長編
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わたしの両親は伝奇学の権威と呼ばれる柳生博士の助手として長く働いている。博士には孫娘が一人いた。家族ぐるみでの付き合いもあり、少し年上の彼女と過ごす時間は自然と多かった。
いつの間にか周囲からは「本当の姉妹のようだ」と言われるようになり、可愛がられた。わたしの両親も博士もそう言われることをよく思っていたようで、時折顔を合わせて目を細めていたのを覚えている。
ある日、不幸な事故が起こり、わたしの両親は帰らぬ人となった。突然天涯孤独の身となってしまったわたしを引き取ると申し出てくれたのは両親にとっても恩のある柳生博士その人だった。
博士はわたしを引き取り、養育するだけではなく実の孫娘と同じように愛情をわたしに注ぎ、教育の機会を与えてくれた。子どもながらに強い恩義を感じており、わたしに何かできませんかと尋ねたが博士は「子どもがそんな気を遣わなくてよい」と優しく制してくれた。
子どもながらに胸の奥が熱くなるのを感じた。あの時から、わたしはぼんやりと「この身を柳生家のために使いたい」と思うようになったのかもしれない。
料理を学び、掃除洗濯も覚え、同い年の子が遊びに興じる時間を読書や博士の膨大な資料を読み、自分なりに力になれる事はないかと模索し続けた。
おかげで年の割に色々とできることは多いと自負しているし、実際博士やナスティお嬢様からお褒めの言葉もいただけた。
はじめて褒めて頂いた日は嬉しくて嬉しくて、夜に部屋で小躍りしたことを今でも覚えている。
何年も三人で生活をしていたのだけど、ある日博士が不穏な碑文を見つけたのだ。世界の危機を予感させるその内容を受け、お嬢様は東京へ向かい。わたしは博士の元に残ることにした。
千石大学に残り、日本に今起きている異変を打開するための情報を調べていた博士の元に妖邪が現れ……わたしはすんでのところで逃げ出すことができたのだけど。博士は帰らぬ人となってしまった。
――わたしは、生涯を捧げると誓った恩人を置いて逃げてしまった。
そんな臆病者なのです。
そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。初対面の少年たちにこんな話をしても意味はないだろう。わたしは柳生家の……ナスティお嬢様のために尽くす使用人。そのように認識してもらえれば十分なはず。
「と、いうのがわたしの簡単な生い立ちを含めた自己紹介です。
北海道の大雪山へ向かわれたナスティお嬢様に代わり、皆様のサポートをさせていただきます久尾津シオンと申します。
烈火のリョウ様、水滸のシン様、そして純さま。よろしくお願いいたします」
わたしは努めて穏やかな声色で言い、湯気の立つカップを彼らに手渡した。
リョウ様は鋭かった視線を少しだけ和らげ、シン様は柔らかく微笑みかけ。純さまは無邪気に声を上げて笑いかけてくれた。
いつの間にか周囲からは「本当の姉妹のようだ」と言われるようになり、可愛がられた。わたしの両親も博士もそう言われることをよく思っていたようで、時折顔を合わせて目を細めていたのを覚えている。
ある日、不幸な事故が起こり、わたしの両親は帰らぬ人となった。突然天涯孤独の身となってしまったわたしを引き取ると申し出てくれたのは両親にとっても恩のある柳生博士その人だった。
博士はわたしを引き取り、養育するだけではなく実の孫娘と同じように愛情をわたしに注ぎ、教育の機会を与えてくれた。子どもながらに強い恩義を感じており、わたしに何かできませんかと尋ねたが博士は「子どもがそんな気を遣わなくてよい」と優しく制してくれた。
子どもながらに胸の奥が熱くなるのを感じた。あの時から、わたしはぼんやりと「この身を柳生家のために使いたい」と思うようになったのかもしれない。
料理を学び、掃除洗濯も覚え、同い年の子が遊びに興じる時間を読書や博士の膨大な資料を読み、自分なりに力になれる事はないかと模索し続けた。
おかげで年の割に色々とできることは多いと自負しているし、実際博士やナスティお嬢様からお褒めの言葉もいただけた。
はじめて褒めて頂いた日は嬉しくて嬉しくて、夜に部屋で小躍りしたことを今でも覚えている。
何年も三人で生活をしていたのだけど、ある日博士が不穏な碑文を見つけたのだ。世界の危機を予感させるその内容を受け、お嬢様は東京へ向かい。わたしは博士の元に残ることにした。
千石大学に残り、日本に今起きている異変を打開するための情報を調べていた博士の元に妖邪が現れ……わたしはすんでのところで逃げ出すことができたのだけど。博士は帰らぬ人となってしまった。
――わたしは、生涯を捧げると誓った恩人を置いて逃げてしまった。
そんな臆病者なのです。
そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。初対面の少年たちにこんな話をしても意味はないだろう。わたしは柳生家の……ナスティお嬢様のために尽くす使用人。そのように認識してもらえれば十分なはず。
「と、いうのがわたしの簡単な生い立ちを含めた自己紹介です。
北海道の大雪山へ向かわれたナスティお嬢様に代わり、皆様のサポートをさせていただきます久尾津シオンと申します。
烈火のリョウ様、水滸のシン様、そして純さま。よろしくお願いいたします」
わたしは努めて穏やかな声色で言い、湯気の立つカップを彼らに手渡した。
リョウ様は鋭かった視線を少しだけ和らげ、シン様は柔らかく微笑みかけ。純さまは無邪気に声を上げて笑いかけてくれた。
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