番外
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「……キュウゾウ様……」
カンナ村の近くにある大きな森。その奥に無口な侍が、瞳を閉じ座していた。見る限り怪我をしているようには見えない。胸をなでおろし、シオンは恐る恐る声をかける。小さな声であったが、キュウゾウの耳には届いたようで、彼の深紅の瞳がシオンを捉える。「なんだ」と問いかけられているように感じたその視線を受けて、彼女は言葉を紡ぐ。
「その……無事に戻ってきてくださって……安心しました……」
「……おまえ」
自分の気持ちを言語化したことで感情が昂ったのか。シオンの目元に涙の粒が浮かぶ。突然目の前の女が涙したのだ。さすがのキュウゾウも驚いたようで、平時より目を見開き。思わず声が漏れた。
「あ……ごめんなさい、私、泣いて……。すみません……キュウゾウ様がご無事だったことが…………、嬉しくて…………」
指で目元をぬぐい、シオンはやわらかく微笑む。鬱蒼と茂る森に夕焼けの光が差し込み、彼女の顔を優しく照らした。そんな彼女をキュウゾウは何も言わずただじっと見つめる。彼の視線の真意をうまく汲み取れず、シオンはその場を立ち去ろうと踵を返したが「待て」と短い言葉で制される。
「声が……遠い。近くへ」
来い、ということなのだろう。傍にいても良いというその申し出にシオンの心臓は跳ね、「甘えさせていただきます」と断った後隣に腰を下ろした。
間近でキュウゾウの顔をよく見れば、塵や埃や機械油やらで端正な顔は汚れている。持ち合わせていた手巾に軽く水を含ませ、それらを拭おうと手を伸ばしたが。ぐい、と手首をつかまれる。
「オレよりも先に自分を何とかしろ」
「……えっ?」
「その顔で戻るつもりか?」
そう指摘され、シオンは思わず自身の顔へ手を伸ばす。自分ではわからないが、思っていた以上に涙を流していたようだ。まだ目元には熱が残っている。
どうしようと逡巡するよりも早く手巾を彼に奪われ、優しく拭われる。しばらくされるがままに大人しくしていると「これでいい」と。どこか満足そうな声がかけられた。
覆われていた視界が開かれ、彼女の瞳に映ったのは優し気に目を細めた男の姿。そんな顔をするのか、と見入っていると。すぐにその目は閉じられる。
まだまだ戦は続くのだ。少しでも休み、疲労を癒すのだろう。「一刻だけ休む。起こせ」短くそう言われ、シオンは嬉しさや恥ずかしさや色々な感情を胸に抱き「かしこまりました」と紡ぐだけで精一杯でだった。
カンナ村の近くにある大きな森。その奥に無口な侍が、瞳を閉じ座していた。見る限り怪我をしているようには見えない。胸をなでおろし、シオンは恐る恐る声をかける。小さな声であったが、キュウゾウの耳には届いたようで、彼の深紅の瞳がシオンを捉える。「なんだ」と問いかけられているように感じたその視線を受けて、彼女は言葉を紡ぐ。
「その……無事に戻ってきてくださって……安心しました……」
「……おまえ」
自分の気持ちを言語化したことで感情が昂ったのか。シオンの目元に涙の粒が浮かぶ。突然目の前の女が涙したのだ。さすがのキュウゾウも驚いたようで、平時より目を見開き。思わず声が漏れた。
「あ……ごめんなさい、私、泣いて……。すみません……キュウゾウ様がご無事だったことが…………、嬉しくて…………」
指で目元をぬぐい、シオンはやわらかく微笑む。鬱蒼と茂る森に夕焼けの光が差し込み、彼女の顔を優しく照らした。そんな彼女をキュウゾウは何も言わずただじっと見つめる。彼の視線の真意をうまく汲み取れず、シオンはその場を立ち去ろうと踵を返したが「待て」と短い言葉で制される。
「声が……遠い。近くへ」
来い、ということなのだろう。傍にいても良いというその申し出にシオンの心臓は跳ね、「甘えさせていただきます」と断った後隣に腰を下ろした。
間近でキュウゾウの顔をよく見れば、塵や埃や機械油やらで端正な顔は汚れている。持ち合わせていた手巾に軽く水を含ませ、それらを拭おうと手を伸ばしたが。ぐい、と手首をつかまれる。
「オレよりも先に自分を何とかしろ」
「……えっ?」
「その顔で戻るつもりか?」
そう指摘され、シオンは思わず自身の顔へ手を伸ばす。自分ではわからないが、思っていた以上に涙を流していたようだ。まだ目元には熱が残っている。
どうしようと逡巡するよりも早く手巾を彼に奪われ、優しく拭われる。しばらくされるがままに大人しくしていると「これでいい」と。どこか満足そうな声がかけられた。
覆われていた視界が開かれ、彼女の瞳に映ったのは優し気に目を細めた男の姿。そんな顔をするのか、と見入っていると。すぐにその目は閉じられる。
まだまだ戦は続くのだ。少しでも休み、疲労を癒すのだろう。「一刻だけ休む。起こせ」短くそう言われ、シオンは嬉しさや恥ずかしさや色々な感情を胸に抱き「かしこまりました」と紡ぐだけで精一杯でだった。