避難艇の稼動を始めたところで遅れてダンが来たので、二人で避難艇へ乗って《パラス・アテナ》へと出発したものの、決して速いとは言えない航行速度な上に、微惑星が周囲を充満している為予測到着時間が三時間後という状態だった。
しかもリィの知り合いらしいレティシアとヴァンツァーが、学校に遅れるから速く帰らせろと言い出したらしく、《パラス・アテナ》はシルビ達の乗る避難艇を残して一度大学惑星へ戻るという。

「勤勉な学生さんの邪魔をするもんじゃないぜ」
「ここにも学生は居ますが」
「そういやそうか。シルビ、お前学校は？」
「現在家族が危篤中。一応三日くらいは休んで平気だぁ」
「……お前、確か何も分かってない状態だったんじゃないのか？ というか、家族が居るのか？」
「分からねぇからこそ万全の準備をするし、俺はちゃんと人間の女性から生まれてるから一応家族はいるぜぇ。ただ……まぁいいや。登校前に時間があった方が助かるだろうし、早く行ってやれよぉ」

肩を竦める動作を最後にケリーとの通信が切れ、合流予定地点として微惑星の少ない宙域の座標が送られてきた。それを入力して自動操縦に切り替え、椅子へ座って伸びをしたシルビへダンが話しかけてくる。

「……君は、何者なんだ？」
「今はもう、普通の学生ですよ。若返ったり生き返ったりが出来る訳でもなく、ただちょっと人より知識と経験が豊富で、人とは違う能力を使える」
「超能力か？」
「定義によりますが、まぁそうだと思っていただければ。……怖いですか？ 俺の事」

ダンは暫くシルビと目を合わせていたが、ややあって肩の力を抜いて視線を逸らした。

「……君は、ルウたちに比べれば随分と常識人のようだな」
「その『ルウ』ってのが誰だか知りませんが、十年以上生きてりゃそりゃ適応しますってぇ」
「アイツは適応していない！」
「……苦労してるみてぇですね」

一連の騒動で一番一般人だったダンだが、この様子からして以前からこういう様な騒動に巻き込まれているのかもしれない。そうでなくともリィ達との知り合いのようだから、日常的なことでも苦労する事があるのか。
辺境で有名な船乗りも、生き返ったり若返ったりする者へ対しては許容できないらしい。しかもどうやらダン・マクスウェルは、随分と昔に死んだとされる『ダニエル・クーア』のようで、ケリーとジャスミンの息子。
そういう事情があるのならこれも当然か、と思いながらシルビは『ルウ』という人物が彼に対してしてきた悪事？ や、自分よりも若い両親に対する愚痴を合流予定地点へ《パラス・アテナ》が戻ってくるまで延々と聞かされることになった。
ダンは気付いていないようだったが、四十代の男性が十代後半の子供へ愚痴を聞かせる姿も、そう一般的ではないように思う。