ヴェロニカではないかもしれない惑星。正式に稼動出来るが、何も電波を受信しない通信機。

「偽物だったらいいと思ったんだが、機械は本物でちゃんと動く。それなのに本来の性能を発揮しない。――何故だと思う？ 拾うべき電波がないからさ」
「あり得ないってば！ 人間が住んでいる惑星なら数え切れないくらいの電波が飛んでるはずだよ！」
「人間が住んでいなかったら？」

誰も答えなかった。

「この星にいる人間はおれたちだけだとしたら？」
「リィやめろぉ。もういい」

流石に口出しすればリィがシルビを見た。視線で女子中学生達を示せば、少女達は完全に怯えている。
最年長であるファビエンヌでさえ、虚勢を辛うじて張れている程度だ。

「ヴィッキー！ お願いだから脅かさないで」
「脅しているわけじゃない。事実を言ってるだけだ。最初はな、もしかしたら学校も了承済みの何かのびっくり企画かとも思ったんだが……シルビもそう思ってないみたいだし、少しばかり手が込んでいる」
「自立心を養うにしても、やりすぎですよ。こんな方法が青少年の育成に適しているとは思えません」
「今回だけサプライズだとしても、俺達を監視してる様子も無ぇ。それでどうして企画が成立すんのかって話にもなんだろぉ」

だとすると、送迎船《ロビンソン》の船長であったバックスという男を主犯だとしても、ずいぶんと残酷な真似をしてくれる。本物の通信機を渡しても気にしていなかったのは、それが使えないと分かっていたから。
ここがどんな星かは分かっていただろう。でなければ河原までわざわざ道を作ったりしていない。
水場までは道を用意してくれたのなら、惑星へ降ろしたシルビ達を僅かの間は生かしておくつもりがあったという事だが、それにしては食料は用意されていない事を考えると、目的は弱らせる事か、衰弱死させることか。
空を見上げてみても、流石に地上を監視している衛星があるかどうかまではシルビでも見えない。
ジェームズが居住可能型惑星に必ず設置されている灯台の信号を、通信機でどうにか拾ってみせると言い出し、一時間は待つことで話は決まった。その後はまた一時間経たねば決められないだろうが、シルビの予想ではおそらく信号を拾うことは出来ないと思う。
送迎船の船長だって、それを想定していない訳が無い。船内でジェームズがヴェルナールに通っていると言っても気にしていなかったのだ。それはつまり、航宙学を学んでいる者がいても助かる見込みは計算していないということではないのか。
『あの人達』を見つけてもいないのに、こんな場所で死ぬのは嫌だと思うものの、シルビが知る『常識の枠内』ではこの人数を助けられる気がしない。