シェラが手首の通信端末でリィへ呼び掛ける。予想に反し間をおかずに返ってきた声は、躊躇なくルウを倒せと言う。

「それはもうルーファじゃない！ 脳を破壊された！ 制御装置で動いているだけの生きた死体だ！」
「……じゃあ遠慮なく」

ルウの剣を避け、シルビはしゃがんでルウの足を払うと距離を取り銃口を向けた。ルウを挟んで反対側ではレティシアが剣を構えている。
それをルウ越しに見たまま引き金を引けば、案の定かわされて弾がレティシアへと襲い掛かった。だがレティシアも分かっているので少し身を逸らすだけでそれを避け、タイミングを見計らってルウへと飛び掛る。

「鋼索鋸はぁ！？」
「これじゃ使えねえな！」

手足の切断が出来れば随分と楽なのに、と思ったもののそう考える隙を作るとすぐさまルウが襲ってくるのでやってられない。いっそ凍らしてしまおうかと再び銃口を向けたところで、リィが応接室へ飛び込んでくる。
思わず構えを解けばルウが向かってきた。レーザーの剣が相手では鍔迫り合いも難しく、攻撃は避けるしか手がない。

「退け。おれがやる」
「あんた、こいつと戦ったりして平気なのかよ？ ここであんたにまで倒れられるのは御免だぜ」
「そんなことにはならない」

リィが断言する。

「見ればわかるだろう。これはルーファじゃない」

なるほどだから自分はさっき撃ったのかと考えて、シルビは少しだけ安堵した。もしこれが操られているルウだったとしたら、シルビは本人だけではなくリィにも怒られていただろう。
そもそも『違う』から身体が反応したのだろうが。
制御装置で動かされているだけの『生きた死体』
ある意味それも『不老不死』なのだろうと思うと笑えた。ルウも剣を構えたままリィを見て微笑している。リィはリィで馬鹿にしたように笑った。

「表情まで操作できるのか？ 便利な制御装置だ」
「けどよ。脳味噌いじくるだけならまだしも、その抜け殻をここまで器用に動かすって、そんな事が外科手術でできるのかよ？」

脳味噌を弄ったり手術したりせずとも、『憑依』という手段で操る事が出来た『知り合い』を思い出しシルビは乾いた笑いを零す。生憎レティシア達には気付かれなかったが、あれもおそらくは超能力の類へとなるのだろう。
こんな事ならやり方を教わっておけば良かったなと思った。そうすれば上書きしてルウの身体を操れるのではと考えたからだ。シルビは幻覚が得意ではないので無理な話だろうが。
それよりもリィの発言が気になった。この《ネレウス》には、脳をいじくられ発電機と化した能力者が大勢いるらしい。