夜の展覧会
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とりあえずは折っても丸めても、そもそも額から出すのもあまり賛成できた行為ではない、と理解したらしいリィが途方にくれた顔をしていた。盗み出す算段をするつもりが、その条件がどんどん増えていく事に難儀だと思っているのだろう。
副館長が新しく展示室へ入ってきた男性に気付いた。頑固そうな老人と若い男だが、老人の方には見覚えがある気がする。
「この人はゲルハルト・スタイン教授。近代美術の中でも特にドミニクを専門に研究していらっしゃる」
「……以前『ドミニク初期中期における具象画の変遷』という論文を書かれていましたね」
副館長の紹介を聞いて思い出した。年若いシルビがその論文を知っていた事に驚いたのか、全員の視線がシルビへ向けられる。
美術鑑賞にハマっていた頃、ドミニクの『弧蝶』を見てから少し調べていた時に読んだものだ。ドミニクを単に褒め称えるようなものではない、意外と面白い論文だったので内容は覚えている。製作者は言われるまで忘れていたが。
「あれを読んだのかね。若い者には難解だと思っていたのだが」
「俺は美術方面の知識は然程無いのですが、あの論文は大変興味深かったです。……好きな絵は『弧蝶』なのですけれど」
「若い者たちがドミニクを好きとは嬉しい。――模写であっても鑑賞であっても」
後半はディックの模写を見やっての発言だろう。シルビとしては眺めるだけでも嬉しいというところに好感が持てた。
専門家や研究者の中には自分の知識をひけらかして興味のあるものを貶し、狭き門を自ら更に狭くする者だっている。それに比べれば相手を無為に否定しない柔軟な学者は素晴らしいと思う。
だが流石に教授も、リィの『絵が違う』という話には険しい顔をした。
美術館の警備を絶賛し、『暁の天使』へ向き直る姿は信仰の対象を敬うように毅然としている。シルビの視界ではない方が僅かに嬉しそうにするのが感じられて、しかし落胆へと変わったのは目の前の『暁の天使』が偽物であると証明していた。
教授がリィを振り返り『暁の天使』から目を逸らした途端、ぶれていた視界が自分自身だけのそれに戻る。どうやら『抜けた』らしいと思ったものの、アレが『何』で『何の為に』シルビへ入ってきていたのかが分からない。
リィは大人四人へ偽物だということを否定されていたが、唐突に考えを改めたようだった。
「それなら、先週この部屋にあった絵を見つけたら、おれがもらってかまわないかな?」
逆転の発想とはこのことか。思わず頭を抱えそうになったシルビはきっと悪くない。
副館長が新しく展示室へ入ってきた男性に気付いた。頑固そうな老人と若い男だが、老人の方には見覚えがある気がする。
「この人はゲルハルト・スタイン教授。近代美術の中でも特にドミニクを専門に研究していらっしゃる」
「……以前『ドミニク初期中期における具象画の変遷』という論文を書かれていましたね」
副館長の紹介を聞いて思い出した。年若いシルビがその論文を知っていた事に驚いたのか、全員の視線がシルビへ向けられる。
美術鑑賞にハマっていた頃、ドミニクの『弧蝶』を見てから少し調べていた時に読んだものだ。ドミニクを単に褒め称えるようなものではない、意外と面白い論文だったので内容は覚えている。製作者は言われるまで忘れていたが。
「あれを読んだのかね。若い者には難解だと思っていたのだが」
「俺は美術方面の知識は然程無いのですが、あの論文は大変興味深かったです。……好きな絵は『弧蝶』なのですけれど」
「若い者たちがドミニクを好きとは嬉しい。――模写であっても鑑賞であっても」
後半はディックの模写を見やっての発言だろう。シルビとしては眺めるだけでも嬉しいというところに好感が持てた。
専門家や研究者の中には自分の知識をひけらかして興味のあるものを貶し、狭き門を自ら更に狭くする者だっている。それに比べれば相手を無為に否定しない柔軟な学者は素晴らしいと思う。
だが流石に教授も、リィの『絵が違う』という話には険しい顔をした。
美術館の警備を絶賛し、『暁の天使』へ向き直る姿は信仰の対象を敬うように毅然としている。シルビの視界ではない方が僅かに嬉しそうにするのが感じられて、しかし落胆へと変わったのは目の前の『暁の天使』が偽物であると証明していた。
教授がリィを振り返り『暁の天使』から目を逸らした途端、ぶれていた視界が自分自身だけのそれに戻る。どうやら『抜けた』らしいと思ったものの、アレが『何』で『何の為に』シルビへ入ってきていたのかが分からない。
リィは大人四人へ偽物だということを否定されていたが、唐突に考えを改めたようだった。
「それなら、先週この部屋にあった絵を見つけたら、おれがもらってかまわないかな?」
逆転の発想とはこのことか。思わず頭を抱えそうになったシルビはきっと悪くない。