天使達の華劇
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スポーツマンシップという言葉の意味をリィ達へ尋ねてはいけない。
それだけ理解してハンスへこの作戦は決して卑怯な行いではなくただの心理戦だと思い込ませている二人を見やる。
確かに心理戦だろう。試合観戦している女の子に声を掛けるだけなのだ。
その女の子に『彼氏がいる』とは知らない『ことになっている』し、試合中に観客が同じ観客へ声を掛けてはいけないなんてこともない。ただ、それを『故意に』やるだけである。
絶対に影響があるとは限らない。気付かないかもしれないし、そもそも試合中に観客席へ意識を向けているのはおかしいだろう。
それだけなのだ。リィ達の感覚では。
ハンスは何も言えなくなったらしく、助けを求めるようにシェラとシルビを見たが、二人揃ってここは逆らわない方がいいと態度で示す。ハンスは諦めるしかないと悟ったようだった。
時間は流れ、フォンダム寮とスコピエ寮の試合が行われた日。
シルビは同寮のヴェルナール校での同級生に誘われ、会場である武道館の二階席に腰を降ろしていた。しかし視線は一階の試合会場ではなく、どうしても二階席のとある観客席へと向いてしまう。
そこにはアグネス・ブランチが女友達と一緒に座っていた。本来であれば選手として参加している『彼氏』のヒューを甲斐甲斐しく応援しているはずの姿は、今はもう隣の席へ座っている男へ釘付けだ。
遠目でも、試合を見ていないことなど一目瞭然である。眼下ではその彼氏のいる団体が試合をしているにも関わらず。
「効果有りすぎだろぉ……」
思わず呟いた声は周囲の熱狂した声援にかき消されて、隣の同級生にさえ聞こえない。それが分かっていてシルビも呟いた訳だが、試合会場でハンスとヒューが向かいあった事に気付いて試合へと視線を戻す。
ヒューは途中まで目の前のハンスではなく観客席のアグネスを見ていた。その事がヒューをライバル視しているハンスにとって、どれほど屈辱なものだったか。
きっと、ヒューは今後いつになっても気付く事はない。ハンスと彼は周囲の環境が違う。
何よりヒューには、リィのような存在が近くにいないのだ。彼の眼からそういう意味で鱗が落ちることは無いだろう。
勝敗が決まり、シルビの隣にいた同級生がシルビの肩へ腕を回して狂喜する。それにシルビは腕を払いながらそっと観客席を見た。
アグネスの隣で彼女の目を引いていたヴァンツァーが席を離れていく。ああこれで終わったのかとシルビの視線が向いた先で、六年ぶりの勝利の熱狂が冷めやらない空気のまま、決勝戦が始まった。
少しして屋上の方から澄み切った殺気が流れてきて、シルビは一瞬だけ視線を上げてすぐに試合へと意識を戻す。おそらくリィ達のものだろうとだけ当たりをつけて。
彼等はそういう生き物。それだけだ。
それだけ理解してハンスへこの作戦は決して卑怯な行いではなくただの心理戦だと思い込ませている二人を見やる。
確かに心理戦だろう。試合観戦している女の子に声を掛けるだけなのだ。
その女の子に『彼氏がいる』とは知らない『ことになっている』し、試合中に観客が同じ観客へ声を掛けてはいけないなんてこともない。ただ、それを『故意に』やるだけである。
絶対に影響があるとは限らない。気付かないかもしれないし、そもそも試合中に観客席へ意識を向けているのはおかしいだろう。
それだけなのだ。リィ達の感覚では。
ハンスは何も言えなくなったらしく、助けを求めるようにシェラとシルビを見たが、二人揃ってここは逆らわない方がいいと態度で示す。ハンスは諦めるしかないと悟ったようだった。
時間は流れ、フォンダム寮とスコピエ寮の試合が行われた日。
シルビは同寮のヴェルナール校での同級生に誘われ、会場である武道館の二階席に腰を降ろしていた。しかし視線は一階の試合会場ではなく、どうしても二階席のとある観客席へと向いてしまう。
そこにはアグネス・ブランチが女友達と一緒に座っていた。本来であれば選手として参加している『彼氏』のヒューを甲斐甲斐しく応援しているはずの姿は、今はもう隣の席へ座っている男へ釘付けだ。
遠目でも、試合を見ていないことなど一目瞭然である。眼下ではその彼氏のいる団体が試合をしているにも関わらず。
「効果有りすぎだろぉ……」
思わず呟いた声は周囲の熱狂した声援にかき消されて、隣の同級生にさえ聞こえない。それが分かっていてシルビも呟いた訳だが、試合会場でハンスとヒューが向かいあった事に気付いて試合へと視線を戻す。
ヒューは途中まで目の前のハンスではなく観客席のアグネスを見ていた。その事がヒューをライバル視しているハンスにとって、どれほど屈辱なものだったか。
きっと、ヒューは今後いつになっても気付く事はない。ハンスと彼は周囲の環境が違う。
何よりヒューには、リィのような存在が近くにいないのだ。彼の眼からそういう意味で鱗が落ちることは無いだろう。
勝敗が決まり、シルビの隣にいた同級生がシルビの肩へ腕を回して狂喜する。それにシルビは腕を払いながらそっと観客席を見た。
アグネスの隣で彼女の目を引いていたヴァンツァーが席を離れていく。ああこれで終わったのかとシルビの視線が向いた先で、六年ぶりの勝利の熱狂が冷めやらない空気のまま、決勝戦が始まった。
少しして屋上の方から澄み切った殺気が流れてきて、シルビは一瞬だけ視線を上げてすぐに試合へと意識を戻す。おそらくリィ達のものだろうとだけ当たりをつけて。
彼等はそういう生き物。それだけだ。