リィ達が美術館から盗むなんて事はしないと分かった途端、シルビはすっかり肩の荷が降りた気分だった。
ホテルに戻れば自然と合流できるだろうと、美術館の閉館ギリギリまで粘って『弧蝶』を眺め、夕方に帰る。シルビがホテルへ戻った少し後に帰ってきたリィとシェラは、シルビと別れてからは精力的に『暁の天使』探しに奔走していたらしい。
今日中に盗んだ方法や実行犯については調べ終えたというのだから、相変わらず一般人らしくないなと思ってしまった。それを幇助するつもりのあるシルビ自身も大概だが。

「美術館から盗むんじゃなけりゃ俺も手伝うぜぇ。泥棒から盗むってんなら誰も困らねぇしなぁ」
「盗んだ泥棒は困るのでは？」
「因果応報自業自得。その代わりリィだってその危険があるって話なだけだぁ」
「賛成してるのか反対してるのか分からないな」
「美術館かリィの手元のどっちかにありゃ、文句を言うつもりは無ぇよ」

リィとシェラはシルビの考えが理解しきれなかったようだった。そう難しい事を言っているつもりは無いが、確かに常識ではないので分かりにくいだろうとは思う。
ともあれシルビも含めて三人になった盗賊団は、ベッドの上で車座になって作戦会議を始めた。リィとシェラが調べてきた盗難方法は、やはり先週にあったという内装工事のタイミングに、壁へ張り付けるパネルの中へ隠して館外へ出したというもの。実際に内装工事を行なった業者は連絡も取れず逃亡済み。
偽物を残し発覚を遅らせたことを考えれば、『暁の天使』に魅入られた蒐集家の依頼による犯行だろう。問題はその本物が何処へ運ばれたのかだ。

「もうちょっと手がかりが欲しいな」
「偽物を置いてったのが時間稼ぎなのか、ずっと気付かれねぇようにするつもりだったのかが分からねぇなぁ。前者なら本物を遠くへ移動させてから、美術館へ身代金を強請るとか、そういう可能性もあるけど」

本物の絵を目下の安全な場所へ隠し、それから美術館へ『今飾っているものは偽物だ』と教えて取引材料にする。美術館側は摺り返られたことに気付けなかった屈辱と、本物を取り返したい熱意に興奮してどんな額でも取引を成功させようとしてくるはずだ。
それでやはり偽物を金と引き換えに返し、本物かどうかを鑑定している間に雲隠れしてしまえば、本物と金が手元へ残る。
ずっと気付かせないつもりだった場合は、既にこの惑星から運び出されている可能性もあるが、その場合はそれこそ今までの所持者が見舞われたらしい『ドミニクの呪い』でも発動しろと言いたい。