「四十年前」

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デフォルト名があるので変換は本当に変えて読みたい方向けです。
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リィ視点


アイクライン校での授業を終え、寮へ戻ってきたリィとシェラが見つけたのは寮長であるハンスと、そのハンスと話しているらしい少年だ。二人はその少年を見て驚いた。
少年とはいってもリィ達よりは年上だろう。男にしては珍しくリィのように髪を伸ばしているが、その髪はストレートだ。他の何色も混ざっていない、まさしく闇のような黒い髪。
ハンスを見上げる横顔かから窺える眼の色は、シェラにも匹敵するほど綺麗な紫色をしていた。

「二人とも今帰りかい? おかえり」

二人に気付いたハンスが振り向いてリィ達へ声を掛ける。それを追うようにして振り向いた少年の顔は少し釣り目がちであることが目を引く、リィ達にも劣らない美形だった。
少年はリィとシェラを見ると訝しげな顔をする。

「やぁハンス。何をしてたんだ?」
「シルビに寮のことでちょっとね。二人にも紹介するよ。シルビだ」

ハンスに背中を押される形で二人と向き合うことになったシルビは、自身を紹介されたことに気付いた様子も無くリィとシェラを凝視していた。可愛い少年を思わず見てしまうという一般の視線とは違い、まるで『これは何なのだろう』という疑問を浮かべた視線だ。

「オレの顔に何か付いてるか?」

リィがちょっと笑いながら尋ねると、シルビは話しかけられることを想定していなかったかのように身を引いた。

「……喋ったぁ」
「そりゃ喋るさ。それともオレ達を人形だとでも思ったのか?」
「人形? 金色の毛並みをした太陽みてぇな狼だろぉ? それも野性味を失うことの無い誇り高けぇヤツ。そっちの銀色は……月?」

地なのか大声で語尾が伸びているように聞こえるが、その大声は決して不快ではない。シルビの二人に対する評価を聞いて、シェラは表にこそ出さないものの今度こそ言葉を失った。
それはリィとシェラにとって重要で切り離せない表現だ。しかし目の前の彼はやすやすとそれを見抜いたのである。

「面白い評価をするんだな。お前もオレ達には不思議に見えるよ」
「例えばぁ?」
「『風』かな」

リィがそう言うとシルビは一度目を見張った後、嬉しげに微笑んだ。そうするとつり眼が細められてやけに人懐っこさが現れる。

「俺はシルビ・グラマト。二人のことはなんて呼べばいいんだぁ?」
「オレのことはリィでいいよ」
「わたしはシェラと」
「Si リィとシェラね」

呼び方を決めてしまうと、シルビは満足そうにそのままフラフラと歩き出し、寮の個室がある方へと行ってしまった。残された二人にハンスが信じられないというように話しかける。

「驚いた。シルビが初対面の人とあんなに仲良く喋るなんて珍しいよ」
「そうなのか?」
「ああ。シルビは人見知りが激しいことでこの寮じゃ有名だから。でも一度話しかければ面倒見も良いし頼りになる相手だよ」
「へぇ」

振り向いた先でシルビの姿は既になかった。

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