アイリーン達女性スタッフの元へ弁当を食べるなと言いに行ったルウが、衛生用手袋を持って戻ってくる。シルビが袋で直接吐瀉物に触れるのを回避しているのを見てか、予備で持ってきたらしい手袋を渡してきた。
それを受け取って袋から手袋に替え、吐瀉物も袋へ放り込んでいく。いきなり食事の邪魔をされて、弁当を取り上げられたり吐かされたりしたスタッフ達から不満の声が上がり始める。
苛立ったスタッフの一人が声を荒げた直後、部屋を飛び出していったレティシアが戻ってきた。顔色が悪く、脂汗が滲んでいる。吐いたのか口の端には嘔吐の痕が残っていて、全身が小刻みに震えてまでいた。

「……医者……呼んでくれ……」

そう言うなり倒れたレティシアに、シルビが袋を放り投げるのと同時にリィも慌てて駆け寄っていく。大げさにもとれる悲鳴はけれども今の状況に相応しい。
シェラが呆然としているスタッフへ救急車を呼べと叫んでいる。リィが抱き起こして支えていたレティシアへ近付き、リィの腕からレティシアを受け取った。見た目子供であるリィへ支えさえているよりはシルビの方がいいだろう。
ヴァンツァーが友人を気遣う様に紙ナプキンを持って寄ってくる。それを受け取って慰みのようにレティシアの汗を拭った。

「あの、さぁ。俺よく分かってねぇんだけど」
「あの弁当には何か危ない物が入ってる」

スタッフ達には聞こえないように小声で訪ねれば、顔だけはレティシアを心配するような表情を浮かべたリィが答える。体調不良甚だしい様子のレティシアも声だけは平然と尋ねてきた。

「おまえ、分かってなかったのに乗ったのかよ」
「信頼するには付き合いが短けぇけど、信用するには十分な付き合いのつもりだぜぇ」
「あんたも立派な役者だぜ。向こうに運んでくれ」

レティシアを支えて長椅子へと運ぶ。
通報を受けてやってきた救急隊をルウが言いくるめ、弁当を検査してもらうと本当に弁当から食中毒の原因となる菌が出た。それを知った救急隊員が慌てて増援を呼んだり、サイモン達の話からケータリングのフードサービスセンターへ検査員を派遣したりと騒がしくなる。
菌による中毒や病気は感染が怖い。弁当に入っていたのはサンドイッチで、素手で触れて食べる物だった。菌に犯されているサンドイッチに触れた手で他の場所を触り、その他の場所を触った他人が何かを口へ運んでという感染も考えられる。
それ故に弁当を食べてしまった者だけではなく、弁当へ触れた者が全員検査の為に病院へ向かうこととなった。体調不良の演技をしていたレティシアは、当然発症したのではと疑われ検査入院である。