シルビに友人というものは少ない。リィ達が来る前のフォンダム寮では『人見知りの激しい女顔』という評価だったし、学校は学校で『優秀生』という評価を頂いているくらいだ。
リィ達が来て彼等とつるむ機会が増えた事については、フォンダム寮長であり彼等が来る前は一番喋る事が多かったハンスが、我が事の様に笑顔となったくらいである。シルビも彼は信用しているが、そんな親のように心配されているとまでは思っていなかった。彼に頭は上がらない。

『今度、暇が作れるか』

だからリィを経由しての知り合いの一人である、ヴァンツァーからそんな連絡が来たのは予想外だった。
彼がシルビの連絡先を知っていた事に関しては、教えた覚えがあるので問題ない。だがシルビからヴァンツァーへ連絡したことは無かった。
ヴァンツァーから連絡が来ること自体は珍しくない。大抵は学校の授業や気になった事での質問で、それらは調べて分かるものでないことが多かった。経験者の感想が聞きたいとかであったり、今では失われている書物に残されもしない文化の事であったりだ。
顔を付き合わせることも少なくはない。何が気に入ったのかレティシアはよくシルビを遊びに誘うので一緒にいることが増え、その流れでヴァンツァーへも顔を見せに行ったことがある。

「いつもは口頭で良かったのに、何かあったのかぁ？」
『会わせてみたい人物がいる』

やはり珍しい。
聞けばその人は映画監督だという。どういう経緯で映画監督などと知り合うのか分からないが、その映画監督はヴァンツァーを一目見て彼の本質を見抜いたらしい。暗殺者という本質を。
レティシアが以前に巻き込まれた医学生による浮浪者連続殺害事件の様な事態かと一瞬身構えたが、どうやら本当にその映画監督を見て欲しいだけで、あともう一人気になる人物がいるらしい。

「いいぜぇ。映画撮影見学に関しては俺にとっても目新しい経験になるし、行くよ」
『王妃達にも話は通してある』
「ならリィ達と一緒に行けばいいかぁ。……ヴァンツァーって映画は見るのかぁ？」
『あまり見たことはないな。見たのも学生になってからだ』
「……君達がいた世界じゃ映画は無かったぁ？」
『……文化の発展具合が違ったからな』

少し説明を面倒くさがられた気がした。シルビは彼等が元々いたという世界を知らないので何とも言えない。
後でシルビからもリィ達に話をすることを告げて電話を切る。切ってしまってから、何という題名の映画なのかくらい聞いておけば良かったと思った。