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学年が上がり、俺の日常は大きく変わることとなった。
タバコをやめた。ケンカもやめた。俺たちの溜まり場にしていた部屋の鍵を本来の持ち主に渡した。
最も大きな変化は相撲と出会ってしまったことだった。
小学生くらいの背丈しかない一人の力士に、俺の拳は全く通用せず、一発ぶちかまされてそれで終わり。はっきり言えば完敗だ。
アイツに……潮火ノ丸に負けて以降、しばらく悪夢に魘された。比喩表現じゃなく、マジだ。鬼のように力強いそいつにぶっ飛ばされて目が覚める。
ダチ高最強なんて言われていたが、学校を出たらそんな肩書きにはなんの意味もなくて。ダセェと思っていた奴らよりも、自分の方が遥かに情けないことを思い知らされた。
「今の五條の顔、好きじゃない」
ぴしゃりとそう告げたまっすぐな瞳を、俺は思い出す。それを言われたのはつい先日のことだったが、もう何ヶ月も前のことのように思えてしまう。
久尾津は不思議な女だった。俺のことを不良として扱わない、そのマイペースさが俺は嫌いじゃなかった。
あいつは俺にレッテルを貼って接することはしなかったし、やけに目が合った。こいつは俺のことをちゃんと見てくれている。そう思わせる雰囲気が久尾津にはあったんだ。
久尾津が指摘した「今の顔」は、ダチ高の外を知らない俺のことなんだろう。強豪校の相撲部を目の当たりにして、自分よりデカくて強いヤツにも真っ向勝負仕掛ける火ノ丸の姿を見て。そんなあいつに何度も何度も投げられて……それでようやくわかってきた気がする。
なあ、久尾津。今の俺はどうなんだ。まだ全然変わってねーし、強くもなれてねえけど。
それでも、あのごちゃついた相撲部の部室にふんぞり返っていた俺よりマシになれてっかな。
「……アホくせ」
思わず言葉が漏れた。
今日は入部して初めての地区大会だ。
この間練習に行った石神高校の奴らはもちろん、他の学校にも強そうな奴がゴロゴロいやがる。
一方うちのチームは小学生横綱と呼ばれたヤツが一人だけ。あとは素人(俺のことだ)と、公式戦全敗の男……。それなのに火ノ丸ときたら目を輝かせながら優勝を目指すぞなんて言いやがって。
それでも俺なりにできることはないか考えてしまうのは、久尾津の言葉があったからかもしれない。
思わず会場を見渡してしまう。あっちもこっちも廻し姿の力士や、控え選手であろうゴツいヤツばかり。
時折、場違いなスタイルの人も見かけたが片手のカメラや、鞄から顔を覗かせる相撲雑誌から察するにその手の記者だろう。
「いるわけねーよな」
当たり前だ。久尾津がここにいるわけないんだ。
クラスも違うし、俺が相撲部に入ったことすら知らないかもしれない。
だけど、あいつには……久尾津には俺のことを見ていてほしい。そう思ってしまったんだ。
——
「なあお前見たか?」
「見た見た。さっきの女の子だろ?
なんかな〜憂いのある面持ちが良かったなあ……あとすれ違った時すげえいい香りした!
どっかのマネージャーじゃねえの?」
「俺もそう思ったんだけどよ、なんかそういう雰囲気でもないんだよな。制服だったけど」
「じゃあ誰かのファン……なら石高の沙田か〜?」
「いや、そうでもねえぜ。だって石高のいる予選ブロックと別のとこで見かけたからな」
「そういや、そうか。あれ、どこだっけ、確かあれは……そうだ」
「ダチ高がいたブロックだ!」
タバコをやめた。ケンカもやめた。俺たちの溜まり場にしていた部屋の鍵を本来の持ち主に渡した。
最も大きな変化は相撲と出会ってしまったことだった。
小学生くらいの背丈しかない一人の力士に、俺の拳は全く通用せず、一発ぶちかまされてそれで終わり。はっきり言えば完敗だ。
アイツに……潮火ノ丸に負けて以降、しばらく悪夢に魘された。比喩表現じゃなく、マジだ。鬼のように力強いそいつにぶっ飛ばされて目が覚める。
ダチ高最強なんて言われていたが、学校を出たらそんな肩書きにはなんの意味もなくて。ダセェと思っていた奴らよりも、自分の方が遥かに情けないことを思い知らされた。
「今の五條の顔、好きじゃない」
ぴしゃりとそう告げたまっすぐな瞳を、俺は思い出す。それを言われたのはつい先日のことだったが、もう何ヶ月も前のことのように思えてしまう。
久尾津は不思議な女だった。俺のことを不良として扱わない、そのマイペースさが俺は嫌いじゃなかった。
あいつは俺にレッテルを貼って接することはしなかったし、やけに目が合った。こいつは俺のことをちゃんと見てくれている。そう思わせる雰囲気が久尾津にはあったんだ。
久尾津が指摘した「今の顔」は、ダチ高の外を知らない俺のことなんだろう。強豪校の相撲部を目の当たりにして、自分よりデカくて強いヤツにも真っ向勝負仕掛ける火ノ丸の姿を見て。そんなあいつに何度も何度も投げられて……それでようやくわかってきた気がする。
なあ、久尾津。今の俺はどうなんだ。まだ全然変わってねーし、強くもなれてねえけど。
それでも、あのごちゃついた相撲部の部室にふんぞり返っていた俺よりマシになれてっかな。
「……アホくせ」
思わず言葉が漏れた。
今日は入部して初めての地区大会だ。
この間練習に行った石神高校の奴らはもちろん、他の学校にも強そうな奴がゴロゴロいやがる。
一方うちのチームは小学生横綱と呼ばれたヤツが一人だけ。あとは素人(俺のことだ)と、公式戦全敗の男……。それなのに火ノ丸ときたら目を輝かせながら優勝を目指すぞなんて言いやがって。
それでも俺なりにできることはないか考えてしまうのは、久尾津の言葉があったからかもしれない。
思わず会場を見渡してしまう。あっちもこっちも廻し姿の力士や、控え選手であろうゴツいヤツばかり。
時折、場違いなスタイルの人も見かけたが片手のカメラや、鞄から顔を覗かせる相撲雑誌から察するにその手の記者だろう。
「いるわけねーよな」
当たり前だ。久尾津がここにいるわけないんだ。
クラスも違うし、俺が相撲部に入ったことすら知らないかもしれない。
だけど、あいつには……久尾津には俺のことを見ていてほしい。そう思ってしまったんだ。
——
「なあお前見たか?」
「見た見た。さっきの女の子だろ?
なんかな〜憂いのある面持ちが良かったなあ……あとすれ違った時すげえいい香りした!
どっかのマネージャーじゃねえの?」
「俺もそう思ったんだけどよ、なんかそういう雰囲気でもないんだよな。制服だったけど」
「じゃあ誰かのファン……なら石高の沙田か〜?」
「いや、そうでもねえぜ。だって石高のいる予選ブロックと別のとこで見かけたからな」
「そういや、そうか。あれ、どこだっけ、確かあれは……そうだ」
「ダチ高がいたブロックだ!」