【瑞獣】
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鬼灯視点
「はいこれ。頼まれてた薬」
差し出された紙袋には白澤の店の名前。そう言えば滋養強壮の薬をメールで頼んでいたなとそれを見て思い出す。最近は現世でテロや事件が増えて忙しかった。
その多忙も目処が付き始めていた頃ではあったが、こうして持ってきてもらえるのなら取りに行く手間が省けて助かる。書類を片手で抱え直してそれを受け取れば、空になった白澤の手が鬼灯の目元へと伸びてきた。
「また隈が濃い」
目元をこする指先は当然ではあるけれど男の指だ。だが白澤のそれを鬼灯は他のソレ程嫌いではなかった。獣の姿へ寄りかかって休むときに覚える、乾いた火と風の匂いと薄く甘い桃の香り。それが白澤の手からもするからだ。
ただし白澤の手は薬の材料を扱うからか濃い薬草の匂いも混じっている。彼の店の袋からも時々同じ匂いがした。
座敷童子の一子と二子、特に一子は一度白澤の世話になったこともあるからか、その匂いが少し好きらしい。鬼灯から用済みになった店の袋をもらって匂いを嗅いでいる姿を見たことがある。シンナー吸引みたいだったのでやめさせた。
「ハイジですか」
「? な、なに?」
「ハイジでそういう話があったでしょう。草の匂いがするベッド」
子供向けのアニメで、そういう一場面があったような無かったような。そんなどうでもいい話題を口にすれば白澤は苦笑した。
「なんでそういう思考に至ったのか分かんねぇけど、ハーブで枕でも作ってやろうかぁ?」
「あれって使い捨てですよね。勿体ない」
「使い捨てじゃねぇモノなんてこの世にありはしねぇよ」
そうだろうと同意する反面、そうじゃないモノもあるだろうと反論したくもある。白澤の手が目元から引かれるのを少し惜しく思いながら白澤を見やれば、白澤の目の下へも少し隈が出来ていた。
鬼灯よりは薄いが珍しい。それを眺めている事に気付いたのか、白澤が自身の目元に触れて俯いた。
「……寝不足なんだぁ。そんな心配するようなモンじゃねぇ」
「貴方が寝不足?」
「夢見が悪ぃ」
「貴方こそハーブの枕を使ったら如何です」
「ふふ、じゃあそうしようかなぁ」
笑って用は済んだとばかりに白澤が去っていく。あの暇さえあれば店を開けている日でも日向ぼっこをしながら寝ている瑞獣が、夢見が悪くて寝不足だというのは毎日忙しい鬼灯から見れば腹立たしい不満だった。立場を交換しろとは思わないが、鬼灯が起きている間はお前も起きていろとは思う。
渡された紙袋の中には枕ではなかったが、いい匂いのする香り袋が入っていた。おそらく一子と二子へあげるもので、ついでにとばかりに鬼灯の分も入っている。
その日はよく眠れた。
「はいこれ。頼まれてた薬」
差し出された紙袋には白澤の店の名前。そう言えば滋養強壮の薬をメールで頼んでいたなとそれを見て思い出す。最近は現世でテロや事件が増えて忙しかった。
その多忙も目処が付き始めていた頃ではあったが、こうして持ってきてもらえるのなら取りに行く手間が省けて助かる。書類を片手で抱え直してそれを受け取れば、空になった白澤の手が鬼灯の目元へと伸びてきた。
「また隈が濃い」
目元をこする指先は当然ではあるけれど男の指だ。だが白澤のそれを鬼灯は他のソレ程嫌いではなかった。獣の姿へ寄りかかって休むときに覚える、乾いた火と風の匂いと薄く甘い桃の香り。それが白澤の手からもするからだ。
ただし白澤の手は薬の材料を扱うからか濃い薬草の匂いも混じっている。彼の店の袋からも時々同じ匂いがした。
座敷童子の一子と二子、特に一子は一度白澤の世話になったこともあるからか、その匂いが少し好きらしい。鬼灯から用済みになった店の袋をもらって匂いを嗅いでいる姿を見たことがある。シンナー吸引みたいだったのでやめさせた。
「ハイジですか」
「? な、なに?」
「ハイジでそういう話があったでしょう。草の匂いがするベッド」
子供向けのアニメで、そういう一場面があったような無かったような。そんなどうでもいい話題を口にすれば白澤は苦笑した。
「なんでそういう思考に至ったのか分かんねぇけど、ハーブで枕でも作ってやろうかぁ?」
「あれって使い捨てですよね。勿体ない」
「使い捨てじゃねぇモノなんてこの世にありはしねぇよ」
そうだろうと同意する反面、そうじゃないモノもあるだろうと反論したくもある。白澤の手が目元から引かれるのを少し惜しく思いながら白澤を見やれば、白澤の目の下へも少し隈が出来ていた。
鬼灯よりは薄いが珍しい。それを眺めている事に気付いたのか、白澤が自身の目元に触れて俯いた。
「……寝不足なんだぁ。そんな心配するようなモンじゃねぇ」
「貴方が寝不足?」
「夢見が悪ぃ」
「貴方こそハーブの枕を使ったら如何です」
「ふふ、じゃあそうしようかなぁ」
笑って用は済んだとばかりに白澤が去っていく。あの暇さえあれば店を開けている日でも日向ぼっこをしながら寝ている瑞獣が、夢見が悪くて寝不足だというのは毎日忙しい鬼灯から見れば腹立たしい不満だった。立場を交換しろとは思わないが、鬼灯が起きている間はお前も起きていろとは思う。
渡された紙袋の中には枕ではなかったが、いい匂いのする香り袋が入っていた。おそらく一子と二子へあげるもので、ついでにとばかりに鬼灯の分も入っている。
その日はよく眠れた。