夢主視点

鬼灯が現世で見つけて連れ帰ってきた二人の座敷童子が遊んでいる。少し前には鬼灯によってアマネの店へ居付いていた双子だが、今は閻魔庁で平穏に暮らしているらしい。
薬剤師として鬼灯ではないが閻魔庁へ働く獄卒に薬を届けに来て、その双子を見かけた。相変わらず日本人形の様な着物に、あまり瞬きしない黒目を目一杯に見開いて物事を見ているような二人は、アマネが見ている事にすら気付いた様子も無い。
座敷童子という妖怪だ。
聞けば現世で廃屋と化していた屋敷へ留まり続けていたらしい。座敷童子が居るのに廃屋というのは奇妙な話だし、詳しい話も聞いた気がするがあまり興味が無くて忘れた。
重力はどうなっているのか柱に垂直に立っても着物が捲れてしまうことは無い。なのに袖の袂は重力にしたがってぶら下がっている。多分アマネも同じ事が出来るがああして服にについて考えた事はそう言えば無かった。
座敷童子という『妖怪』だ。

「なぁ二人とも」

声を掛けるとグルリと首を巡らせて二人が振り返る。多分半分はワザとだが半分は素だ。

「自分が『座敷童子』であることを、嫌だと思ったことってある？」
「ない」
「ない」

端的に、しかししっかりと返された否定の言葉に、アマネは少しだけ孤独を感じる。当然といえば当然だ。二人はアマネとは違う。
きっと彼女達はアマネと違って最初から違和感さえ覚えることなく座敷童子だった。だから自分は座敷童子じゃないなんて考えた事も無いのだろう。
それが少し羨ましくもあるが、それを言っても仕方が無い。
暇なのかアマネを覚えていたからなのか二人が寄ってくる。屈んで二人の頭を撫でてやってから、ふと思いついて二人の髪を手櫛で梳いた。指通りのいい子供らしい髪質は掴みどころも無い。
アマネは二人を追い出したが別に二人が嫌いではなかった。むしろ可愛いとも思う。けれども薬剤を扱っている店を繁盛させるのは間違っている。
極楽満月が本屋とかであったなら今も尚追い出しなどしなかったかもしれない。アマネの精神が壊れたとしても。
実際二人を追い出した後何処から座敷童子が居た事を聞きつけたのか、イザナミがやってきて言ったのだ。

『精神崩壊せずに済んでよかったのう』

彼女は今のアマネの言動の意味を知っている。だから敵には回せない。そもそも敵になどしないが。
頭を撫でられている双子がシンメトリーに首を傾げる。二人は何も悪い事をしていない。
悪いのはアマネだけ。この化物のような姿をした生き物だけだ。