番外
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「女、もういい。やめろ」
「いいえやめません。このままほったらかしにしては薬師の名折れでございます」
「俺がいいと言っているのがわからんのか」
「四半刻もかかりませんし、すぐ終わりますから」
そういって薬師シオンはニコリと微笑む。毒気のない笑みを向けられた色眼鏡をかけた侍は困惑するように瞳を細める。これは旅の薬師が虹雅渓へやってきてすぐのことだった。
贔屓にしている顧客への納品が終わり、茶屋で一息つこうとしたところ彼女の目に一人の侍が目に留まった。大通りの片隅、路地裏に続くその場所に腰かけた鋭い目つきの男。深く剃りこまれた髪に薄く色のついた眼鏡。青い口紅を塗ったその侍は肩で息をしながらじっとその場に座していた。
「大丈夫ですか?」
傍から見ても調子が悪そうなのは明らかだった。シオンの仕事柄見過ごす訳にもいかず、ゆっくりと駆け寄りそう尋ねると。「俺に関わるな」と先ほどよりもさらに凄んだ眼光で返されてしまう。
彼女も女一人で旅を続ける身である、異性から睨まれる経験など数えられない程してきた。この程度で怯んでなどいられない。眼前にいる男はどう見ても弱っている。怪我か、病か。どちらなのかはわからないが、薬師としてシオンがとるべき行動は決まっていた。
「私は薬師ですので。関わるなという方が無理なことでございます」
「……斬るぞ」
「それは困ります。せめて貴方様の様子を診た後で判断してくださいませんか?」
「…………」
男は苦虫を潰したような面持ちになる。これ以上抵抗はされないだろう。そう判断したシオンは背負っていた薬箱を地面に置き、慣れた手つきで準備を進める。男を詳しく観察するとどうやら負傷しているようであった。
「失礼いたします」そう短く断り、袴を優しくまくると赤黒く変色した患部が顔を出す。優しく触れるとぐっと眉を顰め、決して平気なものではない事を表していた。
「打撲のようですね……最小限の事しかできませんが……」
そう呟きながらてきぱきと手を動かし、必要なものを取り出す。そんなシオンを男はじっと見つめ、心底不思議そうに言葉を漏らした。
「なぜここまでする」
「……医者ではありませんが、そういった世界に身を置いている者なので」
「酔狂な奴め」
「よく言われます」
ふふふ、と笑うと心なしか頭上の男も微笑んだようにシオンは感じた。胸が温かくなるのを感じながら処置を済ませる。あとは出来る限り安静にしてくださいね、と付け加えたが男はフンと鼻を鳴らしただけであった。
「……ヒョーゴだ。感謝する、女」
「いいえやめません。このままほったらかしにしては薬師の名折れでございます」
「俺がいいと言っているのがわからんのか」
「四半刻もかかりませんし、すぐ終わりますから」
そういって薬師シオンはニコリと微笑む。毒気のない笑みを向けられた色眼鏡をかけた侍は困惑するように瞳を細める。これは旅の薬師が虹雅渓へやってきてすぐのことだった。
贔屓にしている顧客への納品が終わり、茶屋で一息つこうとしたところ彼女の目に一人の侍が目に留まった。大通りの片隅、路地裏に続くその場所に腰かけた鋭い目つきの男。深く剃りこまれた髪に薄く色のついた眼鏡。青い口紅を塗ったその侍は肩で息をしながらじっとその場に座していた。
「大丈夫ですか?」
傍から見ても調子が悪そうなのは明らかだった。シオンの仕事柄見過ごす訳にもいかず、ゆっくりと駆け寄りそう尋ねると。「俺に関わるな」と先ほどよりもさらに凄んだ眼光で返されてしまう。
彼女も女一人で旅を続ける身である、異性から睨まれる経験など数えられない程してきた。この程度で怯んでなどいられない。眼前にいる男はどう見ても弱っている。怪我か、病か。どちらなのかはわからないが、薬師としてシオンがとるべき行動は決まっていた。
「私は薬師ですので。関わるなという方が無理なことでございます」
「……斬るぞ」
「それは困ります。せめて貴方様の様子を診た後で判断してくださいませんか?」
「…………」
男は苦虫を潰したような面持ちになる。これ以上抵抗はされないだろう。そう判断したシオンは背負っていた薬箱を地面に置き、慣れた手つきで準備を進める。男を詳しく観察するとどうやら負傷しているようであった。
「失礼いたします」そう短く断り、袴を優しくまくると赤黒く変色した患部が顔を出す。優しく触れるとぐっと眉を顰め、決して平気なものではない事を表していた。
「打撲のようですね……最小限の事しかできませんが……」
そう呟きながらてきぱきと手を動かし、必要なものを取り出す。そんなシオンを男はじっと見つめ、心底不思議そうに言葉を漏らした。
「なぜここまでする」
「……医者ではありませんが、そういった世界に身を置いている者なので」
「酔狂な奴め」
「よく言われます」
ふふふ、と笑うと心なしか頭上の男も微笑んだようにシオンは感じた。胸が温かくなるのを感じながら処置を済ませる。あとは出来る限り安静にしてくださいね、と付け加えたが男はフンと鼻を鳴らしただけであった。
「……ヒョーゴだ。感謝する、女」
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