夜の展覧会
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深夜に近い時間のエレメンタル近代美術館の受付を経過する。昼間とは違う雰囲気に目新しさを求めた観覧客が賑わっているが、場所が美術館であるだけあって騒々しさはない。連れとの会話もささやかな声量のもので、それがむしろこの夜の展覧会を昼間とは違う意味で引き立てていた。
そんな新しく就任したブライト館長が企画したとされる期間限定の試みでも、シルビの足はあの『弧蝶』へと向く。
絵画や作品を傷めない程度の照明に、窓から入る月明かり。受付でもらったパンフレットを確認すれば、『弧蝶』はこの夜の展示期間だけ場所が移動されているらしい。
客の殆どはやはり目玉展示品である『暁の天使』を観賞しに行っていて、へそ曲がりのように他の作品を観る客も少なかった。世間的に習作とされている『弧蝶』など、それを目的に観に来たのはシルビだけなのではと思うくらいに人がいない。
『弧蝶』は月の明かりが差し込む窓辺へ、まるで竪琴へ留まる蝶が飛んでいってしまうことを懸念するかのように展示されていた。
普段であればある程度近付いて観賞することの出来る作品なのだが、今はその絵にいつものように近付くことは叶わない。けれどもその距離こそ、あの『弧蝶』へ相応しいように思えた。
接近禁止を示すテープの前からそれを眺める。足音がして振り返ればルウとリィ、スタイン教授がこちらへ歩いてくるところで。
「こんばんは」
「『暁の天使』を観てきたよ。観た?」
「まだ。……俺はこっちのほうがいい」
言って視線を『弧蝶』へ戻す。同じ様に視線を向けた教授が、ほうと息を漏らしていた。
「ドミニクはお前さんという本物を見て『暁の天使』を描いただろぉ?」
「? うん」
「じゃああれは『兄さん』を見たのかなぁって思う。……ドミニクに聞きゃあ良かったなぁ」
「シルビのお兄さんは蝶なの?」
「……蝶ってのは、魂の象徴だとされる話がある」
それを聞いただけでルウは視線を『弧蝶』へ向ける。
魂の存在を今のこの世界で信じるかどうかはやはり人それぞれだ。ラー一族とかルウとかのような超自然的存在がいて、それを信じる宗教も魔術を信奉して少女の肉を食べようとする輩も、それらを信じない者もいる。
だから誰がどうその意見や現実を受け入れようと構わない。
あの『弧蝶』に描かれた蝶を、ドミニクが本当に見たのかだって事実を知る術はなくなった。もうドミニクはシルビの中にもいないのだ。
どこからともなく青い蝶が現れる。その蝶が『弧蝶』の額縁の角へ留まって羽を休める姿をスタイン教授は咎めない。きっと今日の昼間までであったなら咎めていただろうに。
横を向くと『弧蝶』を眺めていたルウが視線に気付いて振り向き、微笑む。
「……『弧蝶』って習作だから、『暁の天使』よりは買える可能性あるんだよなぁ」
「やめて頂けるかな」
スタイン教授に怒られた。
そんな新しく就任したブライト館長が企画したとされる期間限定の試みでも、シルビの足はあの『弧蝶』へと向く。
絵画や作品を傷めない程度の照明に、窓から入る月明かり。受付でもらったパンフレットを確認すれば、『弧蝶』はこの夜の展示期間だけ場所が移動されているらしい。
客の殆どはやはり目玉展示品である『暁の天使』を観賞しに行っていて、へそ曲がりのように他の作品を観る客も少なかった。世間的に習作とされている『弧蝶』など、それを目的に観に来たのはシルビだけなのではと思うくらいに人がいない。
『弧蝶』は月の明かりが差し込む窓辺へ、まるで竪琴へ留まる蝶が飛んでいってしまうことを懸念するかのように展示されていた。
普段であればある程度近付いて観賞することの出来る作品なのだが、今はその絵にいつものように近付くことは叶わない。けれどもその距離こそ、あの『弧蝶』へ相応しいように思えた。
接近禁止を示すテープの前からそれを眺める。足音がして振り返ればルウとリィ、スタイン教授がこちらへ歩いてくるところで。
「こんばんは」
「『暁の天使』を観てきたよ。観た?」
「まだ。……俺はこっちのほうがいい」
言って視線を『弧蝶』へ戻す。同じ様に視線を向けた教授が、ほうと息を漏らしていた。
「ドミニクはお前さんという本物を見て『暁の天使』を描いただろぉ?」
「? うん」
「じゃああれは『兄さん』を見たのかなぁって思う。……ドミニクに聞きゃあ良かったなぁ」
「シルビのお兄さんは蝶なの?」
「……蝶ってのは、魂の象徴だとされる話がある」
それを聞いただけでルウは視線を『弧蝶』へ向ける。
魂の存在を今のこの世界で信じるかどうかはやはり人それぞれだ。ラー一族とかルウとかのような超自然的存在がいて、それを信じる宗教も魔術を信奉して少女の肉を食べようとする輩も、それらを信じない者もいる。
だから誰がどうその意見や現実を受け入れようと構わない。
あの『弧蝶』に描かれた蝶を、ドミニクが本当に見たのかだって事実を知る術はなくなった。もうドミニクはシルビの中にもいないのだ。
どこからともなく青い蝶が現れる。その蝶が『弧蝶』の額縁の角へ留まって羽を休める姿をスタイン教授は咎めない。きっと今日の昼間までであったなら咎めていただろうに。
横を向くと『弧蝶』を眺めていたルウが視線に気付いて振り向き、微笑む。
「……『弧蝶』って習作だから、『暁の天使』よりは買える可能性あるんだよなぁ」
「やめて頂けるかな」
スタイン教授に怒られた。