよ。んで、自分の愚痴が貯まると俺にその愚痴をこぼしに来る」
抹茶オレを淹れる途中でこっそりと様子を窺えば、ククリヒメは抱いたウサギの腹を揉んでいた。気持ちは分かるが揉みすぎないで欲しい。
同じようにククリヒメの様子を窺っていた桃太郎は、イザナミは知っているだろうがイザナギは確か会ったことがないだろう。だからイザナギがどんな奴であるかは知らない筈である。
知っていたらククリヒメに同情するだろうなと思いつつ、お茶請けは何がいいだろうかと棚を漁っていると、ふと何かに気付いたように桃太郎が振り返った。
「さっきの『モリリーン』って白澤さまのコトっすか?」
「うん。正確には『モリリン』らしい」
「……白澤って名前と全く掠りもしませんけど、なんでモリリン?」
茶箪笥の中にあったアルフォートを見つけて桃太郎を見る。アルフォートを嫌がられたら冷蔵庫の中のチョコレートタルトしかないのだが、それは鬼灯にあげようと思っているモノだ。
「俺のもう一つの神格『黄泉道守者 』からとって、『モリリン』らしいぜぇ」
『菊理媛神』と同じく日本書紀の、黄泉比良坂での決別の際に登場する神の名前である。しかしその詳細は菊理媛神以上に少なく、黄泉比良坂の道の擬神化かイザナギが道を塞ぐのに使った岩の擬神化なのではという説があるだけの神だ。奉っている神社もない。
それがアマネのもう一つの神としての名前だった。
とはいえその名前自体は白澤になるよりも更に昔、まだアマネが百年単位をやっと生きていた頃に初めて出会ったイザナミからもらったものである。
その頃はあだ名のつもりでいたのだが、この世界に来てイザナミに再会して、日本を大陸から切り離したイザナミとイザナギが黄泉比良坂で滅茶苦茶喧嘩をしていた際にククリヒメと一緒に仲裁に入ったら定着したのだ。
閻魔大王と地蔵様が別物である様に、本来は『白澤』と『黄泉道守者』とも別物であるべきだとは思った。でなければ持つ神意が違うだろう。だがそれ以上に、アマネが持っていた性質が勝ったのだろうとイザナミは言っていた。
そういう訳でアマネは“複数の神格”を抱えている。『白澤』という神格は実のところ一番新しいのだ。アマネの中では。
「イザナギ様もイザナギ様だと思わない!? アマテラス様だって忙しいのに昔の子供感覚でコミュニケーションとか無理に決まってるでしょ!?」
「日本の主神だもんなぁ」
「イザナミ様はまだいいわよ。あの人地獄で遊ぶから愚痴も少ないし女子会行くと奢ってくれるし。でもイザナギ様! イザナギ様は駄目! 最近あの人セクハラオヤジ寸前よ! ――あ、これ美味しい」
「男親ってのは子供との接し方が分かんねぇもんだよ」
「それが分かってもらえれば苦労してないの! 挙げ句の果てには『ワシと娘の縁を括ってくれ』よ! 縁結び! 確かにそういう縁もあるけど親子なら自分でどうにかなさいよ!」
「ククリちゃんはやさしい子だからなぁ。ナギも甘えちゃうんだろぉ」
「こんなことなら仲裁なんてしなければ良かったあ……」
しみじみと後悔するククリヒメは、そうは言ってもまた他の神で誰かが同じ様なことをしたら仲裁に入ってしまうだろう。そういう気質の女神なのである。
「モリリンのところにはイザナギ様来ないの?」
「時々来るけどそこまでわがままは言わねぇよ。多分あれは俺が怒るのを警戒してんだろうけどぉ」
「モリリンくらいだよイザナギ様に怒れるの」
「怒る様なことをするのが悪ぃんだよ。俺アイツに何されたと思う?」
「知らない」
「だろうなぁ」
「モリリーン! もうイヤ! 愚痴聞いてッ」
言うなり店へ飛び込んできた日本の女神に、使った鍋を洗っていた桃太郎が驚いたように振り返った。そんな店員の絶句をよそに、日本の女神こと『菊理媛神』は反応が遅れて振り返られなかったアマネの背中へ飛びついて涙を押しつけている。
「もうイヤ! イザナギ様もイザナミ様も無茶振りばっかり!」
「ククリちゃん。愚痴は聞いてあげるからちょっと離れなさい。なぁ?」
「人間達も努力しないでカネモチの男がいいだのあのブスよりイイ男だの訳わかんない!」
「うんうんそうだなぁ。ククリちゃんお茶飲むかぁ?」
「抹茶オレがいい」
「はいはい」
背中へへばりついていた女神を引きはがしてとりあえず椅子へ座らせる。それから近くにいたウサギをその腕へ抱かせてからアマネが台所へ向かえば、コソコソと桃太郎が側にやってきた。
「あの、あの方は?」
「日本の女神の一人の『菊理媛神』だよ」
『菊理媛神』とは古事記にその名前はないが、日本書紀にはその名前が記されている女神である。イザナギとイザナミによる『国生み』の後、黄泉の国に行ってしまったイザナミの姿を見て逃げ戻ったイザナギとの黄泉比良坂での決別の際に登場し、二人の仲介をしたとされていた。
言い争っていた二人を円満(とは言い難いモノの)に和解させたとして、同時に『ククリ』という名前の語原が『括る』に通じることから縁結びの神となっている。
「昔にナミとナギの仲裁なんてしたもんだから、二人から時々それぞれの愚痴を聞かされてんだよ。んで、自分の愚痴が貯まると俺にその愚痴をこぼしに来る」
抹茶オレを淹れる途中でこっそりと様子を窺えば、ククリヒメは抱いたウサギの腹を揉んでいた。気持ちは分かるが揉みすぎないで欲しい。
同じようにククリヒメの様子を窺っていた桃太郎は、イザナミは知っているだろうがイザナギは確か会ったことがないだろう。だからイザナギがどんな奴であるかは知らない筈である。
知っていたらククリヒメに同情するだろうなと思いつつ、お茶請けは何がいいだろうかと棚を漁っていると、ふと何かに気付いたように桃太郎が振り返った。
「さっきの『モリリーン』って白澤さまのコトっすか?」
「うん。正確には『モリリン』らしい」
「……白澤って名前と全く掠りもしませんけど、なんでモリリン?」
茶箪笥の中にあったアルフォートを見つけて桃太郎を見る。アルフォートを嫌がられたら冷蔵庫の中のチョコレートタルトしかないのだが、それは鬼灯にあげようと思っているモノだ。
「俺のもう一つの神格『
『菊理媛神』と同じく日本書紀の、黄泉比良坂での決別の際に登場する神の名前である。しかしその詳細は菊理媛神以上に少なく、黄泉比良坂の道の擬神化かイザナギが道を塞ぐのに使った岩の擬神化なのではという説があるだけの神だ。奉っている神社もない。
それがアマネのもう一つの神としての名前だった。
とはいえその名前自体は白澤になるよりも更に昔、まだアマネが百年単位をやっと生きていた頃に初めて出会ったイザナミからもらったものである。
その頃はあだ名のつもりでいたのだが、この世界に来てイザナミに再会して、日本を大陸から切り離したイザナミとイザナギが黄泉比良坂で滅茶苦茶喧嘩をしていた際にククリヒメと一緒に仲裁に入ったら定着したのだ。
閻魔大王と地蔵様が別物である様に、本来は『白澤』と『黄泉道守者』とも別物であるべきだとは思った。でなければ持つ神意が違うだろう。だがそれ以上に、アマネが持っていた性質が勝ったのだろうとイザナミは言っていた。
そういう訳でアマネは“複数の神格”を抱えている。『白澤』という神格は実のところ一番新しいのだ。アマネの中では。
「イザナギ様もイザナギ様だと思わない!? アマテラス様だって忙しいのに昔の子供感覚でコミュニケーションとか無理に決まってるでしょ!?」
「日本の主神だもんなぁ」
「イザナミ様はまだいいわよ。あの人地獄で遊ぶから愚痴も少ないし女子会行くと奢ってくれるし。でもイザナギ様! イザナギ様は駄目! 最近あの人セクハラオヤジ寸前よ! ――あ、これ美味しい」
「男親ってのは子供との接し方が分かんねぇもんだよ」
「それが分かってもらえれば苦労してないの! 挙げ句の果てには『ワシと娘の縁を括ってくれ』よ! 縁結び! 確かにそういう縁もあるけど親子なら自分でどうにかなさいよ!」
「ククリちゃんはやさしい子だからなぁ。ナギも甘えちゃうんだろぉ」
「こんなことなら仲裁なんてしなければ良かったあ……」
しみじみと後悔するククリヒメは、そうは言ってもまた他の神で誰かが同じ様なことをしたら仲裁に入ってしまうだろう。そういう気質の女神なのである。
「モリリンのところにはイザナギ様来ないの?」
「時々来るけどそこまでわがままは言わねぇよ。多分あれは俺が怒るのを警戒してんだろうけどぉ」
「モリリンくらいだよイザナギ様に怒れるの」
「怒る様なことをするのが悪ぃんだよ。俺アイツに何されたと思う?」
「知らない」
「だろうなぁ」