現代っ子達にとっては嫌に現実的で即物的な食育の後漂ってきた、焼けた肉の匂いに生徒達が喉を鳴らす中、宗教上の理由で今まで蒸留させた水しか口にしていないチャックまで唾を飲み込んでいることに気付いて、シルビはアレ、と思う。
その違和感の理由をチャックへ聞く間も無く、ハンスがシェラへ丁寧に分けてくれないかと話しかけているのを聞いて、顔をそちらへ向けた。

「あなたが礼儀を知っていらっしゃる人でよかった。『食ってやるからよこせ』などとおっしゃったら、薪をぶつけていたところですよ」

シェラの言い分に苦笑してしまう。現にフランクがそうしようとしかけていたところだったからだ。
ペギー・メイの嫌そうな『食べればいいんでしょ』という発言も黙らせて、シェラは肉を分け与える。

「シルビはどうします？」
「俺はいい。今回俺だけ収穫ゼロだしぃ」
「食べないのかよ！？」

ジェームズが信じられないという風に叫ぶが、シルビも食べたら取り分が減るのだという事に彼は気付いているのだろうか。それに一応シルビには木の実のストックもある。
一度肉を食わないくらいでは死なないのだし、次の機会で獲物を狩れればその時食べるので充分だ。
食事を終えて片付けると再び出発だが、今度は滝の上へと登っていくという事もあって、道のりの険しさが段違いである。素人が一度足を踏み外せば数メートルは落下するだろう。
シルビの足でなら、多分フリーランニングかロッククライミングの要領でさっさと上へ行けるだろうが、同行者は『子供』だ。最後尾に着いた場合、足を滑らせたりしないかを確認するだけではなく、先を行く者が落とす瓦礫にも気をつけなければいけない。
平坦な足場へ着くまでの約三時間。苦行だった。
リィが休憩しようと足を止める頃には、シルビの格好は先を行っていた者達が遠慮無しに崩して落とした砂利や泥まみれで、仕方なく離れた茂みで上だけでも着替えて戻ると、ジェームズが呆れたように笑っている。

「汗だらけは嫌なんだな」

ここで怒ればシルビの負けであるとは分かっていた。相手は自分より年下で大目に見たっていい相手である。
いい相手なのだが、シルビにも精神的余裕は無い。

「泥ぶっかけられたくなけりゃ黙ってろぉ」
「えっ……」
「シルビ」

ハンスが気付いてか声を掛けてくる。それに深く息を吐き出してジェームズから目を逸らした。
この惑星へ来てから落ち着けてないなとは自分でも自覚している。だから些細な事で苛々するのだ。
せめて小屋に着いてコイツ等を気にせず寝れたらなぁと思ったところで、リィが再出発の号令をかけた。