翌日の夕食後、本当に寮長権限で遊戯室を空にしたハンスの元へ、レティシアを連れたリィがやってきた。
ハンスが暴走しやしないかと夕食前からハンスと行動を共にしていたシルビは、そのレティシアの姿に首を傾げる。目が合ったシェラは嫌そうにレティシアを睨んでいたが、何も言わずにリィへ従っていた。

「ロッドの試合時間は確か五分だったよな。五分間、おれたちが戦うのをそこで見ていろ」
「ヴィッキー、これはいったい……」
「いいから、座れ」

リィの命令口調に怒りを覚えているらしいハンスを宥めつつ、シルビはハンスを引っ張って壁際の示された椅子へと座らせる。シルビ自身はその隣へ立って見学していようと思ったが、向き合ったリィとレティシアが打ち合い始めてからのハンスの様子を見て、何か飲み物でも持ってくるかと遊戯室を出た。
行って帰ってくるので五分などすぐに過ぎてしまい、遊戯室へ戻ったシルビが見たのは、汗を掻いて小さく震えているハンスだ。
その手にそっとホットココアの入ったカップを渡すと、ハンスは飲むには熱いだろうに一息で飲み干した。それでやっと落ち着きを取り戻したようである。
『試合』に自分達は向いていないのだと、ハンスを諦めさせようとするリィに、今度こそハンスも理解したらしい。空になったカップに残る温もりへ救いを求めるように両手で握り締め、絶望的な顔をしてうなだれる。
流石にちょっと可哀想だった。

「おれは自分で出場することはできないが、寮長を鍛えることならできるぞ。それじゃあだめか？」

同じくハンスを哀れに思ったのか、リィが妥協案だとばかりに提案する。ついでにレティシアとシルビも巻き込むつもりのようだ。

「スコピエ寮の実力を知りたいんだ」
「それなら過去の記録があったはずだぜぇ。寮も近いし一応知り合いがいるから、情報収集は出来る」
「なら頼む」
「前から思ってたが、あんた、人使いが荒すぎるぜ。いきなり呼び出しといて次はそれかよ」
「悪いか。困った時はお互い様だぞ」

レティシアは呆れながらも了承し、チラリとシルビを見た。

「アンタもさあ、扱き使われんのが嫌だったら断れよ？」
「俺は別に嫌じゃねぇし。雑用は嫌いじゃねぇんでなぁ」

本当のことだったが、レティシアはそうは思わなかったのか肩を竦めてロッドを短くする。雑用が嫌いではないのは昔からなので呆れられても仕方がない。
ハンスの手から空のカップを受け取り、食堂へ戻しに行く為に遊戯室を後にする。後になって結局選手はどうするつもりなのか聞くのを忘れていたと思い出した。