チャックは生まれながらのヴェロニカ教信徒である。となれば宗教上肉は食えない。それどころか牛乳だって飲んだことがあるかどうか。とすると栄養を摂取する為に食品技術には力を入れているとしても、その食品にも肉や牛乳が利用されるとは思わない。
ダイアナに出してもらったヴェロニカ教の教義では、人の手によって植えられ栽培され収穫された物以外は口にしてはいけないという。となると人の手でクローン動物を作り出した場合その肉や乳は飲食可能かと、顰蹙を買うような疑問が浮かぶがそれはさておき。
生まれた時から肉の摂取が許されない場所で育ったチャックは、どこで『焼いた肉の味』を知ったのだろうか。
ダイアナへも言ったが肉の焼ける匂いは本来忌避する匂いだ。それを好ましいものだと思うようになるには何かしらの切っ掛けがあるはずである。
普通であればそれは、焼いた肉を食べる事でそれが美味いと認識し、それを繰り返す事で『焼いた肉は美味い』と覚えていく。現代社会においては環境的にごく自然な事なので気付きにくいが、シルビでなくとも普通はそうして無意識に覚えるものだ。
だがそれは『現代社会の環境的にごく自然』であって、『誰にとっても自然』ではない。ヴェロニカ教の教義は、その『現代社会の環境』を肯定してはいないのだから。
では『現代社会の環境』を肯定しない環境で育った場合。例えるのならある程度成長するまでそのモノの『存在を知らず初めて見た場合』、それはどうなのるのか。
以前にも何処かで言ったような話だが、それは未知の物でしかないのでそれまでの常識で当てはめて人は認識するものだ。よって『不思議なもの』『不気味なもの』『綺麗なもの』『得体の知れないもの』と大体は一見で判断する。百聞は一見に如かず。

「なのでチャックの場合、『肉を焼いて食べる』という環境ではなかった訳だから、当然『肉を焼く』事も知らねぇだろぉ。それ自体は知っていたとしても、『肉の味』を知らなければ反応する事も無ぇ」
「つまりその子は、以前にも肉を食べた経験があるということかしら」
「まぁ一概にそうとは言い切れねぇけど、そういう可能性もあるんじゃねぇかなぁ」

ついでだからとチャックの身辺情報と両親の職業についても調べてみながら、シルビはお代わりの淹れられたココアを飲む。
チャックの父親はリィの父親であるヴァレンタイン卿と同じく、惑星ヴェロニカで政治家をしているらしい。

「そういえばシルビ？ 貴方のご両親は大学惑星へ来られなかったようだけれど」
「マギーが来たんだろぉ？ 俺の今の両親は二人とも病弱だからなぁ。あまりあの星から出て欲しくも無ぇし、いいんじゃねぇの？」