夜の展覧会
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一度グレン警部と別れ、ヴァレンタイン卿の宿泊先であるカレーシュホテルへ戻った。遅い昼食を取るのだと言う三人に断り、シルビは部屋でドレッサーの前に陣取る。
腰に提げているウォレットチェーンの飾り部分を握り、眼帯を外して暫く集中するように目を閉じてから、目を開けて正面の鏡を見た。鏡の中の自分の背後へ、黒いセーターを着た中年男性が立っている。
視界はぶれていない。頭痛もしておらず。鏡に映る眼も紫色だ。
「……『眼』と『手』は許可した。だが『意識』や『声』までアンタに貸すと言った覚えは無ぇ」
鏡の中の男性は首をかしげた。
「俺は霊媒師でも何でも無ぇんだよ。アンタの事だって勝手に『入って』きただけで、俺が呼んだ訳じゃねぇ。この前言った事をアンタも覚えてんだろぉ? 『俺に害を与えなけりゃ』だぁ。アンタ、そのルールを守ってるかぁ?」
今度は分かったのか鏡の中の男性が申し訳無さそうにする。相手は中年男性だというのにちょっと可愛いと思ってしまったのは、彼の雰囲気に邪気が感じられないからだろう。一人で作業する画家としては別にいいのだろうが、人としてはどうなのか。
シルビが溜息を吐けば男性が顔を上げた。
「……リィ達が戻ってくるまで寝るから、部屋からは出るなよぉ」
椅子から立ち上がって振り返るがそこには誰も居ない。霊感がある訳でもないシルビが鏡越しに幽霊が見えて、かつ取り憑かれるほうが異常なのだ。
今後もこんな事があったらそれなりの対処をするしかない。今回はたまたま『ドミニク』だったから良かったものの、その辺の何かに取り憑かれてしまっても困る。
ぶれる視界に晒され続けて最近はいつも以上に眼が疲れていた。おそらく取り憑かれているのも原因の一端だろう。
完全にルウの影響が抜ければそれもなくなると信じたい。ただでさえ自分の事をまだまだ把握出来ていないのだから。
数十分も寝ないうちに内線でリィに起こされた。本物と贋物を摺り変えたかもしれない相手へ会いに行くのだという。
シルビも仕度をしてロビーでリィ達と合流しようとしたところで、枕元に置かれていたクロッキー帳に気がついた。『ドミニク』の為に荷物へ入れていた物だったそれは、鞄から出した覚えは無い。
反省したと思ったら人が寝ている間に、と思いつつ手にとって捲る。中ほどの頁の、シルビの記憶では何も描かれていなかった用紙に、新しい絵が増えていた。
「……まぁ、一回目だし大目に見てやるかぁ」
模写なのか抽象なのかは分からないが、用紙の中心へ描かれていた一匹の蝶。鉛筆の黒だけで描かれている筈なのに『青い蝶』だと認識出来てしまうところは、稀代の天才と謳われた抽象画家の本領発揮というべきか。
部屋を出る寸前、また『入った』のか視界がぶれた。
腰に提げているウォレットチェーンの飾り部分を握り、眼帯を外して暫く集中するように目を閉じてから、目を開けて正面の鏡を見た。鏡の中の自分の背後へ、黒いセーターを着た中年男性が立っている。
視界はぶれていない。頭痛もしておらず。鏡に映る眼も紫色だ。
「……『眼』と『手』は許可した。だが『意識』や『声』までアンタに貸すと言った覚えは無ぇ」
鏡の中の男性は首をかしげた。
「俺は霊媒師でも何でも無ぇんだよ。アンタの事だって勝手に『入って』きただけで、俺が呼んだ訳じゃねぇ。この前言った事をアンタも覚えてんだろぉ? 『俺に害を与えなけりゃ』だぁ。アンタ、そのルールを守ってるかぁ?」
今度は分かったのか鏡の中の男性が申し訳無さそうにする。相手は中年男性だというのにちょっと可愛いと思ってしまったのは、彼の雰囲気に邪気が感じられないからだろう。一人で作業する画家としては別にいいのだろうが、人としてはどうなのか。
シルビが溜息を吐けば男性が顔を上げた。
「……リィ達が戻ってくるまで寝るから、部屋からは出るなよぉ」
椅子から立ち上がって振り返るがそこには誰も居ない。霊感がある訳でもないシルビが鏡越しに幽霊が見えて、かつ取り憑かれるほうが異常なのだ。
今後もこんな事があったらそれなりの対処をするしかない。今回はたまたま『ドミニク』だったから良かったものの、その辺の何かに取り憑かれてしまっても困る。
ぶれる視界に晒され続けて最近はいつも以上に眼が疲れていた。おそらく取り憑かれているのも原因の一端だろう。
完全にルウの影響が抜ければそれもなくなると信じたい。ただでさえ自分の事をまだまだ把握出来ていないのだから。
数十分も寝ないうちに内線でリィに起こされた。本物と贋物を摺り変えたかもしれない相手へ会いに行くのだという。
シルビも仕度をしてロビーでリィ達と合流しようとしたところで、枕元に置かれていたクロッキー帳に気がついた。『ドミニク』の為に荷物へ入れていた物だったそれは、鞄から出した覚えは無い。
反省したと思ったら人が寝ている間に、と思いつつ手にとって捲る。中ほどの頁の、シルビの記憶では何も描かれていなかった用紙に、新しい絵が増えていた。
「……まぁ、一回目だし大目に見てやるかぁ」
模写なのか抽象なのかは分からないが、用紙の中心へ描かれていた一匹の蝶。鉛筆の黒だけで描かれている筈なのに『青い蝶』だと認識出来てしまうところは、稀代の天才と謳われた抽象画家の本領発揮というべきか。
部屋を出る寸前、また『入った』のか視界がぶれた。