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通っている学校が違うと何かと不便なことが多い。気軽に連絡を取り合うこともできないので、基本的に待ち合わせでの遅刻は厳禁だ。だけど学校生活というものにはイレギュラーが発生するというもの。急に雑務を押し付けられたりもする、学生だもの。そのためわたし達は「遅くともこの時間までは待つ」という取り決めをしていた。
待ち合わせ場所はお互いの学校を起点として大体中間にある小さな公園。丸い文字盤の大きな時計で時刻を確認しながら、並ぶように建てられた東屋で彼を待つ。そんな日々を過ごしていた。
だけど、その日は少し様子が違った。
普段は人の少ない東屋ではあるけど、当然わたしと彼専用のものではない。
小学生のこども達が数名集まり、トレーディングカードの見せ合いに興じていたのだ。随分熱中している様子で、どのカードが珍しいだの、このカードの絵柄がいいだのと盛り上がっている。
流石にこども達から場所をとるわけにもいかず。わたしはいつもの東屋から少しだけ離れた場所に設置されたベンチに腰を下ろした。時刻は十六時過ぎ、いつも通りなら彼はあと数十分で顔を見せてくれるはず。そんなことを考えながら、わたしは読みかけの本を取り出す。
先日彼がお勧めしてくれた書籍で、色々な国の風習やマナーについて書かれたものだ.わたしも彼も異国を訪れる機会が多分少しだけ多い。わかっているつもり、で止まっている事柄もたくさん記されており。彼はこういったものを読んでいるから博識なのだろうかと思った。
「すまない、待たせてしまって」
深緑色の長い学生服をはためかせ、花京院典明くんは小走りに駆け寄ってきた。視線を手元から上へ向けると、大きな時計の短針が随分と進んでいる。よく見ると約束の時間をとうに過ぎていることに、わたしはこの時気づいたのだ。
「今日の日直が体調を崩して学校を休んでしまってね。繰り上げでぼくになってしまった、というやつさ」
「あらら、それは仕方ないね」
お疲れ様、とねぎらいの一言をかけると典明くんは目を細めて応える。こういう時、直ぐに連絡の取れる道具があれば便利なのだろう。少し遅れる、早く着く、急に行けなくなった……など。それでもわたしは思うのだ。彼を待つこの時間も愛しいと。
「少し身体が冷えているな……すまない、ぼくが遅れてしまったばかりに……」
「ううん、平気だよ。
典明くんが貸してくれた本に集中していたのはわたしだし、それに……ほら。こうして手を繋げば十分だもん」
「……シオン」
咄嗟に握った彼の手も外気に当てられていたため冷たかったが、すり、と指を絡めればそんなことは気にならなくなった。彼の視線を捉えて微笑むと、典明くんは「それでよければ」というようにひとつ息を吐いた。
「この間貸してくれた本、まだ最後まで読めてないの。
もう少し借りていても大丈夫かなあ?」
「構わないさ、ゆっくり読むといい。
ぼくはもう何十回も読んだからね」
他愛のない会話を交わし、わたしたちは歩き出す。こんな時間が一日でも長く続きますように。
そう願いながら、絡めた指に少しだけ力を込めた。
待ち合わせ場所はお互いの学校を起点として大体中間にある小さな公園。丸い文字盤の大きな時計で時刻を確認しながら、並ぶように建てられた東屋で彼を待つ。そんな日々を過ごしていた。
だけど、その日は少し様子が違った。
普段は人の少ない東屋ではあるけど、当然わたしと彼専用のものではない。
小学生のこども達が数名集まり、トレーディングカードの見せ合いに興じていたのだ。随分熱中している様子で、どのカードが珍しいだの、このカードの絵柄がいいだのと盛り上がっている。
流石にこども達から場所をとるわけにもいかず。わたしはいつもの東屋から少しだけ離れた場所に設置されたベンチに腰を下ろした。時刻は十六時過ぎ、いつも通りなら彼はあと数十分で顔を見せてくれるはず。そんなことを考えながら、わたしは読みかけの本を取り出す。
先日彼がお勧めしてくれた書籍で、色々な国の風習やマナーについて書かれたものだ.わたしも彼も異国を訪れる機会が多分少しだけ多い。わかっているつもり、で止まっている事柄もたくさん記されており。彼はこういったものを読んでいるから博識なのだろうかと思った。
「すまない、待たせてしまって」
深緑色の長い学生服をはためかせ、花京院典明くんは小走りに駆け寄ってきた。視線を手元から上へ向けると、大きな時計の短針が随分と進んでいる。よく見ると約束の時間をとうに過ぎていることに、わたしはこの時気づいたのだ。
「今日の日直が体調を崩して学校を休んでしまってね。繰り上げでぼくになってしまった、というやつさ」
「あらら、それは仕方ないね」
お疲れ様、とねぎらいの一言をかけると典明くんは目を細めて応える。こういう時、直ぐに連絡の取れる道具があれば便利なのだろう。少し遅れる、早く着く、急に行けなくなった……など。それでもわたしは思うのだ。彼を待つこの時間も愛しいと。
「少し身体が冷えているな……すまない、ぼくが遅れてしまったばかりに……」
「ううん、平気だよ。
典明くんが貸してくれた本に集中していたのはわたしだし、それに……ほら。こうして手を繋げば十分だもん」
「……シオン」
咄嗟に握った彼の手も外気に当てられていたため冷たかったが、すり、と指を絡めればそんなことは気にならなくなった。彼の視線を捉えて微笑むと、典明くんは「それでよければ」というようにひとつ息を吐いた。
「この間貸してくれた本、まだ最後まで読めてないの。
もう少し借りていても大丈夫かなあ?」
「構わないさ、ゆっくり読むといい。
ぼくはもう何十回も読んだからね」
他愛のない会話を交わし、わたしたちは歩き出す。こんな時間が一日でも長く続きますように。
そう願いながら、絡めた指に少しだけ力を込めた。
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