夜の展覧会

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デフォルト名があるので変換は本当に変えて読みたい方向けです。
デフォルト洋名
デフォルト和名

「セントラルにあるエレメンタル近代美術館って知ってるか?」
「……ドミニクの『暁の天使』のことかぁ? 俺も行って見たことがあるぜぇ」

夕食の席で向かいへ来たリィとシェラへ先手を打つ。二人が数日前、学校によって推奨されている美術鑑賞の為、セントラルの美術館へ行ったという話は既に聞いていた。
セントラルの『エレメンタル近代美術館』と言えば、リィが気にしそうな作品は一つしかない。更に言うのならシルビはリィがその作品とその作品に関する逸話を聞いた時、リィならこんな事を言い出すだろうなという予想が一つあった。
連邦屈指の美術館の一つであるその美術館には、とある名作が展示されている。シルビが『イブリス』としてこの世界へ来るより数百年も前に、ドール・ドミニク・アリンコという画家によって描かれたその作品は題名を『暁の天使』といった。
一生に一度は見ておくべきだと誰もが絶賛する程の名作であり、シルビもリィ達と出会う前に数回見に行った事がある。その当時は何故か美術品鑑賞へ嵌まっていたものだから、休日になる度に近辺の美術館へ通ったものだ。
残念な事に今はそうでもないし、どんなに名作を鑑賞したところでシルビの画力が上がるなんて事も無く今日に到っている。別に画力を上げたくて鑑賞していた訳ではないが。
その『暁の天使』という絵は、近代抽象画の中では類を見ないほどの名作とされている。黒髪の美しい人の横顔と、太陽と月。端的に説明するのならばその三つで構成されたその絵画を初めて見た時は、シルビも言葉を失ったものだ。今見たなら別の意味で言葉を失うだろうが。
作者であるドミニクが唯一手元に置き続けていたものであり、彼の遺書によってそれを譲り受ける人物は決まっている。けれどもその人物は未だ連邦史上へ現われたことは無い。そんな不思議な逸話もあの絵画を際立たせているのだろう。
ドミニクの遺書は『まだ見ぬ黄金と翠緑玉の君へ』という言葉で始まっていた。
目の前へ座るリィは、黄金のような金の髪と草原のような翠緑玉の瞳をしている。

「数百年前の画家の描いた作品に、ルウに良く似た人物が描かれている事に関しちゃ不思議だが正直どうでもいいかなぁ。俺だって異世界へ行ってまたそこへ戻ってくるなんてことをしてる訳だしなぁ」
「やっぱりシルビもルーファに見えるのか」
「……アレは前世のルウか何かなのかぁ?」
「さあ? でもあれがおれの絵だっていうことは分かる」

リィは自信満々に言い切った。

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