サイモンは映画撮影へ情熱や常識を傾けすぎており、初対面の相手であってもどんな役が合うかを考えだす。そして彼の口から溢れる役柄がその人の真意を突いていることが、ヴァンツァーやシルビ達を見た時以外にも起こっていない可能性は低い。
言ったサイモン自身はその気が無くとも、ヴァンツァーやレティシアを希代の犯罪者だと見抜いたように誰かを犯罪者だと見抜いていたら。サイモンは本当に何も知らないとしても、言われた側は自分の秘密を知られていると戦慄したっておかしくない。
そしてサイモンは映画監督である。その誰かから受けた印象が意識に残ってそんな事件を題材にした映画を作り上げたら、そう考える被害者妄想の甚だしい輩がいるとしたらどうだろうか。
レティシアはサイモンを始末した方がいいのではと提案した。同じことを違う誰かが考えたのだとしたら、この一連の騒動は標的が『彼女』でなくとも成立する。

「レティシアとこの犯人の違うところは、殺し慣れているかどうかと社会的立場。それと周囲の人種かなぁ。レティシアや俺はルウが『害がない』と言ったからスルーすることにしたが、その『誰か』――犯人と仮定しておくが、その犯人にはそういう助言経験が無ぇ。よって一度『こいつは危険だ』と考えたらそのドツボから抜け出せねぇかもしれない」
「そんな幼稚な行動をするのか？」
「するよ。たった数人しか殺してねぇ駆け出し犯罪者は」
「でもシルビ。それでも三百人近い人間を巻き添えにする？ 理屈に合わないよ」
「そういう奴らは理屈で動いてねぇもん。なまじ金を持ってる奴や社会的地位を持ってる奴が相手の場合はそういうこともある。自分以外の人間は切って捨てられる道具だってなぁ」

ヴァンツァーがため息を吐いた。

「あのグレグソンとかいう社長は違うと思うぞ」
「ふふ、分かるぅ？ 俺ああいう人好きじゃねぇんだよ」

冗談半分でグレグソンというあの社長を疑っていたのがバレたらしい。サイモンに接触し、映画会社の社長という社会的地位もありなまじ金も持っているという条件にも当てはまる。
更に言うならサイモン程度の駆け出し映画監督とその映画へ出演する役者やスタッフに重きを置いていないことも、その態度から感じ取れた。
とはいえあの社長は、三百人近くを巻き込んで一人を殺すほどの度胸は絶対に無いだろうが。

「まぁ、時間潰しの戯言だと思っていいぜぇ」

すっかり冷めてしまった飲み物を飲み干す。
このシルビの考えで一番のおかしいところは、サイモンの命を狙ったのなら何故、今シルビ達がここへいるのかだ。