短編
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今日の昼食当番は毛利伸くん。
さすが料理が趣味だと公言するだけはあり、味はもちろん、栄養バランスも考えられたメニューとなっており、とても豪華で賑やかなランチタイムとなった。
みんなで食事をした後は自由時間だ。そのまま食後のお茶を楽しむ人もいれば、屋敷の外へ出かける人もいて、本当に自由だ。
わたしは台所に運ばれた沢山の食器の後片付けに勤しんでいた。作られたメニュー数が多かったこともあり、大小さまざまな容器が積み上げられている。
食事を作ること自体は積極的に取り組んでくれるサムライトルーパーの面々だけど、その後の片づけまで気が回る人は意外と少ない。
「ごめんね、シオン。ちょっと作りすぎちゃったね」
そう言って伸くんは少し困ったように微笑む。わたしの隣に並んで、慣れた手つきで食器をすすぎ、そして整頓していく。
伸くんは屋敷で共同生活を始めた当初から、こうして食後の片づけまできちんと参加してくれていた。
「いえいえ、いつも美味しいお料理をありがとうございます。
今日の食事もとっても美味しかったですよ。みんなも嬉しい様子でしたし」
「そう言ってもらえると頑張って作った甲斐があるよ、ありがとう」
心から嬉しそうに言葉を紡ぎ、彼は目を細める。料理をすることは楽しみの一つであり、その結果誰かが喜ぶ姿を眺め、幸せを感じるのだとわたしは思った。
幸せを噛みしめる伸くんを見つめるのは、わたしも好きだ。幸せが幸せを呼ぶ……なんて幸福なサイクルなんだろう。ぼんやりと考えながら一枚、また一枚と食器を片付けていく。
さすがに食器の数が多かったようだ。布巾があっという間に水分を含み、拭き取っても水の軌跡が残る。
「少し通りますね」と彼に一言断り、後ろを通って新しいものに取り換えようとして、ふわりと漂う爽やかな香りに気付く。
オレンジやレモンを思い出させる瑞々しさと、やや遅れて感じられる色気のような。少しだけずしり、と重みを感じる香り。
穏やかに隣に立ったかと思ったら懐にするりと入り込まれ、彼のことしか考えられなくなってしまうみたい。まるで彼にぎゅっと抱きしめられ、体の奥にじんわりと熱を入れられてしまうような。
と、思わず足を止めてしまう。
「どうしたの、シオン」
突然自分の真後ろで止まられたのだ。不思議に思ってしかるべきだろう。伸くんはわざわざ手をとめて、くるりと振り返る。
あ、だめ。いまはこっちを見ないでほしい、だって――
「……あ、えっと」
両の頬があつい。視界が定まらない。
何か弁解したくて開いた口から、適切な言葉が出てこなくて。ただ喉の奥から空気だけが流れ、カラカラと乾くようだ。唇までひりついてしまう。
どうにかして絞り出した言葉は「何かつけていませんか?」という、あまりにも簡素な一言だった。
何かって、何?自分でも表現が足りていないことを痛感させられるそのフレーズに恥ずかしくなり、思わずうつむいてしまう。
だが言葉だけでなくわたしの様子からこちらの言いたい事を汲み取ってくれたのだろう。伸くんは柔らかく目を細める。
「うん、つけてるよ、香水。
この間ナスティの付き添いで東京へ出たときに買ってみたんだ」
どうかな、と爽やかに付け加える彼。漂う香りはそんな彼のイメージぴったりのもので。とっても素敵です、と答えるだけで精一杯。
「こうしてシオンに気付いてもらえるのは嬉しいな。
どんな香りがいいかなって色々試してみたんだ。
昼食を作ったあとにつけたから、きっともう少ししたらまた違う香りになるんじゃないかな」
「香水って確かそういうものですもんね。時間経過で少しずつ変わっていくって、テレビか何かで見ました」
「トップ、ミドル、ラストノートって言うらしいよ。
僕も百貨店の人から教えてもらったんだけどね」
受け売りだよ、と少しいたずらっぽく彼は微笑んだ。
今ただようこの香りはトップノート、だろうか。そしてその奥にちらりと感じられるのがミドルノートなのかな。
それじゃあラストはどう変わっていくんだろう。
「シオンがどう思ったか知りたいから、あとでちゃんと教えてね?」
わたしの考えていることなどお見通しなのか。はたまた表情にでていたのか。
伸くんは少しだけ妖艶な笑みを浮かべ、耳元で甘く囁いた。
甘い刺激が声だけでなく香りと一緒にやってきて。体の奥が、かすかに震えた。
さすが料理が趣味だと公言するだけはあり、味はもちろん、栄養バランスも考えられたメニューとなっており、とても豪華で賑やかなランチタイムとなった。
みんなで食事をした後は自由時間だ。そのまま食後のお茶を楽しむ人もいれば、屋敷の外へ出かける人もいて、本当に自由だ。
わたしは台所に運ばれた沢山の食器の後片付けに勤しんでいた。作られたメニュー数が多かったこともあり、大小さまざまな容器が積み上げられている。
食事を作ること自体は積極的に取り組んでくれるサムライトルーパーの面々だけど、その後の片づけまで気が回る人は意外と少ない。
「ごめんね、シオン。ちょっと作りすぎちゃったね」
そう言って伸くんは少し困ったように微笑む。わたしの隣に並んで、慣れた手つきで食器をすすぎ、そして整頓していく。
伸くんは屋敷で共同生活を始めた当初から、こうして食後の片づけまできちんと参加してくれていた。
「いえいえ、いつも美味しいお料理をありがとうございます。
今日の食事もとっても美味しかったですよ。みんなも嬉しい様子でしたし」
「そう言ってもらえると頑張って作った甲斐があるよ、ありがとう」
心から嬉しそうに言葉を紡ぎ、彼は目を細める。料理をすることは楽しみの一つであり、その結果誰かが喜ぶ姿を眺め、幸せを感じるのだとわたしは思った。
幸せを噛みしめる伸くんを見つめるのは、わたしも好きだ。幸せが幸せを呼ぶ……なんて幸福なサイクルなんだろう。ぼんやりと考えながら一枚、また一枚と食器を片付けていく。
さすがに食器の数が多かったようだ。布巾があっという間に水分を含み、拭き取っても水の軌跡が残る。
「少し通りますね」と彼に一言断り、後ろを通って新しいものに取り換えようとして、ふわりと漂う爽やかな香りに気付く。
オレンジやレモンを思い出させる瑞々しさと、やや遅れて感じられる色気のような。少しだけずしり、と重みを感じる香り。
穏やかに隣に立ったかと思ったら懐にするりと入り込まれ、彼のことしか考えられなくなってしまうみたい。まるで彼にぎゅっと抱きしめられ、体の奥にじんわりと熱を入れられてしまうような。
と、思わず足を止めてしまう。
「どうしたの、シオン」
突然自分の真後ろで止まられたのだ。不思議に思ってしかるべきだろう。伸くんはわざわざ手をとめて、くるりと振り返る。
あ、だめ。いまはこっちを見ないでほしい、だって――
「……あ、えっと」
両の頬があつい。視界が定まらない。
何か弁解したくて開いた口から、適切な言葉が出てこなくて。ただ喉の奥から空気だけが流れ、カラカラと乾くようだ。唇までひりついてしまう。
どうにかして絞り出した言葉は「何かつけていませんか?」という、あまりにも簡素な一言だった。
何かって、何?自分でも表現が足りていないことを痛感させられるそのフレーズに恥ずかしくなり、思わずうつむいてしまう。
だが言葉だけでなくわたしの様子からこちらの言いたい事を汲み取ってくれたのだろう。伸くんは柔らかく目を細める。
「うん、つけてるよ、香水。
この間ナスティの付き添いで東京へ出たときに買ってみたんだ」
どうかな、と爽やかに付け加える彼。漂う香りはそんな彼のイメージぴったりのもので。とっても素敵です、と答えるだけで精一杯。
「こうしてシオンに気付いてもらえるのは嬉しいな。
どんな香りがいいかなって色々試してみたんだ。
昼食を作ったあとにつけたから、きっともう少ししたらまた違う香りになるんじゃないかな」
「香水って確かそういうものですもんね。時間経過で少しずつ変わっていくって、テレビか何かで見ました」
「トップ、ミドル、ラストノートって言うらしいよ。
僕も百貨店の人から教えてもらったんだけどね」
受け売りだよ、と少しいたずらっぽく彼は微笑んだ。
今ただようこの香りはトップノート、だろうか。そしてその奥にちらりと感じられるのがミドルノートなのかな。
それじゃあラストはどう変わっていくんだろう。
「シオンがどう思ったか知りたいから、あとでちゃんと教えてね?」
わたしの考えていることなどお見通しなのか。はたまた表情にでていたのか。
伸くんは少しだけ妖艶な笑みを浮かべ、耳元で甘く囁いた。
甘い刺激が声だけでなく香りと一緒にやってきて。体の奥が、かすかに震えた。
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