侍7
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私がその方々に助けられたのは本当に偶然だった。
私は村から村を渡り歩く薬売りで、その日は久しぶりに街を訪れていた。やはり人の集まる場所だとよく薬が売れるのだ。
虹雅渓は何度も立ち寄ったことのある場所だし、懇意にしている店舗も多い。女一人の旅路でもあるし、性を悟られぬよう立ち振る舞いにも気を付けてはいたのだが……この日はとにかく運が悪かった。
薬草酒を出している酒屋にいつもの薬草を届けた帰り、笠が少し当たったと因縁をつけられ、大柄なサムライに絡まれてしまった。
とにかく謝罪し、治療費もお支払すると申しているにもかかわらず、頭に血が上ってしまったそのサムライはこちらが提示したものだけでは不十分だと。
もうどうすればいいのか皆目見当つかず、地面にめりこむまで頭を下げ続けるしか私にはできる事がなく。どうすればこの場がうまく収まるのか思案していると、争いの場にそぐわない声が響いた。
声の主の方へ思わず顔を向けると褐色のサムライがそこにいた。もちろん初めて見た顔だ。私のお客様ではない。
大柄のサムライは矛先をそのまま新たな登場人物へ向け、今にも刀を抜き斬り伏せんとする勢いだ。
流石に私が原因で見ず知らずの方を死なせてしまうわけにはいかない。痛手ではあるが、有り金と食事を差し出すしかないと心を決め、そう進言しようとすると
銀の軌跡が空を切り、大柄の男がそのまま膝をつき倒れこんだ。
褐色のサムライ様が無言で納刀し、あぁ、斬ったのかとようやく理解する。そのまま何事もなかったかのように彼が立ち去ろうとしたので、思わず白い外套を掴んで声を上げた。
「助けてくださり、ありがとうございます!」
彼はちらりと私を一瞥し、気にするでないと短く呟く。気にするなと言われても、はいそうですかと引き下がる訳にもいかない。
今は亡き両親からよく言い聞かされていたのだ。受けた御恩はきちんとお返しなさい、と。
「おサムライ様が入って下さらなければどうなっていたかわかりません。
私は旅の薬師。切り傷擦り傷に効果のある軟膏もあります、医療の知識もございます。
お願いします、命を助けていただいたお礼をさせてくださいまし」
そういってもう一度深く、深く頭を下げる。褐色のおサムライ様は困ったような息を漏らし、「その命、失うかもしれぬぞ」と言い捨てる。
その声音はどこまでも真剣で、脅しでも冷やかしでもなかった。
「構いません。そうならぬよう立ち回ります」
正面から視線を受けて応えると、彼は参ったように眉を下げて私の手を取った。
「儂の名は島田カンベエ。お主の名は何と申すか?」
私は村から村を渡り歩く薬売りで、その日は久しぶりに街を訪れていた。やはり人の集まる場所だとよく薬が売れるのだ。
虹雅渓は何度も立ち寄ったことのある場所だし、懇意にしている店舗も多い。女一人の旅路でもあるし、性を悟られぬよう立ち振る舞いにも気を付けてはいたのだが……この日はとにかく運が悪かった。
薬草酒を出している酒屋にいつもの薬草を届けた帰り、笠が少し当たったと因縁をつけられ、大柄なサムライに絡まれてしまった。
とにかく謝罪し、治療費もお支払すると申しているにもかかわらず、頭に血が上ってしまったそのサムライはこちらが提示したものだけでは不十分だと。
もうどうすればいいのか皆目見当つかず、地面にめりこむまで頭を下げ続けるしか私にはできる事がなく。どうすればこの場がうまく収まるのか思案していると、争いの場にそぐわない声が響いた。
声の主の方へ思わず顔を向けると褐色のサムライがそこにいた。もちろん初めて見た顔だ。私のお客様ではない。
大柄のサムライは矛先をそのまま新たな登場人物へ向け、今にも刀を抜き斬り伏せんとする勢いだ。
流石に私が原因で見ず知らずの方を死なせてしまうわけにはいかない。痛手ではあるが、有り金と食事を差し出すしかないと心を決め、そう進言しようとすると
銀の軌跡が空を切り、大柄の男がそのまま膝をつき倒れこんだ。
褐色のサムライ様が無言で納刀し、あぁ、斬ったのかとようやく理解する。そのまま何事もなかったかのように彼が立ち去ろうとしたので、思わず白い外套を掴んで声を上げた。
「助けてくださり、ありがとうございます!」
彼はちらりと私を一瞥し、気にするでないと短く呟く。気にするなと言われても、はいそうですかと引き下がる訳にもいかない。
今は亡き両親からよく言い聞かされていたのだ。受けた御恩はきちんとお返しなさい、と。
「おサムライ様が入って下さらなければどうなっていたかわかりません。
私は旅の薬師。切り傷擦り傷に効果のある軟膏もあります、医療の知識もございます。
お願いします、命を助けていただいたお礼をさせてくださいまし」
そういってもう一度深く、深く頭を下げる。褐色のおサムライ様は困ったような息を漏らし、「その命、失うかもしれぬぞ」と言い捨てる。
その声音はどこまでも真剣で、脅しでも冷やかしでもなかった。
「構いません。そうならぬよう立ち回ります」
正面から視線を受けて応えると、彼は参ったように眉を下げて私の手を取った。
「儂の名は島田カンベエ。お主の名は何と申すか?」
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