番外
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「……ご冗談を」
蝋燭の明かりが夜闇をほのかに照らす。火は揺らめき、ぼんやりと浮かぶ男の顔は自嘲気味に歪んでいる。そんな彼を真っすぐ見つめる女は薄暗がりでもわかるほどに顔を赤く染めていた。
「私が……冗談でこんなことを言うとお思いですか?」
「いいや」
男・ゴロベエはいつかこうなる事をわかっていたのかもしれない。眼前で瞳を潤ませる女は薬師。彼らの旅に同行し、共に目的を果たした仲間であった。
とても真面目で仕事熱心で、博愛精神に満ちた女だ。平時はにこやかに微笑み、人当たり良く立ち回るのに。薬と向き合っているその時は別人のように真剣そのもの。
隣に座し、世間話に興じているだけで戦の時に負った心の傷が癒えていくように。そうゴロベエは感じた。
――だがそれは幻なのだ。
失ったはずの感情は揺さぶられることはない。彼女の纏う温かい気質にあてられているだけなのだ。これ以上踏み込んではいけない。そう何度も自身に言い聞かせてきた。
「ゴロベエ様……ずっと。ずっとお慕いしておりました。私の事を抱いてください」
消え入りそうな声を女・シオンは漏らす。緊張しているのであろう。身体を小さく震わせ、熱の籠った視線を投げかけた。
いくらゴロベエが距離を保とうとしても、シオンはそれを良しとしなかった。そのことにゴロベエ自身も気づいてはいたが……見て見ぬふりを通した。
彼女から向けられる好意が心地よかったのかもしれない。感情を喪ったはずの自分も人を愛せるかもしれないと願ったのかもしれない。
「シオン殿……」
砂糖菓子に触れるかのように優しく女に手を伸ばす。自分と違う柔らかな肌。女の肌。血と埃と鉄と死と。そんなものと隣り合わせで生きてきたサムライとは異質な存在。
(この感情は、幻だ。熱に浮かされて見えてしまった夢幻なのだ)
夢ならば覚めねばならない。幻ならば触れることもかなわない。
「すまぬな」
そう短く告げるだけで精一杯であった。これ以上口を開けば余計な言葉まで出てきてしまいそうで。
蝋燭の明かりが夜闇をほのかに照らす。火は揺らめき、ぼんやりと浮かぶ男の顔は自嘲気味に歪んでいる。そんな彼を真っすぐ見つめる女は薄暗がりでもわかるほどに顔を赤く染めていた。
「私が……冗談でこんなことを言うとお思いですか?」
「いいや」
男・ゴロベエはいつかこうなる事をわかっていたのかもしれない。眼前で瞳を潤ませる女は薬師。彼らの旅に同行し、共に目的を果たした仲間であった。
とても真面目で仕事熱心で、博愛精神に満ちた女だ。平時はにこやかに微笑み、人当たり良く立ち回るのに。薬と向き合っているその時は別人のように真剣そのもの。
隣に座し、世間話に興じているだけで戦の時に負った心の傷が癒えていくように。そうゴロベエは感じた。
――だがそれは幻なのだ。
失ったはずの感情は揺さぶられることはない。彼女の纏う温かい気質にあてられているだけなのだ。これ以上踏み込んではいけない。そう何度も自身に言い聞かせてきた。
「ゴロベエ様……ずっと。ずっとお慕いしておりました。私の事を抱いてください」
消え入りそうな声を女・シオンは漏らす。緊張しているのであろう。身体を小さく震わせ、熱の籠った視線を投げかけた。
いくらゴロベエが距離を保とうとしても、シオンはそれを良しとしなかった。そのことにゴロベエ自身も気づいてはいたが……見て見ぬふりを通した。
彼女から向けられる好意が心地よかったのかもしれない。感情を喪ったはずの自分も人を愛せるかもしれないと願ったのかもしれない。
「シオン殿……」
砂糖菓子に触れるかのように優しく女に手を伸ばす。自分と違う柔らかな肌。女の肌。血と埃と鉄と死と。そんなものと隣り合わせで生きてきたサムライとは異質な存在。
(この感情は、幻だ。熱に浮かされて見えてしまった夢幻なのだ)
夢ならば覚めねばならない。幻ならば触れることもかなわない。
「すまぬな」
そう短く告げるだけで精一杯であった。これ以上口を開けば余計な言葉まで出てきてしまいそうで。