夜の展覧会
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先週の『暁の天使』とは違うと主張するリィに、画学生が名乗る。ただの画学生だと思っていたディック・フローは、この美術館の副館長であるアルフォンス・ブライドの甥らしい。
ディックはその副館長から直接、先だっての工事で『暁の天使』を複製と入れ替えるなんて事実はないと聞いているらしく、リィの主張も冗談か子供の戯言としか受け取っていなかった。シェラが戸惑いを浮かべてシルビへ目を向けてきたので、ぶれる視界に気を付けながら傍へと向かう。ちょうどその時、当の副館長がやってきた。
「ついに当美術館は生きた天使像を展示するようになったのかと思った。ずいぶん可愛らしい友達だな、ディック」
美術品を管理するものらしい冗談でシルビ達の外見を絶賛し、人好きの良い笑みを浮かべる。リィやシルビ達を無駄に誉めそやしたり、やましい事を考えたりしない人の様だった。
だがリィの『先週の絵とは違う』という話には有り得ないと一笑に付す。明確な証拠も無く違うと主張するリィに副館長も苦笑気味だったが、シェラとシルビは視線を交わしてリィの背中を見つめた。
これだけリィが主張するのだ。別の絵だと判断するべきなのだろう。ましてやその絵は『暁の天使』という、リィの『相棒』を描いたと思われる絵なのだから。
「それなら先週の絵は盗まれて、代わりにこの絵が置いていかれたということなんでしょうか?」
「このエレメンタルから絵を盗むだって? しかも『暁の天使』を? それは不可能だというんだよ」
フラグが立ったなと、どうでもいい事を考えながらシルビは展示されている『暁の天使』を見上げる。二重にぶれている視界は落ち着いているものの、その絵を見た途端じくじくと頭痛が響いた。
自分は流石に霊媒体質では無かった筈だと思うのだが、この前僅かなりともルウの『器』になったせいで、どうにも調子が狂っているように思える。
エレメンタル美術館の防犯性を説明しきった副館長が、今度は『暁の天使』自体の盗みにくさを話せばリィが首を傾げた。
「折りたためばいいんじゃない?」
二重に歪む視界のうち、自分のものではない視界の方が面白げな雰囲気を出す。それにもリィの発言にも呆れつつ、シルビはどう説明しようか悩む。
「リィ。絵画ってのは折り曲げたり丸めたりしちゃ価値が下がるんだぁ」
「どうして?」
「布や紙の上であっても描くのに使われた絵の具が剥がれ落ちてしまう、ってのもあるし折り目が付けられた時点で本来の素晴らしさを見出せねぇ、ってのもある。……画面に皹が入った携帯端末を好んで買おうとは思わねぇだろぉ?」
「絵の具の一欠けも駄目ってことか?」
「描いた人の意思を尊重してんだろぉ」
描いた人の意思を尊重というのならやはり『暁の天使』を寄越せ、と言い出すかと思ったが、美術品全般への常識とちゃんと受け取ってくれたらしい。
ディックはその副館長から直接、先だっての工事で『暁の天使』を複製と入れ替えるなんて事実はないと聞いているらしく、リィの主張も冗談か子供の戯言としか受け取っていなかった。シェラが戸惑いを浮かべてシルビへ目を向けてきたので、ぶれる視界に気を付けながら傍へと向かう。ちょうどその時、当の副館長がやってきた。
「ついに当美術館は生きた天使像を展示するようになったのかと思った。ずいぶん可愛らしい友達だな、ディック」
美術品を管理するものらしい冗談でシルビ達の外見を絶賛し、人好きの良い笑みを浮かべる。リィやシルビ達を無駄に誉めそやしたり、やましい事を考えたりしない人の様だった。
だがリィの『先週の絵とは違う』という話には有り得ないと一笑に付す。明確な証拠も無く違うと主張するリィに副館長も苦笑気味だったが、シェラとシルビは視線を交わしてリィの背中を見つめた。
これだけリィが主張するのだ。別の絵だと判断するべきなのだろう。ましてやその絵は『暁の天使』という、リィの『相棒』を描いたと思われる絵なのだから。
「それなら先週の絵は盗まれて、代わりにこの絵が置いていかれたということなんでしょうか?」
「このエレメンタルから絵を盗むだって? しかも『暁の天使』を? それは不可能だというんだよ」
フラグが立ったなと、どうでもいい事を考えながらシルビは展示されている『暁の天使』を見上げる。二重にぶれている視界は落ち着いているものの、その絵を見た途端じくじくと頭痛が響いた。
自分は流石に霊媒体質では無かった筈だと思うのだが、この前僅かなりともルウの『器』になったせいで、どうにも調子が狂っているように思える。
エレメンタル美術館の防犯性を説明しきった副館長が、今度は『暁の天使』自体の盗みにくさを話せばリィが首を傾げた。
「折りたためばいいんじゃない?」
二重に歪む視界のうち、自分のものではない視界の方が面白げな雰囲気を出す。それにもリィの発言にも呆れつつ、シルビはどう説明しようか悩む。
「リィ。絵画ってのは折り曲げたり丸めたりしちゃ価値が下がるんだぁ」
「どうして?」
「布や紙の上であっても描くのに使われた絵の具が剥がれ落ちてしまう、ってのもあるし折り目が付けられた時点で本来の素晴らしさを見出せねぇ、ってのもある。……画面に皹が入った携帯端末を好んで買おうとは思わねぇだろぉ?」
「絵の具の一欠けも駄目ってことか?」
「描いた人の意思を尊重してんだろぉ」
描いた人の意思を尊重というのならやはり『暁の天使』を寄越せ、と言い出すかと思ったが、美術品全般への常識とちゃんと受け取ってくれたらしい。