話を進めようとしたところ、掲示板へ《第八埠頭へ行け》という指示が出た為にリィ達が動き出し、話をしたかっただけのシルビもリィによって無理やり付いていくことになった。
朝まで使われる予定のなかった筈の埠頭に無灯火の宇宙船が降りてくる。リィとシェラ以外の面々の名前すら知らないシルビは、それを眺めながらも話の続きをしようとしたところで、乗員が一人タラップから到着口に飛び移ってきた。
降りてきたのは真っ赤な髪をした女性だ。

「マクスウェル船長。依頼した少年は何処だ？」

その言葉にリィが進み出る。一番場違いである自覚は持っていたが、シルビは逃げられない事を悟ってリィ達の会話を聞くことにした。
嫌な予感がしたからというだけで動いてみるものではなかったと何度目になるか分からない反省をする。

「この子供たちは？ 船長が連れてきたのか」

ジャスミンと言うらしい女性がダン船長へ尋ねた。シェラと遅れてきた青年がそれぞれ名乗った流れでシルビが名乗る番になり、シルビは少し逡巡した後ジャスミンを見上げて名乗る。
その後タラップを駆けるように出てきた男を見て、シルビは今度こそ思わず呻いた。

「嘘だろぉ……オイ」

隣に立っていたヴァンツァーというらしい青年が不思議そうな視線を寄越す。
シルビと同じような反応をしていたのはダンだけで、彼は彼で何かを言おうとして男に止められていた。その男の声も性格も口調もシルビの中では懐かしいものだ。
男はシルビを見て僅かに首を傾げたものの、この場では気にしない事にしたのかリィと話し始めてしまう。どうやらリィ達の知り合いに何かがあった為に彼等はここにいるのだと、男とリィの会話を聞いてシルビはやっと理解した。
シルビが知りたかったのはその事だけだったのだが、だからといって一人満足して帰れる空気でもなかった。それに、この『男』が目の前に『いる』という事も気になるしこの『男』がいるのなら聞きたい事もある。
『E・V・ヴァレンタイン』の精粗細胞標本。それをリィの知り合いが見つけたことでその知り合いは怒っているらしい。しかもその知り合いは真っ当な人間でもないようで、セントラル小惑星帯がその人物のせいで酷いことになっているという。
傍に立っていたデモンという男を見れば目が合った。次いで彼はこの世の全てを呪うような溜め息を吐いて男とジャスミンへ進み出る。
ラーのデモンと名乗られても、シルビにとっては『ラー一族』を御伽噺のような伝聞でしか知らないし、そもそもそう名乗るのが間違っているであろう事しか分からない。