【瑞獣】
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桃太郎視点
地獄の獄卒である鬼灯様に就職の当てを紹介され、今日はその場所への案内をされた。向かった先は地獄とは一転木々や花々が茂る場所で、その名も正しく桃源郷だという。
桃太郎の話も元の桃はその桃源郷から流れてきたものだという説もあり、ある意味では桃太郎の故郷なのかもしれない。生憎桃太郎が実家と思っているのは育ててくれたお爺さんとお婆さんがいたあの家だけだが。
鬼灯様の先導で見えた場所は、兎の多い一軒家だった。中華風の窓がついた建物に、入り口の脇には『極楽満月』と書かれた看板が下げられている。戸が開け放されているものの、人の気配は無い。
「……あの偶蹄目。またサボってますね」
「材料を採りに行ってただけでそう言われるのは心外だなぁ」
建物の横から聞こえた声に振り向けば、草が乗った笊を持った男が歩み寄ってくるところだった。長い黒髪に紫の目。一瞬女性かと思ったが声は男性のそれである。
「大体、前触れも無しに来るほうが失礼じゃねぇのかぁ?」
「店を開いている間は店に居るべきでしょうが」
「だから従業員がいんだろぉ」
「兎では可愛いですが対応が出来ません」
男は鬼灯様の言葉に肩を竦めると桃太郎を見て首を傾けた。
「それは?」
「人手が足りないと言っていたでしょう。わざわざ連れて来たんですから感謝しなさい」
「謝謝」
棒読みのような感謝の言葉だ。鬼灯様も何か不満そうだったが、結局何も言わなかった。それから桃太郎へと向き直る。
「桃太郎さん。コチラが白澤さんです。一応貴方の上司になりますが、あまり敬う必要は無いでしょう」
「あ、その、よろしくお願いします!」
慌てて頭を下げて、白澤を見た。白澤は口の中で桃太郎の名前を反復していたようだったが、桃太郎と目が合うと微笑む。
「君はいついなくなるんだぁ?」
「……へ」
「かつての英雄と言えどもいつかは転生をするんだろうなぁ。何もかもを忘れて新しい人生、いやまぁ人とは限らねぇから何かの一生を迎える。それはとても有り難く貴重だって事を覚えておくといい。俺の様に白澤なんてモノになっちまったら転生もきっとままならなげふぅっ!」
喋り終える前に鬼灯様が金棒で白澤を思いっきり殴りつけた。白澤の身体は僅かに浮いてそれから地面へ沈む。
殴るのに使った金棒を持ち直して、鬼灯様が怯えている桃太郎を振り返った。
「こうなったら面倒なので殴って止めてください」
「無理でしょうソレ!」
「大丈夫です。コレは腐っても不死の瑞獣。なのですぐに」
「……鬼灯は暴力的で良くねぇよ」
「ほら、すぐに復活しますから」
殴られた腹を押さえて立ち上がった白澤は、散らばってしまった笊と草を見下ろしてから溜息を吐きつつ顔を上げる。口の中を切ったのか血が出ていた。
「……まぁいい。お茶を淹れるから休憩していきなさい。天国で買った月餅あるからぁ」
そう言って何事も無かったかのごとく店の中へ入っていく白澤に鬼灯も続く。
直前までの全てが無かったかのような二人の振る舞いに、桃太郎はこれからここでやっていけるのか甚だ不安になった。
地獄の獄卒である鬼灯様に就職の当てを紹介され、今日はその場所への案内をされた。向かった先は地獄とは一転木々や花々が茂る場所で、その名も正しく桃源郷だという。
桃太郎の話も元の桃はその桃源郷から流れてきたものだという説もあり、ある意味では桃太郎の故郷なのかもしれない。生憎桃太郎が実家と思っているのは育ててくれたお爺さんとお婆さんがいたあの家だけだが。
鬼灯様の先導で見えた場所は、兎の多い一軒家だった。中華風の窓がついた建物に、入り口の脇には『極楽満月』と書かれた看板が下げられている。戸が開け放されているものの、人の気配は無い。
「……あの偶蹄目。またサボってますね」
「材料を採りに行ってただけでそう言われるのは心外だなぁ」
建物の横から聞こえた声に振り向けば、草が乗った笊を持った男が歩み寄ってくるところだった。長い黒髪に紫の目。一瞬女性かと思ったが声は男性のそれである。
「大体、前触れも無しに来るほうが失礼じゃねぇのかぁ?」
「店を開いている間は店に居るべきでしょうが」
「だから従業員がいんだろぉ」
「兎では可愛いですが対応が出来ません」
男は鬼灯様の言葉に肩を竦めると桃太郎を見て首を傾けた。
「それは?」
「人手が足りないと言っていたでしょう。わざわざ連れて来たんですから感謝しなさい」
「謝謝」
棒読みのような感謝の言葉だ。鬼灯様も何か不満そうだったが、結局何も言わなかった。それから桃太郎へと向き直る。
「桃太郎さん。コチラが白澤さんです。一応貴方の上司になりますが、あまり敬う必要は無いでしょう」
「あ、その、よろしくお願いします!」
慌てて頭を下げて、白澤を見た。白澤は口の中で桃太郎の名前を反復していたようだったが、桃太郎と目が合うと微笑む。
「君はいついなくなるんだぁ?」
「……へ」
「かつての英雄と言えどもいつかは転生をするんだろうなぁ。何もかもを忘れて新しい人生、いやまぁ人とは限らねぇから何かの一生を迎える。それはとても有り難く貴重だって事を覚えておくといい。俺の様に白澤なんてモノになっちまったら転生もきっとままならなげふぅっ!」
喋り終える前に鬼灯様が金棒で白澤を思いっきり殴りつけた。白澤の身体は僅かに浮いてそれから地面へ沈む。
殴るのに使った金棒を持ち直して、鬼灯様が怯えている桃太郎を振り返った。
「こうなったら面倒なので殴って止めてください」
「無理でしょうソレ!」
「大丈夫です。コレは腐っても不死の瑞獣。なのですぐに」
「……鬼灯は暴力的で良くねぇよ」
「ほら、すぐに復活しますから」
殴られた腹を押さえて立ち上がった白澤は、散らばってしまった笊と草を見下ろしてから溜息を吐きつつ顔を上げる。口の中を切ったのか血が出ていた。
「……まぁいい。お茶を淹れるから休憩していきなさい。天国で買った月餅あるからぁ」
そう言って何事も無かったかのごとく店の中へ入っていく白澤に鬼灯も続く。
直前までの全てが無かったかのような二人の振る舞いに、桃太郎はこれからここでやっていけるのか甚だ不安になった。