アイクライン校へリィ達を迎えに行く前に、ヴェルナール校へ迎えに来たジャスミンの車へと乗り込み、アイクライン校へと向かう。真っ赤なスポーツカーはジャスミンにとても似合っていた。
門前で止めた車から降りるジャスミンに続いて、シルビも車から降りる。リィ達の知り合いらしい三つ編みの少女へ自己紹介しているジャスミンの横へ並べば、三つ編みの少女は不思議そうにシルビを見た。

「こんにちは。彼女の『知人』のシルビ・グラマトです」
「こ、こんにちは。ベティ・マーティンです」

『知人』と言った途端、隣から視線が来たがこの場では無視する。傍に居たリィはシルビの登場に不思議そうにしていた。

「シルビも来たのか？」
「うん。ジャスミンに誘われて」

アイクライン校の生徒でも、フォンダム寮でなければシルビのことは知らない。違う寮に住んでいてもヴェルナール校の友人が居るとなれば少しは聞いているだろうが、文化祭の人混みに紛れてくる程度でしかここに来たことは無いので、ジャスミンの存在感と相まってどうにも生徒達の視線を集めているようだった。
フォンダム寮とヴェルナール校では既に慣れた視線だが、どうにもジャスミンを見る目に違和感を覚える。何かあったのかとシェラを見れば、気にするなと首を振られた。
目的地はログ・セール大陸にある為大陸横断道路へと出る。後ろから尾行してきている車の存在に気付いた。
どうやら最近、リィ達はセラフィナのマネージャーへ目を付けられてしつこく勧誘されているらしい。後ろの車はそのマネージャーのものだろうと、ジャスミンが速度を上げる。
隣に座っていたベティは、その運転に目的地へ着くまで絶叫していた。

「ベティはミュージカルもやるのか？」
「できませええん！ あたし音痴なんですうう！」
「もったいない。宝の持ち腐れだぞ」
「……音痴はともかく、そんな叫んでると喉潰れるぞぉ？」
「それはいやあああ！」

半泣きである。
市営の多目的施設の前でようやく止まったスポーツカーに、ベティはシェラとシルビに支えられる形でなんとか車から降りた。それからベティの足の震えが治まった頃、無人タクシーがやってくる。
降りてきたふくよかな婦人を見て、シルビが叫ばなかったのは僥倖だった。ベティへと自販機で買ってきた飲み物を握り潰しかけはしたが。

「あらまあ、ジャスミン。お久しぶり！」

映画界の女帝、ジンジャー・ブレットその人である。有名人が変装しているとはいえこうも簡単に往来を出歩くなんてと思ったが、そういえばこの人は以前にも学校の文化祭へ変装して来ていたことを思い出した。
彼女の習慣なのかもしれない。それか有名になりすぎた故の弊害か。
最後にのんびりとレティシアがやってくる。レティシアはシルビと見るとニンマリとチェシャ猫のように笑ったが、あえて言葉では何も言わなかった。