「俺の憶測でいいのなら、単に辟易してんじゃねぇの？」
「辟易？」

リィが行った訓練は、ひたすらハンスに攻撃を避ける素早さをつけること。シェラが行ったのは、ハンスがライバル視しているスコピエ寮の主将である、ヒュー・クロウの動きを模しての試合。
自分の分担だった情報収集を終えたシルビは、素早い攻撃を与える為の訓練を担当した。
つまりリィの訓練の逆バージョンなのだが、リィやシェラ同様シルビも脳ある鷹である。今までずっと選手選考を逃れてきたが、シルビの実力は少なくともハンスよりはあった。
五分間集中的にひたすら攻撃だけをさせて、シルビに一撃でも与える事が出来ればいいだけのそれも、ハンスの繰り出す攻撃は一つとして当たらない。リィ達よりはルールを覚えている為常識の範囲内での避け方しかしない分、ハンスにとってはリィとの訓練より精神的にくるだろう。
攻撃が当たらないという苛立ち。予測できる避け方だというのに届かないというのはもどかしい。
時間が経って休憩に入ったハンスに対し、シルビは汗一つ掻いておらず、シルビも今まで実力を隠していたのだという事実に、ハンスは何度目になるか分からない絶句をしていた。
そんな練習を行うようになって数日後。
学校の違いから寮への帰宅時間が違うこともあって、その日はたまたまハンスとシルビがリィ達より先に寮へ帰ってきていた。談話室で本を読んでいたシルビへ近付いてきたハンスは、答えられないならいいのだが、と前置きして尋ねてきたのだ。

「ヴィッキーたちの事情に首を突っ込まない事が約束だけど、コレだけは知りたい。普通ぼくたちの年頃なら、目立ちたいと思ったりするんじゃないのか？」
「……寮長は意外と人選いいよなぁ」
「これも聞いてはダメだった？」
「俺には構わねぇよ」

ここで最初の台詞へ戻る。
理解出来ない、と言った様子で顔に疑問符を浮かべるハンスに、シルビは読んでいた本を閉じて自分の顔を指差した。

「俺のこの程度の顔でも、周囲は美形だの何だのってチヤホヤしてくるだろぉ？」
「この程度って言うけどな、シルビの顔はぼくも羨ましいと思うときがあるよ」
「リィ達は俺以上の顔立ちで、見た目がもう目立つ。で、その目立ってるところにちょっと人と違う言動をすりゃ更に悪目立ちする。でもアイツ等にとってその言動は当たり前のもので、今更変えようも無ぇどうしようもねぇモンなんだろぉ。……まじめに生きてるつもりなのに周囲から何か言われ続けるのは、辛いぜぇ？」