陽が暮れる前にたどり着けた小屋は、二階建てのラグハウスだった。窓にはガラスが嵌められ割れている様子も無い。小屋と呼ぶよりはシェラの言う通り避暑地の別荘のような造りで、この人数でも楽に寝る事はできるだろう。
しかしそれだけ、この無人だと思われる惑星へ建てられているにしては異様だ。
誰も居ないのに建てられた家。長い事人が住んでいた痕跡は外見からは見受けられず、更に言うなら玄関の真下辺りにも雑草が生えていることから、確実に数十年は玄関の扉が開閉されてもいない。
小屋の中をシェラと生徒達へ任せ、シルビはリィと分担して外周りを確認する。家の背後を見に行ったリィとは逆に家の南側へと回ったシルビは、生い茂る雑草の中へ見つけた幾つかの植物に近付いて手を伸ばした。

「……やっぱり誰かが住んでたんだろぉけど、なんかなぁ」

低く地面を這うように伸びている蔓の一つを左手でやんわりと握り、指を鳴らす。野生とは違い人為的に植えなければここにあるはずの無い『芋の蔓』は、シルビが灯した黄色の炎を受けて少しだけ太くなる。炎を浴びてもそれ以上育とうとしないという事は、土に栄養が足りないか水が足りないか。
蔓を元のように置いて今度は土を一握り掴んで触ってみる。農学は完全に専門外だが、乾いた土とその手触りに栄養が足りないのだろうと思った。

「何かあったか？」

リィの声に振り返ればリィはシルビの手元を見ている。

「どうした？」
「人為的に埋められたと思われる芋が野生化してる。土に栄養が少ねぇからあまり期待は出来ねぇけど」
「収穫はできるか？」
「……チャックかぁ？」
「ああ。ヴェロニカ教の教義はどうなってる？」
「人の手で栽培して収穫した植物類。……ギリかなぁ。チャックに確認をとったほうがいいだろぉ」
「じゃあ呼んでくる」
「俺は芋の他にもあるか確認してるぜぇ」

小屋の中へ向かうリィを見送って、シルビは地面へと手を突いた。指を鳴らして紫の炎を灯し、地面を撫でるように動かしていく。
地面の栄養を少しでも増殖させ、再び黄色の炎で芋の活性化を図れば、根っこ同然よりもマシな芋が手に入る筈である。しかしあくまでもこれは『補助』でしかないし、完全に大きな芋が収穫できてもそれはそれで怪しまれるだろう。
後ろから聞こえた足音に立ち上がって振り返れば、チャックとシェラだけではなく他の生徒達も付いて来ていた。そのチャックとシェラを手招いて芋の蔓を示す。
シェラがそれを掴んで引き抜けば、ある程度はちゃんと認識できる芋がぶら下がっていた。シルビが手を加えてこれだとすると、この辺の地面は思ったより痩せていたのかもしれない。