夜の展覧会
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今シルビが『暁の天使』を見たら別の意味で言葉を失う理由。それは絵画の中へ描かれている人物が知り合いにとても良く似ているからだ。
ルーファス・ラヴィー。この共和宇宙連邦でも公然の秘密となっている神の様な者達であるラー一族の一人。そしてリィの相棒。
今は連邦大学惑星にあるサフノスク校へ『普通の学生』として通っている彼に、絵画の中の人物はそっくりなのである。
だがシルビが知る限りではドミニクの描いた『天使』に特定のモデルは居なかったとされており、ルウも『暁の天使』が描かれた数百年前には流石に生きていなかっただろう。シルビの様に何度も転生を繰り返しているのならまだしも、そんな話を聞いた事も無い。
リィはそれでもあの絵を『自分へ贈られたもの』だと直感したのだという。
漠然とした感想ではあるが、シルビもリィの口からその発言を聞いて、やっと『確かにあの絵はリィが所持していた方がいい』と悟った。悟ったというよりは共通認識として受け入れたというべきか。
ともあれリィはそんな理由からあの絵がどうしても欲しいらしく、父親であるヴァレンタイン卿におねだりしてみたり、かつて共和宇宙の経済界の頂点へ立っていたクーア総帥に尋ねたり、共和宇宙連邦の政治界を統括する連邦主席へも話を聞いたらしかった。
一枚の絵へ捧げる情熱としてはやりすぎな感もあるが、それよりも曲がりなりにも『目指せ一般人』を志している学生が持っている伝手がおかしい。
経済界の頂点でも連邦主席でも個人のものには出来ないと理解したリィは、経済界の頂点だった男の『こっそり複製と入れ替える』作戦を本気に取って考え始めたようだった。
常識が通用しない相手に冗談でもそんな事を言うなと、かつて経済界の頂点を演じていたケリーをシルビは内心で恨んだ。
「俺はドミニクはドミニクでも、初期に描かれた『弧蝶』のほうが好きなんだけどなぁ」
「へえ、どうして?」
「俺の『兄さん』に似てる」
週末のエレメンタル美術館の入り口へ向かいながら、リィとシェラへそう説明した。
『弧蝶』はドミニクが具象から抽象へ移る、まだ具象画の影響が強く残る頃に描かれた作品だ。薄ぼんやりとした黒緑色の背景に置かれた竪琴へ留まる青い蝶という構成で、ドミニクファンの多くからは習作と評価されている。
その作品も『暁の天使』と共にエレメンタル近代美術館へひっそりと展示されており、週末になって『下見』に行くのだと言うリィ達の、意味の無い抑止力として付いてきたシルビの、唯一の慰めだった。
ルーファス・ラヴィー。この共和宇宙連邦でも公然の秘密となっている神の様な者達であるラー一族の一人。そしてリィの相棒。
今は連邦大学惑星にあるサフノスク校へ『普通の学生』として通っている彼に、絵画の中の人物はそっくりなのである。
だがシルビが知る限りではドミニクの描いた『天使』に特定のモデルは居なかったとされており、ルウも『暁の天使』が描かれた数百年前には流石に生きていなかっただろう。シルビの様に何度も転生を繰り返しているのならまだしも、そんな話を聞いた事も無い。
リィはそれでもあの絵を『自分へ贈られたもの』だと直感したのだという。
漠然とした感想ではあるが、シルビもリィの口からその発言を聞いて、やっと『確かにあの絵はリィが所持していた方がいい』と悟った。悟ったというよりは共通認識として受け入れたというべきか。
ともあれリィはそんな理由からあの絵がどうしても欲しいらしく、父親であるヴァレンタイン卿におねだりしてみたり、かつて共和宇宙の経済界の頂点へ立っていたクーア総帥に尋ねたり、共和宇宙連邦の政治界を統括する連邦主席へも話を聞いたらしかった。
一枚の絵へ捧げる情熱としてはやりすぎな感もあるが、それよりも曲がりなりにも『目指せ一般人』を志している学生が持っている伝手がおかしい。
経済界の頂点でも連邦主席でも個人のものには出来ないと理解したリィは、経済界の頂点だった男の『こっそり複製と入れ替える』作戦を本気に取って考え始めたようだった。
常識が通用しない相手に冗談でもそんな事を言うなと、かつて経済界の頂点を演じていたケリーをシルビは内心で恨んだ。
「俺はドミニクはドミニクでも、初期に描かれた『弧蝶』のほうが好きなんだけどなぁ」
「へえ、どうして?」
「俺の『兄さん』に似てる」
週末のエレメンタル美術館の入り口へ向かいながら、リィとシェラへそう説明した。
『弧蝶』はドミニクが具象から抽象へ移る、まだ具象画の影響が強く残る頃に描かれた作品だ。薄ぼんやりとした黒緑色の背景に置かれた竪琴へ留まる青い蝶という構成で、ドミニクファンの多くからは習作と評価されている。
その作品も『暁の天使』と共にエレメンタル近代美術館へひっそりと展示されており、週末になって『下見』に行くのだと言うリィ達の、意味の無い抑止力として付いてきたシルビの、唯一の慰めだった。