シルビ達がロビーへ降りるとヴァンツァーが待っていた。昨日シルビが言ったことを生真面目にもレティシアへ話して聞かせ、それを聞いたレティシアが感心している。

「友達甲斐ねえ。ガキが何人も来たところで鬱陶しいだけだろうに」
「そう考えちゃ駄目なんだろぉ。ガキは群れてろって話だぁ」

会計を終わらせたレティシアと、ヴァンツァーが乗ってきたレンタカーへと向かう。病院を右手側の奥へ回ったところにある駐車場に停められていたレンタカーは昨日と同じものだった。
天気が良かったので乗り込んですぐに窓を開ける。

「なあ、あの家に寄ってくれるか。自転車を置いてきちまったんだよ」
「オレも資料を取りに行くところだ」
「っていうかルウがいるから俺は送ってもらわねぇと困る」

昨日食中毒騒動があった撮影現場である家は、現在既に昼食を終えて撮影が始まっていることだろう。だとすれば何処かへ寄ってシルビ達も昼食を食べてからの方がいいのではと言おうとしたところで、運転席にいたヴァンツァーが車を停めた。
車は敷地を出ていない。けれども後部座席に座っていたシルビも助手席にいたレティシアも、車を停めたことには何も言わなかった。

「今、何かやったな」

レティシアが呟くのにシルビも窓の外を見回す。見回すというより気配を探ると言った方が正しいか。同じように周囲の気配を観察していたヴァンツァーが、病院の上の方を見上げる。

「上だな」
「当然、次は下に降りてくるぜ」

ヴァンツァーがハンドルを操作して出てきたばかりの駐車場へ車を戻した。停車した車から揃って降りて何気ない様子で周囲を眺め、それから歩き出せば二人もついてくる。

「お前ならどう逃げる？」
「俺なら、じゃなくてこの程度なら、と言って欲しいなぁ。距離を取ろうと逃げるだろうけど、その逃げるルートには最短を選ぶぜぇ」

犯行を病院の何処かで行なった。その場合犯人は逃げるだろう。逃げる方法はいくつかあるだろうが、まず車が挙げられる。それからレティシアの様に自転車。徒歩。
病院から出てくる者として自転車は可能性が低い。診察や見舞い、退院のいずれかであるとしても、その他の病院関係者であったとしても、おそらくは“荷物”があるであろう状態で、自転車というのは不自然だ。
では車かと思われるが、そうなれば来るのはこの駐車場だろう。だが先程の“異変”が発覚、判明した際、真っ先に調べられるのが車だ。
そこまでは普通に考えられる。調べられたくないが逃げなければならない。だとすれば。

「まぁ、駅に行くよなぁ」