「四十年前」
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ジャック視点
そこは居住可能型惑星ではなかった。小さいながらも星を包み込む大気も星の崩壊を防ぐ重力も生命の源になる水もあったが、その星には生物が生きる為の空気が存在していなかったのである。
大地も土と呼ぶより鉱石と呼んだほうが近く、そこを流れる水も人類が『水』と呼ぶものとは違っていた。例えるのなら『油』だろうか。
それでも船から降りずに一時休むだけであれば、その惑星は特に問題も無い。気密服を着込めば散歩だって出来る。
だからという訳ではなかったが、《ブルーライトニング》の船長であるジャックは一人で鉱石の大地を進んでいた。
何かに導かれている訳ではなかったが、その足取りに迷いは無い。明確な目的地があって進んでいるようにも見える。しかし当のジャックにそんなつもりは無かった。
ただ、ブルーライトニングの感応頭脳である《サブジェイ》が、執拗に早くいけと言っていたのだ。
サブジェイは『多少』特別な感応頭脳だが、機械であるが故にそこへ『気のせい』だとかそういうものは存在しない。なのに『彼』はこの星へ降りて早く行けと言ってくる。
何があるのかは、サブジェイ自身にも分かっていなさそうだった。
硬くて脆いという矛盾した鉱石がジャックの足踏みによって僅かに崩れる。崖になっている地面の切り込みを覗き込むように降っていけば、崖下は思っていた以上に広く一本道のようになっていた。
砕けて砂のように細かくなった鉱石に足跡が付く。ジャックのそれ以外に生き物が残した痕跡は何一つ無いというのに、進んだ先で見つけたものにジャックは言葉を失った。
人が居たのである。
正確には、水晶よりも透明度の高い鉱石の中へ人が入っていた。まるで眠ったまま氷付けにされたようで、目は閉じられていてもその顔色は死人のそれではない。鉱石の中でまだ生きているかのようだ。
最初は鉱石の中に出来た皹による光の屈折が生み出した奇跡かと思った。しかしそれはありえないだろう。手とか足の一部分だったらそれもあり得るかもしれないが、これは全身だ。しかも服を着ている。
服装はジャックが今まで行った事のある何処の星の服装とも違った。奇抜ではないが型遅れか流行遅れ、もっと言うなら旧時代の服か。構造が古い。
眠っている顔のせいで明確な年齢は分からないが、ジャックよりは若いだろう。黒い髪が背中へ流れ、女顔。背丈もジャックよりありそうだ。
ただ、その顔も服も血で汚れていた。
たった今出血したような新鮮な色合いの血。鉱石に阻まれてその傷口までは見えないが、きっと何処かへ怪我をしているのだろう。
もう少し近付いて眠っているその人を観察しようと鉱石へ触れた。途端、ピシリという音が伝わるはずの無い空間で聞こえる。鉱石に触れた手から伝わる振動に危機感を覚えてジャックが飛び退けば、目の前の鉱石は剥離するように崩れ落ちていった。
空気があればその音は凄いものだっただろうが、あいにくこの惑星に空気は無く音の振動も伝わらない。
崩落が終わった後のその場で、崩れ落ちた鉱石を褥に閉じ込められていた人が倒れている。これで見間違いでもなく実際のものであった事が証明された訳だが、ジャックは警戒しつつ慎重にその人へと近付いて手を伸ばした。
その手をすくい上げるように触れれば、暖かい。驚いてその人の胸元へ手を当てると心臓の鼓動と呼吸する振動が伝わってくる。この空気の無い、ジャックでさえ気密服を着なければ行動できない星で、この人物は何を吸っているのか。
訝しげに観察していれば、倒れていたその人が薄っすらと目を開けた。気密服のガラス越しに見た目は、綺麗な紫色をしている。
「……Levi?」
そう言った気がした。
そこは居住可能型惑星ではなかった。小さいながらも星を包み込む大気も星の崩壊を防ぐ重力も生命の源になる水もあったが、その星には生物が生きる為の空気が存在していなかったのである。
大地も土と呼ぶより鉱石と呼んだほうが近く、そこを流れる水も人類が『水』と呼ぶものとは違っていた。例えるのなら『油』だろうか。
それでも船から降りずに一時休むだけであれば、その惑星は特に問題も無い。気密服を着込めば散歩だって出来る。
だからという訳ではなかったが、《ブルーライトニング》の船長であるジャックは一人で鉱石の大地を進んでいた。
何かに導かれている訳ではなかったが、その足取りに迷いは無い。明確な目的地があって進んでいるようにも見える。しかし当のジャックにそんなつもりは無かった。
ただ、ブルーライトニングの感応頭脳である《サブジェイ》が、執拗に早くいけと言っていたのだ。
サブジェイは『多少』特別な感応頭脳だが、機械であるが故にそこへ『気のせい』だとかそういうものは存在しない。なのに『彼』はこの星へ降りて早く行けと言ってくる。
何があるのかは、サブジェイ自身にも分かっていなさそうだった。
硬くて脆いという矛盾した鉱石がジャックの足踏みによって僅かに崩れる。崖になっている地面の切り込みを覗き込むように降っていけば、崖下は思っていた以上に広く一本道のようになっていた。
砕けて砂のように細かくなった鉱石に足跡が付く。ジャックのそれ以外に生き物が残した痕跡は何一つ無いというのに、進んだ先で見つけたものにジャックは言葉を失った。
人が居たのである。
正確には、水晶よりも透明度の高い鉱石の中へ人が入っていた。まるで眠ったまま氷付けにされたようで、目は閉じられていてもその顔色は死人のそれではない。鉱石の中でまだ生きているかのようだ。
最初は鉱石の中に出来た皹による光の屈折が生み出した奇跡かと思った。しかしそれはありえないだろう。手とか足の一部分だったらそれもあり得るかもしれないが、これは全身だ。しかも服を着ている。
服装はジャックが今まで行った事のある何処の星の服装とも違った。奇抜ではないが型遅れか流行遅れ、もっと言うなら旧時代の服か。構造が古い。
眠っている顔のせいで明確な年齢は分からないが、ジャックよりは若いだろう。黒い髪が背中へ流れ、女顔。背丈もジャックよりありそうだ。
ただ、その顔も服も血で汚れていた。
たった今出血したような新鮮な色合いの血。鉱石に阻まれてその傷口までは見えないが、きっと何処かへ怪我をしているのだろう。
もう少し近付いて眠っているその人を観察しようと鉱石へ触れた。途端、ピシリという音が伝わるはずの無い空間で聞こえる。鉱石に触れた手から伝わる振動に危機感を覚えてジャックが飛び退けば、目の前の鉱石は剥離するように崩れ落ちていった。
空気があればその音は凄いものだっただろうが、あいにくこの惑星に空気は無く音の振動も伝わらない。
崩落が終わった後のその場で、崩れ落ちた鉱石を褥に閉じ込められていた人が倒れている。これで見間違いでもなく実際のものであった事が証明された訳だが、ジャックは警戒しつつ慎重にその人へと近付いて手を伸ばした。
その手をすくい上げるように触れれば、暖かい。驚いてその人の胸元へ手を当てると心臓の鼓動と呼吸する振動が伝わってくる。この空気の無い、ジャックでさえ気密服を着なければ行動できない星で、この人物は何を吸っているのか。
訝しげに観察していれば、倒れていたその人が薄っすらと目を開けた。気密服のガラス越しに見た目は、綺麗な紫色をしている。
「……Levi?」
そう言った気がした。
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