WJ
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途端に世界から音が消え、自分の呼吸や心臓の音だけが異様に大きく響く。出血もしていないのに体から熱が失われていくような感覚は、数十日前に味わった経験がある。
インド・カルカッタでの襲撃。
僕たちの仲間、アヴドゥルさんが重傷を負った出来事を思い出す。あの時に味わった感覚ととてもよく似ている。
結果的に彼は命を落としはしなかったが、今回は違う。
僕は、目の前の白い布に視線を落とすことしかできない。布の端から少しだけ見える髪は、つい先日まで入院していた僕の見舞いをし、励まし続けていた、僕のとてもとても大切な女性のそれだ。
エジプトに上陸し、すぐさま僕たちは刺客から襲撃を受けた。その際に僕は目を負傷し、アスワンの病院で治療を受けていたのだが。そこで再会したのが彼女・シオンだ。
シオンとはこの旅の道中で知り合い、奇妙なことに何度か旅先で遭遇し。そして少しずつ親交を深めていった。
霊的なもの……そう、スタンドを見ることができると打ち明けられた時は運命さえ感じた。そんな彼女とアスワンの病院で再び出会い、想いが通じた時はこの上なく満ち足りた気持ちになった。
それなのに、何故。
なぜ彼女がこうして物言わぬ亡骸となってしまったのか。僕と出会ってしまったからなのか。それともこれが彼女の運命なのか。
「もっと君と一緒に過ごしたかった……」
こんな言葉を僕が溢してしまうとは、自分でも意外だ。それほど彼女と過ごした時間はかけがえのないものだと思い知らされる。
拳をきつく握り、声を上げたい衝動を抑え込む。ポルナレフならばこの場で大粒の涙を流し、愛する人の死を嘆き。悔い。そして仇敵への怒りを露わにするのだろう。
こんな僕は薄情な男だろうか。シオン、きみはこんな僕をどう思う?そう問いかけたところで何も答えは返らない。重い静寂が続くだけだ。
いつか人は死ぬ。それは当たり前のことだ。
それでもこんな早く君と離れるなんて。考えたこともなかったよ、シオン。
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