スコピエ寮の主将ヒュー・クロウの最近出来た彼女、アグネス・ブランチという少女の隠し撮り映像を見て、リィとシェラは低い評価を漏らす。
アグネス・ブランチの情報を仕入れていたレティシアとシルビは苦笑するしかない。ちなみにこの映像はシルビが放課後を返上して手に入れたものだ。
地区大会で争う程度には別の大陸へいるレティシアよりも近い。早々にヒューの近辺情報を掴んだ二人のうち、より近いほうが探った方が手間も減るというものだ。

「あんたはもう少し女を見る目を養ったほうがいい。この女はヒューが好きなんじゃなくて、有名選手の彼女としてちやほやされるのが好きなのさ」

レティシアの丁寧な説明を聞いてシルビを振り返るハンスに、シルビも苦笑しか返せない。どうしてそんな事が分かるんだとか、女を見る目ってなんだとか、色々言いたいのだろうが、驚きすぎて言葉が出ないのだろう。

「悪口で、本人じゃなく本人の家族を貶したりすることがあるだろぉ？ あれの逆のバージョンだと思えばいい。知り合いを褒められて自分が褒められた気分になってんだよぉ」
「それは、自分と関係ないじゃないか！」
「でも時々そういう考えの人がいる。んでこのアグネスはそういう考えの持ち主だった」
「……それなら、まぁ、理解できなくはない」

多くの様々な学生がいるこの惑星では、様々な思考、性格の持ち主がいる。そういう類だと説明のレベルを落とせば簡単に伝わるのだが、どうもリィ達はそこまで理解に及ばないらしい。
現に、シルビの説明を聞いてリィは其処までレベルを落とせばいいのかと納得している。シルビは決して通訳係ではないのに、なまじリィ達より社会に馴染んでいるせいでこの立場が固定しそうだった。
しかし、その後に続いたレティシアの提案には、流石にシルビもどうしたものかと頭を抱えたくなる。

「できれば試合会場でだ、他の男にうっとり見とれているところなんかを見せつけられたら、ヒューは焦りと嫉妬で気もそぞろ、試合どころじゃなくなるぜ」
「いいな、それ」

簡単に同意してサクサク計画を練っていくリィとレティシアの後ろで、ハンスがシルビを見つめて今にも叫びそうだ。そのシルビも頼りにならないと悟るとハンスは大慌てで両手を振り回した。

「待てよ。そんな、卑怯なことはできないよ！」
「ひきょう？」

見事に二人の声が揃う。
不思議そうな目からして、シルビは遠い目をしながら彼等にとってはこの程度は『卑怯』の枠組みへ入る行動ではないのかと認識を改めた。
改めてから、自分の常識をリィ達に合わせるように書き換えてどうすると自分の頭を殴りたくなる。